動き出したソフトバンク ~Nvidia が見た夢を実現できるのか
先週、OpenAIのアルトマンCEOが数百兆円の資金を集めて半導体業界の再編を目指しているという記事を紹介しましたが、ソフトバンクが新しい動きを見せました。
「関係者が明らかにした」ということで、ソフトバンクやアーム自身はコメントを「差し控えて」いるそうですが、「否定」はしていないようですね。プロジェクト名も「Izanagi」と決まっているようです。ただ、先週発表されたアルトマン氏の構想とは関係ないとのこと。
イザナギは現時点においてアルトマン氏の野望とは別のものだと、関係者は述べた。
先週の時点でアルトマン氏は孫氏と会談済みということでしたから、何の関係も無いとは思えません。「現時点」ということですから、将来的に何らかの接点があるのかも知れませんね。
ソフトバンクがAI半導体に参入するということは、他の投資会社やベンダーが参入するのとは大きく異なります。それは、ソフトバンクにはArmがあるからです。上の記事にも、「半導体設計会社アームを補完するような会社を構想」とあり、今回のプロジェクトが明確にArmとのシナジーを狙ったものであることがわかります。
これは見方を変えれば、ArmがAI半導体を手に入れるということで、それはGPU最大手のNvidiaが望んで手に入れられなかったものです。これは、ソフトバンク自らが、Nvidiaの描いた夢を実現させるという構図にも見えます。世界のAI半導体の勢力図を塗り替えるには十分なインパクトがありそうです。
Armを買収しようとして叶わなかったNvidia
Nvidiaは今や押しも押されもしないGPUのトップベンダーです。昨今の生成AIブームで、その時価総額は今やAmazon/Googleを抜き、米国で3位です。そのNvidiaがどうしてもほしかったのが、Armでした。GPUというアクセラレータで市場を席巻しつつあったNvidiaは、CPUであるArmをソフトバンクから買収してコンピュータシステムとしてのコンポーネントを揃えようと意図したのですが、Nvidiaの力が強力になりすぎることを怖れた世界中のITベンダーや規制当局が「公正な競争が阻害される」として、寄ってたかってそれを阻止したのです。
NvidiaもArmも生成AIのおかげで上場来最高値を更新する日々が続いていますから、買収が成功していたらもの凄い巨大企業が誕生していたでしょうから、その点では業界の懸念は当たっていたとも言えます。
Armの再起動はソフトバンクの元々の計画でもあった
しかしソフトバンクも、Armを買収したときには、Armをソフトバンクの事業の中核に据えようというビジョンがありました。しかし、当初目論んだIoT市場の立ち上がりは鈍く、他の投資案件の不振も手伝って、Armのポテンシャルを活かす一手がなかなか出てこなかったと言えます。そのうちに他の投資案件での失敗やコロナによる不況もあり、Nvidiaへの売却を模索しましたが、前述の通りそれも叶わず、それならばと当初の計画通りArmを再上場させて、今後はAIに賭けようという流れになったのです。今のところ、その目論見は当たっていると言えます。
先週書いたように、今やGPU不足がAIの進化の足を引っ張っている状況です。これからもAI半導体やGPUへの需要は高まり続けるということが、一定の確度で示されたということでしょう。半導体への投資は巨額ですし、リスクも高いものですが、AIチップへの投資は比較的安全と言えます。これによりソフトバンクがArmの価値を最大限に引き出すことができるのか、今後の動きに注目です。