【87.6社】 優秀な学生を採用するために選考を重ねることが、優秀な学生を育む機会を奪っているという矛盾
さすがに就活ピーク時期ということもあって、大学内でスーツ姿の学生を見かけることが普通になっている昨今。先回も紹介した株式会社ディスコの調査で、「5月1日現在の一人あたりのエントリー社数平均は【87.6社】」という結果が出ていますが、このままでは100社を突破するのも時間の問題かもしれません。就活の負担は、学生に相当重くのしかかっています。 ただそれにしても、今の新卒採用は、企業も学生も、大量の時間を費やしすぎている。学生を見極めるのに、いったい何度のプロセスが必要なのだろう。「数をこなせば力がつく」と学生に言わしめる面接って、何なのだろう。
そんな中で今週、ある学生の就活相談を受けた後で、彼がつぶやいた言葉が妙に耳に残っています。
「エントリーシートを出すまでが長いんです」
彼の言葉の意味は、仮に応募したい企業があって、そこに申し込もうと思っても、エントリーシートを出すまでに「仮エントリー」「プレエントリー」といった関門が設けられており、そこでは「WEBテスト」「質問会」「会社説明会」などがあり、それを経ないと応募すら受け付けてもらえないということらしい。説明会への参加すら順番待ちとなる企業も続出しているようです。
応募前に企業を知る機会が提供されることは、学生にも大きなメリットがあります。また企業側から考えても、応募の前にその企業を知る機会を提供することは正当な手続きであり、「無意味な応募」「とりあえずの応募」「考えてない応募」を減らすという意味でも、正しい手法なのかもしれません。また増え続けるエントリーシートへの対応として、そこに至る前に絞り込む関門を設けるというのも、理解はできます。ただ、これはまだ選考の入口の話なのです。
やっと入口を通過できたら、その後はエントリーシートや履歴書を提出して書類選考を受け、次に筆記試験や適性検査を経て、事前選考が完了となります。その後やっとグループ面接、社員面接、管理職面接、重役面接といった面接何重奏に辿り着く…みたいなのが最近の就活プロセスだと聞くと、そりゃ本当に大変だという思いがこみあげてくるわけです。
バブル崩壊後、にわかに使われ出した「厳選採用」というフレーズ。企業が求める人物に合致した学生を、多種多様な選考方法を重ねて、じっくり選び出す。そんな流れが加速しているのが昨今で、最終的に内々定が出るまでには数ヶ月かかるという企業も少なくないようです。それはそれで筋は通っている話なのですが、しかし、です。
本当にそんなに何度もの選考が必要なのでしょうか。選考方法に矛盾や無理はないのでしょうか。それほどまでに工数をかけないと、必要な人材の選考ができないのでしょうか。工夫の余地はないのでしょうか。
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これは株式会社ディスコ調査広報室長である前岡巧さんのつぶやきです。上述したような長期に渡る選考プロセスは、さすがに学生にも企業にも負担が大きすぎるように見えるのではないでしょうか。どう考えても、学生生活の半分が就活期間になりかねないような今の状態は、さすがに尋常ではないと思ってしまうわけです。現状のままでは、失うものも大きいのではないでしょうか。過度な負担は、学生のエネルギーを奪い、自分に合った会社を仕事を探そうという気力をも奪ってしまいかねません。
そうした精神論でなくても、たとえば採用活動という企業活動に、生産性という視点はないのだろうか。「厳選採用」という御旗の前に、生産性という考え方はタブーなのでしょうか。
そして最も大きな疑問は、企業は優秀な学生を採用するために選考を重ねているはずなのに、あまりに長すぎる就活期間が、学生本来の学業はもちろん、学生ならではの経験や挑戦をする機会・時間・エネルギーを奪ってしまい、結果として優秀な学生を育むことを阻害しているのではないか、ということ。今のままの採用活動を続ければ、企業は自らの首を絞めることになるのではないかと。
採用したいと思うような真面目な学生ほど、学生生活の前半は単位取得に励んでいますよ。学生らしい体験もこれから、卒論のタイトルすら決まっていないという段階で、彼らに面接で「学生時代に最も力を注いだことは何ですか」と質問して、果たして意味があるのでしょうか
これは拙著『親子就活』執筆のための取材で、ある人事担当者から聞いた話です。採用現場の人間も同じ悩みを持っているということでしょう。
長くなりました。学生にとって就活は、自分の人生を自分で考え切り開く、またとない貴重な機会。その意味では、どんな苦労も、曲がりくねった道も、何一つムダにはならない…はずです。そうであって欲しい、そんな就活を、採用活動を、切に願っています。