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●人、●%、●億円…メディアにあふれる「数値」から、世の中のことをちょっと考えてみましょう

【600万人】 さりげなくできるか、というプロ論

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 どの仕事にも、誰からも評価されるプロという人が存在します。資格や実績数字には表れにくくても、「あの人はプロだ」みたいな人がいます。長年転職の仕事に携わってきて判ることですが、世の中には常に客観的な評価基準で比較できるような仕事というのはそう多くなく、逆に数値や、資格・特許といった事実では評価しにくい仕事の方が圧倒的に多いと思います。それだけ人の評価というのは難しいということでしょう。

 テストで何点採れば、みたいな一律な話じゃないわけです。ですから、何をもってプロとするか、これはすごく難しいテーマだと思います。この点はブロガーの橋本さん大里さんが投げかけてみえましたね。今回、ちょっと視点は異なりますが、私も考えてみたいと思います。

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 今日は先日出会った、一人の女性のお話をしたいと思います。その方はある著名人(元プロ野球選手で国会議員のEさん)の秘書をされています。仮にNさんとしておきましょう。Nさんとは、Eさんに講演をお願いした縁でお会いしました。私がNさんに直接お会いしたのは2回、合計で数時間でしょうか。それと数回のメールと電話でのやりとり程度です。職務上の接触ですから、Nさんが秘書としてどれくらいのキャリアをお持ちなのか、秘書検定を持っているかなどを伺ったこともなく、私がNさんについて知っていることはほんの僅かです。しかしながら、私が拝見したNさんの「振る舞い」は、とてもさりげない中に、相当のプロらしさを感じさせてくれました。

 Nさんの基本スタンスは、一言「相手を立てる」と評することができると思います。相手とは、Eさんだけでなく、接するすべての方です。それは著名人の秘書という職務上、当然のことと思われるかもしれません。しかし、徹底的に「さりげない」のです。Nさんの所作は、ニュアンス的には、やまとなでしこ的に3歩下がってその影を踏まず、みたいな振る舞いとは少し違います。押さえるべきところは、きちんと押さえつつ、決して出過ぎない、のです。

 私がそう感じた瞬間を少し紹介しておきましょう。講演前に控え室に入っていただいた時、EさんとNさんにお茶が出されました。熱い緑茶でしたが、Eさんはすぐにお茶を口にされました。きっと喉が渇いていたのでしょう。それに気づいたNさんは、目の前の相手を見つめたまま、自分に出された湯飲みとEさんの湯飲みを入れ替えたのです。他の誰も気づかないくらい、一瞬の所作でした。

 続いて舞台袖で講演の出待ちをしつつ、Eさんと私が何気ない会話をしている時のこと。Eさんは何か思いついたのでしょう、手に持っていた台本を上げ、目をやりました。その瞬間、Nさんは鞄から赤ボールペンを出し、キャップを抜いてEさんの方に向けて差し出していました。Eさんはすっとペンを取ると、一言二言、台本に書き込んだ後、ペンをNさんに戻しました。その間、約10秒くらいでしょうか。あまりのさりげなさに、私は感動してしまいました。

 直接お会いするまでにも、メールの文面やタイミング、書状の端々に、さりげない配慮を感じていました。こーゆーのをプロって言うんでしょうね。NさんがEさんの秘書として長年の経験があり、Eさんといわゆる「ツーカー」なんだと見れば、取るに足らないことなのかもしれません。しかしNさんの配慮というのは、接するすべての相手に向けられています。単に付き合いの長さで片づけられる話ではないはずです。

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 ちなみに秘書という仕事に資格は必須ではありませんが、一般的に秘書を目指す方は、在学中に秘書検定を取得するケースが多いようですね。秘書検定は、正式には文部科学省認定秘書技能検定試験といい、これまでに【600万人】もの受験者がいる検定試験です。資格には3級~1級があり、1級の合格率は約30%だそうです。どんな試験なのか、つまり秘書の仕事能力をどう定義しているのか、気になるところです。試験内容を見ると、秘書になるための基礎知識はもちろん、一般社会常識、ビジネスマナーなど広範なものとなっており、女性を中心に在学中の受験率が高いのも頷けます。履歴書に書いた場合に、就職に有利かどうかという点では見方が分かれるようです(もちろん仕事内容によるのでしょう)が、持っていて損はない代表的な資格だというのが一般的な見方のようですね。
 
 大変失礼な例ではありますが、Nさんがもし仮に転職活動をするとしたら、その職務経歴書はどう表記されるのでしょうか。私が評価した
「さりげないプロ意識」というのは、とても形式値化しにくいものだと思います。しかしながら、私には相当なものだと映りました。人の評価というのは、実に難しいものです。

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