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●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【91.8%】 氷河期の再来に喘ぐ就活学生は、新卒一括採用に守られているという矛盾

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 厚労省と文科省が発表したところによれば、2010年3月大学卒者の就職率は【91.8%】となったようですね。メディアの表現をそのまま借りれば、第2の就職氷河期ではないかと。

就職率:大学生91.8% 99年度に次ぐ2番目の低さ
 厚生労働省と文部科学省は21日、今春(2009年度)卒業の大学生の就職率(2010年4月1日現在)を公表した。大学生は2年連続で下落し【91.8%】(前年度同期比3.9ポイント減)となった。下落幅は96年度の調査開始以来、過去最大で、就職率も99年度の91.1%に次ぐ低さ。厚労省調べの高校生の内定率(10年3月末現在)も93.9(同1.7ポイント減)と2年連続で前年度を下回り、第2の「就職氷河期」とも言える状況だ…(後略)…

毎日jp 2010年5月21日10時53分付け記事より一部引用

 こうした状況下、現在2011年3月卒予定者の就活がピークを迎えているわけで、そこで起こっている問題の一端を、先回のエントリー『優秀な学生を採用するために選考を重ねることが、優秀な学生を育む機会を奪っているという矛盾』で紹介したわけです。選考が長期・多層に渡り、疲弊する就活学生の姿は、実例に乏しくありません。先日話を聞いた学生は、奇しくもこんなことを漏らしていました。
 

誰が悪いわけじゃないけど、時代が悪かった

 
そうつぶやきたくなる学生の気持ちは察してあまりあります。先回のエントリーに対して、いろんな声が寄せられました。その中には、選考を重ねることで学生を追い込む企業姿勢を非難する声が散見されました。また今の大学が就職予備校化しているのではという耳の痛い指摘も見られました。そして、日本固有の新卒一括採用を止めて中途採用と一体化し、採用時期をフレキシブルにしてはどうかという意見も見かけました。
 
 果たして、今の学生は時代の被害者なんだろうか。企業の採用活動はどう改善すべきなんだろうか。大学のキャリア教育はどうあるべきなんだろうか。新卒一括採用という日本的な雇用システムそのものにメスを入れるべきなんだろうか。
 
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 冒頭に、【91.8%】という就職率、第2の就職氷河期という表現を引用して紹介しました。ここに至るまでの就活状況を加味すれば、結果も過程も問題は山積みということになるのかもしれません。
 
 ここで、新卒一括採用という雇用慣行のない海外に目を向けてみましょう。たとえば米国。昨今の景気低迷の引き金は、みなさんも知るリーマンショックと言われているわけですが、その当事国である米国の就活事情はどうなっているのでしょうか。
 
 毎日コミュニケーションズの米国法人・Mainichi Communications, Inc.が昨年10月2日に発信したレポートでは、苦しんでいる状況がリアルに記されています。

2割を切る新卒就職率‐新卒就職は狭き門
 2009年夏にアメリカの大学を卒業する新卒者の就職率は、19.7%と大変厳しい数字となりました。アメリカの大学と企業のネットワーク組織 National Association of Colleges and Employers (NACE)の調査によれば、好景気であった2007年の就職率は51%に達していましたが、リーマン・ショック直前の2008年卒では26%と急降下し、今年はそれを更に下回る結果となりました…(後略)…

※Mainichi Communications, Inc. アメリカ人材ビジネスレポート 2010年10月2日付けより一部引用
 
 
米国も“就職氷河期”「新卒難民」が急増中
 …(前略)…名門大学の卒業生も不況のあおりを受けている。昨年、ハーバード大学の学生のうち、卒業式以前に就職が決定していたのは全体の33%で、前年の51%から落ち込んだ…(後略)

SankeiBiz 2010.5.25付記事より、一部引用

 なんと米国大学生の(卒業時点での)就職率は19.7%、名門ハーバードでさえ、33%という超低い就職率だというのです。みなさんご存じでしたでしょうか。
 
 元々米国には新卒一括採用という雇用システムがなく、大学卒業時点での就職率は好景気時でも半分程度だとされています。

…(前略)…アメリカの場合は、「新卒採用」という概念は無く、新卒者も転職者と同様にポジション(役職)採用となります。新卒者は通常“entry-level”というポジションに応募しますが、リストラでこれらのポジションが削減されていることや、新卒者だけでなく、未だ就職できていない昨年の卒業者や第2新卒組、入社1~2年でレイオフされた若年層も応募してきますので、競争が一層激しくなっています…(後略)…
 
※上述のアメリカ人材レポートより一部引用

 新卒・中途という垣根ではなく、もちろん年齢や性別でもなく、能力や経験に応じて仕事と処遇が決まる米国式雇用。昨今の経済状況で雇用が絞られている環境下では、新卒学生が窮地に追い込まれるのは半ば必然だと言えます。それに対して、日本の新卒一括採用は、社会経験者に比すれば、概して職務能力も知識技能も社会経験も劣ることは分かっていながら、将来の戦力として、一定数の新卒学生を組織ピラミッドに組み込んでいくわけです。つまり、
 
日本の学生は、新卒一括採用という雇用システムに守られて、社会人へのパスポートを手に入れている
 
という見方もできるのではないでしょうか。就活プロセスは大変厳しいものがあるにせよ、そこに無数の矛盾があるにせよ、です。記録上2番目に低い就職率と言われながらも、です。
 
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 だからといって、今の就活は仕方ない、とはならないと思います。どう考えても、ここまで長期化している就活は異常なことであり、これは学生本人はもちろん、採用する側の企業にも、大学をはじめとする教育機関にも大きな負担であるということ。誰もが喜ばない現状があるとすれば、それを肯定することはできません。
 
 ただその処方箋として、今の日本的な新卒一括採用を全面否定するなら、学生の就活はもっと混沌とした状況になる可能性があるということだけは、頭に置かなければならないと思います。

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