オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

2.0を目指して欲しい「教育の情報化に関する手引」

»

林さんも書かれていますが、文部科学省から「教育の情報化に関する手引」という資料が発表されています。これは今年4月から実施されている新しい学習指導要領の中で、学校における情報化の充実が掲げられていることを受けたもので、具体的に教育現場でどのような取り組みを行うのかが述べられています:

「教育の情報化に関する手引」について (文部科学省)

本手引では、新学習指導要領における「情報教育」や「教科指導におけるICT活用」、「校務の情報化」についての具体的な進め方等とともに、その実現に必要な「教員のICT活用指導力の向上」と「学校におけるICT環境整備」、また、「特別支援教育における教育の情報化」についても解説し、さらに、こうした教育の情報化に関わる取組み全体をサポートする教育委員会・学校の推進体制について解説しています。

とのことで、教育関係者はもとより、IT業界の人々も熟読に値する内容となっています。もちろんITについて学ぶ・ITを活用するのは学校でだけではありませんが(現状では学校以外の場面で触れることがほとんどでしょう)、文字通り次世代を担う子供たちがどのようなIT教育を受けるのかを示したものですから、幅広い人々に検討されるべき資料でしょう。

ちなみに手引の概要は以下のようになっています(元のPDFファイルはこちら):

ICT_1

まだ発表されたばかりですので、これから議論が深まっていけば良いだけの話かもしれませんが、個人的にこの手引を読んで若干気になった点がありました。それは「書かれていること」についてではなく、「書かれていないこと」について。具体的に言うと、ICTが持つ情報発信という側面をどう捉えるのかという問題と、携帯電話をどう活用していくかという問題について、追求が弱いように感じています。

例えば第3章の「教科指導におけるICT活用」。「中学校3年生の国語の授業ではこうすべき」といったような具体的な提言がなされているのですが、例えば「インターネットなどを活用して情報を検索・収集する」や「コンピュータなどを活用して、取材したり調査したりした結果を発表資料にまとめ、プレゼンテーションやポスターセッションなどの様々な活動の中で、プロジェクタなどを活用して発表する」などといった活用にとどまり、ネットが持つ情報発信という価値をどう活かすかについては言及されていません。もちろん情報収集や加工といった作業もITの重要な側面ですが、それでは現代のネット世界を十分に理解・活用するということにはつながらないでしょう。何より自ら情報発信者になってみるというのが、情報とは何かという問題について考える良い機会になるはずです。

携帯電話も同様です。これだけ社会に浸透し、人々の活動を支える重要な端末になっているにも関わらず、それをどう学校で教育・活用していくのかという議論はほとんど行われていません。ただし「ブログ」「携帯電話」という単語が頻繁に登場する章が1つだけあります。されてそれはどこかというと……第5章の「学校における情報モラル教育と家庭・地域との連携」(※リンク先はPDFファイルです)。ああやっぱり、と思われた方も多いのではないでしょうか(笑)

ただ、第1章第1節にはこんな良いことも書いてあります:

インターネットがグローバルな情報通信基盤となり,経済社会に変革をもたらしているとともに,パソコンや携帯電話などが広く個人にも普及し,誰もが情報の受け手だけでなく送り手としての役割も担うようになり,日常生活も大きく変化している。

このように経済・社会,生活・文化のあらゆる場面で情報化が進展する中で,大量の情報の中から取捨選択をしたり,情報の表現やコミュニケーションの効果的な手段としてコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用する能力が求められるようになっている。同時に,ネットワーク上の有害情報や悪意のある情報発信など情報化の影の部分への対応が喫緊に求められており,このような状況の中で,情報や情報手段を適切に活用できる能力がすべての国民に必要とされるようになっている。

さらに,その上で,情報手段を効果的に活用して,多様な情報を結び付けたり,情報を共有するなどして協同的に作業したりすることで,新たな知識や情報などの創造・発信や問題の解決につなげていくといった,情報社会の進展に主体的に対応できる能力が求められている。

ならば情報発信や携帯電話を恐れることなく、「臭いものに蓋をする」的な指導は改めていくべきでしょう。今回の手引きをベースとして、さらに進化した形態――「教育の情報化に関する手引2.0」を目指して欲しいと思います。

ちなみに英国では、こんな教育改革が検討されているそうです:

第2次大戦よりもツイッターが重要?英小学校改革案が話題に (AFPBB News)

英ガーディアン(Guardian)紙は25日、来月発表される予定の小学校カリキュラム改革の草案の内容をすっぱ抜いた。それによると、マイクロブログやポッドキャスト、ウィキペディア(Wikipedia)などが英国の小学生にとって必修項目になるという。

この草案は、小学校カリキュラムの大規模改革のために英政府から任命されたジム・ローズ(Jim Rose)卿によってまとめられたもの。これによると、(小学校を卒業する)11歳の子どもは、「情報源やコミュニケーション手段としてブログやポッドキャスト、ウィキペディア、ツイッター(Twitter)などに親しんでいるべき」で、「手書きとキーボード打ち込みを『よどみなく』こなし、単語のスペルと同様にスペルチェッカーの使い方にも習熟すべき」とされている。

ブログはもとより、マイクロブログやポッドキャストまで。まだ草案なので最終形はどうなるか分かりませんが、日本でもこれくらい踏みこんだ議論が行われることを期待します。

【関連記事】

【書評】『教育×破壊的イノベーション』
教育メディアとしてのケータイ小説
学校教科に「ブログ」が加わる日

【○年の今日の記事】

怖いのは犯罪だけか? (2008年4月6日)
歌詞カードもバラ売りしては? (2007年4月6日)
アンチ・ペーパーレス (2006年4月6日)

Comment(0)