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DXのための人材をどう確保するか ~日米の違いが明らかに

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情報処理推進機構(IPA)が「DX白書」を公開しました。デジタルトランスフォーメーション(DX)の現状について戦略、人材、技術の観点から掘り下げ、日本企業と米国企業の比較を行ったものです。今年7-8月の調査ということですので、結構早く結果が公表されたのではないかと思います。その内容は驚くべきものでした。

IPA、「DX白書」を公開--DX推進の中身で日米に顕著な差

タイトルからして、日米で差が出たのだろうなあ、とは思っていましたし、日本のDXが遅れているという記事も書きましたが、今回政府系の調査としてこれだけの差が出てきたというのは驚きです。「崖」からはすでに落ちてしまっているのかも知れません。

gake_tasukeru.png全体は400ページ近くありますので、まだ全然読めていませんが、全体としては、ZDnetの記事で担当の方が言っているように、

「DXのデジタルのイメージよりDXを技術的に捉えがちだが、白書ではビジネスの立場からテクノロジーを理解してDXを戦略、経営の観点で推進する人々を対象にしている」

という傾向が濃厚です。第1部「総論」第2部「DX戦略の策定と推進」第3部「デジタル時代の人材」第4部「DXを支える手法と技術」となっており、人材について大きな割合が割かれています。私も、この人材こそがDX推進のキモだと思っていますので、この点を中心に見ていきたいのですが、まず最初に、記事に出てこないデータから見てみましょう。

DXへの取り組み状況

白書の第1部、それも一番最初の図表が日米のDXへの取り組み状況です。(DX白書2021の全文はこちら

キャプチャ.PNG

日米の差は明らかです。「取り組んでいる」で2倍近い差がありますし、「取り組んでいない」は2倍以上の差があります。しかも日本では、「全社で取組んでいる」よりも「一部の部門において取組んでいる」が多くなっています。このブログでも書いていますが、DXは全社で取り組まなければ大きな効果は望めません。特に「DX推進室」や「DX企画室」といった取り組みがなかなか効果を上げられないでいる、という話はよく聞きます。「一部の部門」がこれらを含んでいるとすると、実態はもっと遅れているのかも知れません。

ところで、よくわからないのが「創業よりデジタル事業をメイン事業としている」という設問です。気持ちとしては「デジタルネイティブ=当然DX済みですよね」ということなのかも知れませんが、デジタル事業を営んでいることとDXが実現できているかどうかは関係ないはずです。

DX人材

DXを担う人材についても、日米でその考え方、育成の取り組みで大きな差が出ました。ZDnetの記事では

日本の上位3つがリーダーシップ「実行力」「コミュニケーション力」、米国では「顧客志向」「業績志向」「変化志向」

ということで、米国が明確にイノベーションを期待しているのに対し、日本はどちらかというと内向き(社内の調整役を期待している)なスキルを重視する傾向にあるように思えます。

さて、DX人材の充足状況については『「やや過剰」「過不足ない」の割合が日本で17.3%、米国では54.2%だった』ということで、日本では圧倒的な人材不足です。それにも関わらず、その人材を育成するという活動でも日本は後れを取っています。

人材の確保は、外部からの調達では足りないとされることが多く、内部の人材の学び直し(リスキリング)も必要とされる。

とした上で、「全社員あるいは一部社員にリスキリングを行う考えの企業は、日本では24.0%、米国では72.1%だった」ということで、育成の面でも日本は大きく立ち後れていると言えます。さらに、

ITリテラシー向上の施策について、日本の53.7%が「実施していない」と答えた。米国は12.7%だった。

53.7%って、最初の図表の「DXに取組んでいない」の33.9%よりも多いんですが。。

DXに取り組んでいると答えた企業の中で、リテラシー向上に取り組んでいない会社があるということでしょうか。DXは企業全体のデジタル変革を目指すものであるならば、一部の担当者だけで無く、企業を構成する個々の社員全員のITリテラシーを引き上げていくことも必要なのではないでしょうか。

日本は人材育成について戦略を立て直すべき

白書中のコラムで日経BPが行った日本国内の調査の結果が紹介されており、そこには『DX領域で採用・育成を強化すべき人材像の1番人気は、「変革リーダー(DXを主導するリーダー)」(58.5%)だった。』ことが紹介されています。「社内を」変革してくれるリーダーを最も必要としている時点で、内向きとも言えますし、そもそもこれは経営層がリーダーになるべきで、育成するものでも無いような気もします。

その一方で、「日本企業の変革を担う人材を評価・把握するための基準の有無」について聞いた結果では、「基準がある」と応えたのはわずか1.7%で、「基準は無い」が81.2%、「わからない」が17.1%でした。基準が無ければ、育成できたかどうかを判定することはできません。

こうしてみると、日本では個々の対策が遅れているという前に、全体的な戦略/ロードマップが描かれていないのではないかという懸念が生じます。この白書の発表を機に、今一度DX戦略を見直し、人材の育成・確保を組み込んだ全体戦略を立て直すべきなのかも知れません。

 

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