日本は2025年の崖を回避できるのか
今年一番のバズワードとなりそうな「デジタルトランスフォーメーション(DX)」ですが、どうもこれまでのシステム導入の延長線上でのイメージや、あるいは単なるクラウドへの移行を指しているような議論も多いように思います。まあ、バズワードだから仕方がない部分もあるのですが。
ITソリューション塾でも最近この話をしていますが、私達の考えでは、DXはこれまで日本企業が行ってきた「IT化」の延長線上にあるのではなく、「企業構造の抜本的な改革」を指すということです。詳しくはこちらをご覧下さい。
クラウドと現実世界を統合するCPS(Cyber-Phisical System)、アジャイル開発やDevOpsなどにより、ITシステムの開発や運用は迅速化しています(日本では正しいアジャイル/DevOpsが導入されていない、という議論もありますが、それはまた別の話として)が、一方で迅速化した開発・運用に企業の他の部門(営業や企画・経営)がついていけないという状況になっています。それに対応できるように、事業プロセスを見直し、徹底的なIT化を行わなければならないのです。これが、「全ての企業が本質的にIT企業になる」ということであり、「あらゆるユーザ企業が"デジタル企業"に。」ということです。しかし、この転換には相応の時間がかかるでしょう。
経産省の危機感
そのような中、9月に経済産業省がちょっと変ったレポートを公開しました。
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました
お役所がまとめるレポートというと、データや現状分析はしっかりしているけれども、技術動向や将来の見通しについては安全側に寄り気味、というようなイメージがあったのですが、このレポートはタイトルに「崖」とあるように、「このまま何もしなければ日本経済は崖から落ちる。今なんとかしないと。」という危機感に満ちたもので、これまでとちょっと違うレポートだなあ、と思っていました。
レポートについてはいろいろ報道もありますので、注目したい点のみ引用します。冒頭で
あらゆる産業において、新たなデジタル技術を使ってこれまでにないビジネス・モデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起ころうとしています。
と始まり、
しかしながら、(中略)ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないというのが多くの企業の現状です。
と、危機感を露わにしています。そして、DXが進まない理由を「老朽化・複雑化・ブラックボックス化」した既存システムにあるとし、この問題を解消(≒システムの刷新)できない場合、DXを実現できないばかりでなく、既存システムの維持管理費が高額化し、担当者の不足などが加わり、2025年以降最大12兆円/年の経済損失が生じる負のスパイラルに陥る可能性があるとしており、これが報告書のタイトルにある「2025年の崖」です。
「異例の報告書」
先週には日経XTECHも以下の様な記事でフォローしています。
やはり「異例」だったのですね。
いわば国が企業に対して基幹システムの刷新を迫った格好だ。言うまでもなく、システムの更新時期は企業が独自に判断すべきこと。異例の報告書と言ってよい。
そして、ここからがさすが取材力のあるメディアの仕事で、経産省の担当者に直接話を聞いています。
「どんなシステムを使っていようが国からとやかく言われる筋合いはない、との批判が出ることは承知している。本来的にはその通りだが、現在の状況が続けば社会的な損失につながると分かったので看過できなくなった」
やはり、相当の危機感を持って作られたレポートだったようです。
改革は間に合うのか?
しかし、冒頭に書いたように、多くの企業は「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は知っており、「取り組ん」でもいるのですが、本質的な議論が盛り上がっているように見えません。経産省のレポートには【2018~、できるものからDX実施】との文字もあり、「今すぐにでも手を付けないと!」という気持ちが見え隠れします。果たして、日本企業は「今すぐに」(あるいは少なくともあと7年で)変われるのでしょうか。