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「生涯自習時代」をガイドする『ULTRA LEARNING 超・自習法』

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いきなりの自分語りで申し訳ありませんが、私は1997年に、あるシステムインテグレーターでERPパッケージを導入するエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。これで学生時代のような、テストやレポート、論文に追われる日々ともお別れと思ったのもつかの間。待っていたのは別の種類の「学習」でした。

当時「第二種情報処理技術者試験」と呼ばれていた、基本情報技術者試験の受験に始まり、ERPパッケージのベンダが提供している独自技術の理解、さらには簿記検定や貿易実務検定の受験など、業務知識の習得に至るまで。システムエンジニアとしてやっていくためには、さまざまな知識を身に付ける必要がありました。

ただそれは、システムエンジニアに限った話ではないでしょう。あらゆる業界、あらゆる業種において、仕事をこなしていくためには知識のアップデートが求められます。それを支援するために、企業が社員向けの研修プログラムを用意したり、あるいは業界団体が各種資格を整備したりして、知識をアップデートする際のガイドを提供しているわけです。

しかしいま、社会環境やテクノロジーの変化が急速に進むようになっており、そのために求められる知識も急激に変化するという事態が起きています。そのスピードがあまりに速いために、会社側で研修プログラムを整備するのが間に合わない、あるいはそれ以前に、これから必要になる知識やスキルが何かを把握できていないという事態が起きるようになっています。だからといって、私はずっとウォーターフォール型で開発してきた、だからアジャイルなんて知らなくて良い、という姿勢は通用しません。「キャリアを守る、あるいはキャリアアップするには何が必要か」を自ら考え、それを取得するために自ら行動する「生涯自習時代」が到来しつつあると言えるでしょう。

――恐縮ですが、ここからが本題です(笑)ー―

間もなくダイヤモンド社から出版される、『ULTRA LEARNING 超・自習法 どんなスキルでも最速で習得できる9つのメソッド』という本に翻訳者として参加させていただきました。そこでぜひ皆さんにも手に取っていただければと考えているのですが、翻訳者として私が本書の魅力と感じているのは、この「生涯自習時代」を生き抜くためのガイドになってくれるという点です。

著者のスコット・ヤング氏は、MITのコンピューター科学のカリキュラム4年間分を「MITに通わずに」1年間で制覇したという人物。そんなことが可能なのか、と思われるかもしれませんが、MITは実際の教材や授業の映像を、外部に無料で公開するという取り組みを行っています(いわゆるオープン・コースウェア)。そこでヤング氏は、この公開されている授業内容をすべて「受講」し、最終試験に合格するというチャレンジを開始。4年分の教材を、1年間で完了させたというわけです。

その後も彼は、「1年間で4か国語をマスターする(3か月で1か所のペースで外国を巡り、そこで使われている言語を実地で覚える)」や、「1か月で似顔絵を描けるようになる」といったチャレンジを実施。そこから得られた「短期間で集中的に知識やスキルを自習するには」というノウハウを整理し、本書『ULTRA LEARNING(ウルトラ・ラーニング)』としてまとめたのです。

本書の優れている点は、決してスコット・ヤングという一個人の体験を語っているのではないという点です。もちろん彼自身が「ウルトラ・ラーニング」を実現するプロジェクト(前述のような「短期間で語学をマスターする」など)を成功させた実績から語られるアドバイスも非常に価値があるのですが、それだけでは「ヤング氏は天才だったから成功したのであって、その体験を語られても僕らには役に立たないよ」などと言いたくなるでしょう。そこで彼は、自らが見出したノウハウが他の人々にも通用するのか、あるいは過去にウルトラ・ラーニングを成功させたと考えられる人々(その中には彼の知人から、ベンジャミン・フランクリンのような歴史上の人物まで含まれています)はどのように学習していたのかを調査し、より普遍的な「ウルトラ・ラーニングの原則」を整理しているのです。

また本書には、従来型の学校教育ではなく、「自習」によって新たな道を切り開いた人々が登場します。たとえば厳しい経済状況の中で、門戸の狭い建築事務所で働くために、そこで求められるスキルを調査して、自習によって自らを即戦力に変えて職を勝ち取る人物が語られているのですが、そうした人々の姿はロールモデルとして、私たちにさまざまな可能性を示してくれるでしょう。

「ウルトラ・ラーニング」を成功させる要素としてまとめられた原則は9つ。そのすべてを厳守しろ、というわけではなく、自分が身に付けたい知識やスキル、学習スタイルによって組み合わせは異なるとヤング氏は説きます。私自身、まだウルトラ・ラーニングのプロジェクトを実施するチャンスはないのですが、「集中力をどうやって高めるか」というセクションは、まさに本書を翻訳する際に有効活用することができました。すぐにまとまった時間を取れないという方も、ぜひ9つの原則を「つまみ食い」して、その有効性を確かめてみて欲しいと思います。

とはいえ、やはりウルトラ・ラーニングの価値を完全に手にするには、実際に目標を決めてプロジェクトを実施してみることが一番でしょう。いよいよ新年度、4月から新しい生活をスタートさせるという方々も多いと思いますが、そこでのキャリアアップで求められる新たな知識・スキルを身に付けるための武器として、本書が役に立てば幸いです。

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