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生成 AI の登場によって、2025年の崖はさらに深くなった

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今年最初のブログで「2024年は生成AIが本格的に普及する年になるでしょう。」と書きましたが、ここまでとは思いませんでした。新しいサービスが怒濤のごとくリリースされ、既存のサービスもどんどんパワーアップしています。あまりのスピードに、世の中はどんどん先へ進んでいるのに、自分はおいていかれるのではないかという不安に襲われます。しかし、本当にそうなのでしょうか?

ITソリューション塾でも毎回お話しいただいている戸田孝一郎さん(日本におけるアジャイル開発実践の第一人者と思っています)のFacebookへの書き込みに「ああ、そうか」と思うことがありました。元ネタは「スクラム」の作者であるジェフ・サザーランド氏のLinkedInへの書き込みに対するコメントです。(ジェフが考案したスクラムは、アジャイル開発の手法です)

If you fail at agile, you will fail at AI (アジャイルで失敗するなら、AIでも失敗する)

世界中に推定6万3千のAI関連企業があり、あらゆる業界のすべての人がAIを採用するために競っていますが、誰もが何が起こるかを予測していません。私たちができることは準備することであり、それにはスティーブ・デニングの最近のForbesの記事で説明されているように、さらなる適応能力やアジリティが必要です。基本的な準備の方程式は「AIが変化を引き起こしている。アジリティは変化に対応するためのマインドセットと実践を提供する。」です。

背景がわからないので、どういった文脈でこれが書かれたのか私もよくわかっていませんが、注目したのはAIについて「誰もが何が起こるかを予測していません」という部分です。AI関連企業や先進的なユーザー企業ですら、このテクノロジーが将来何をもたらすか、必ずしも具体的なイメージを持っていないというのが本当のところなのではないでしょうか。もちろんある程度の見込みはあるでしょうが、それよりは巨大な可能性を感じ、未来を信じて膨大なヒト、モノ、カネが流れ込んでいるというのが実情なのではないかと思います。

mark_business_vuca.png上に引用したコメントでは、それに対応するために重要なのは適応能力やアジリティだと言っています。DXが盛り上がりを見せていた頃に、VUCAという言葉が注目を集めました。VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、変化が速く、予測が困難である状況を意味します。現代はVUCAの時代であり、それに対応するためには状況の変化に迅速かつ柔軟に対応できるよう組織を作り変えておく必要がある、というのが、DXが目指していたゴールです。つまり、大事なのはDXを進めることで、その結果生成AIがもたらすどのような変化にも対応できるようになる、ということです。それが、「If you fail at agile, you will fail at AI (アジャイルで失敗するなら、AIでも失敗する)」ということなのでしょう。

DXの重要性が失われたのではなく、DXの必要性が増したということ

昨年の生成AI騒ぎのせいで、「AIがすっかりDXのお株を奪ってしまった」「DXは影が薄くなった」と思っていましたが、それは間違った認識で、実はこの「どうなるかわからないAI」が出てきたことで、「変化に柔軟かつ迅速に対応できる体制を整える」というDXの役割が、さらに重要になったということなのかも知れません。経産省が警告した「2025年の崖」がすぐそこに迫っているこのタイミングで、IT史上最大級の予測困難な変化が起きようとしているのです。これまでですら、DXへの取り組みへの遅れを指摘されてきた日本企業にとっては大きな問題です。生成AIは、崖の深さをさらに深める結果となってしまったのではないでしょうか。つまりは、

If you fail at DX, you will fail at AI (DXで失敗するなら、AIでも失敗する)

ということになるのでしょう。

 

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