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前エントリに、JPNIC(Japan Network Information Center)の前村さんからコメントをいただいたので、気力を振り絞って続きを書いてみます(←冗談です、念のため)。(「です・ます」はここまで)

前村さんが「しっくりこない」と(控え目に)表現されたとおり、日本におけるドメインのセカンダリーマーケットの認知度は高くない。しかし、電話番号については良番の売買が盛んに行われているようである。それが暴力団の資金源に……というニュースもあるようだが、売買そのものが違法なわけではない。ゾロ目やきりのよい番号に人気があるのは、覚えてもらいやすく間違えられることもないため、営業的に有利だからに他ならない。インターネットドメインもそれと同じである。もちろん、造語や変わったフレーズを使っては失敗するとか、よいドメインを使えば成功が約束されるということはない。特別な電話番号を使わなくても成功するビジネスがあるように、造語でも成功することはあるだろう。よく知られている通り、google は googol の綴り間違いであり、綴りを間違えたからこそ登録できたのである。googol.com は google.com より2年も前に登録されている。

ドメインは、電話番号と違って数字だけではないため“意味”を持ち、それがスクワッティング(不正な利益を目的としてドメインを登録することで規約違反)という側面を持ちかねない。それが敬遠されがちな理由になっている面はあるだろう。しかし、現実には世界中でドメインが売買されているのである。もっとも、専門のオークションサイトでもなければ、そうした取引が表に出てくることはあまりない。以下、どんなドメインが使われているのかを紹介してみる。なお、いずれも whois の記録やニュースなどで公開された情報をもとにしたものであることをお断りしておく。

Toys.com
トップドメイン中のトップドメインで、DNJournal というドメイン関連の情報サイトが公開している取引の中でも昨年のトップだった。ただし、その経緯が少しよくわからない。TechCrunch によればトイザらスが510万ドルを支払ったことは間違いないようだ。よくわからないのは、この記事の3週間前には同じ TechCrunch で125万ドルで取引されたと報じられていたからである。この記事にある Faculty Lounge に whois が変更されたようすはなく、DNJournal には破産オークションと記されているのだが(破産したのは Faculty Lounge ではなく The Parent Company)、125万ドルで買い取った直後に別のオークションで400万ドルの差益を得たのかもしれない。

iPhone.com
"IPhone.com has been acquired by Apple" によれば、最低でも100万ドル以上で取引されたようだ。もともとドメインの中でも英単語そのものの.comドメイン(ワンワード.com)は、非常に価値が高いとされており、未登録のものはほとんどない。だから「電子」という意味で "e" を付けた単語、「インターネット」という意味で "i" を付けた単語がその代替品として登録されるケースがしばしばあった。一時は e付きやi付きのドメインばかり何千も登録していた業者がある(しかし売買には成功しなかったらしく、2002年頃に大量に放棄された)。iPhone.com も、ドメインとしては Phone.com の代替品くらいのものだったと思うが、Apple はドメインを入手する前に「iPhone」というブランドを発表したようだ。事前に交渉していれば、ずっと安く入手できたかもしれない((ただし、前所有者はドメインブローカーではないようだ))。もっとも、ドメインどころか商標でも Cisco が先行取得していたようであり、iPad という新しいデバイスについてもドメインばかりか商標でも問題をかかえているようだ。事前に交渉して安く解決するよりも、情報が漏れることを恐れているのだろうか。

Endless.com
amazon が 2007 年に開設した靴とハンドバッグ専門のショッピングサイト。ドメイン名の取引額は不明だが、whois の記録を見る限り、2006年に弁護士事務所を通じて取得したようである。"toys" と違って「響きがいい」という名前であり、他の名前でも困らないので、上記のような超高額ではなかったと推測する。サイトを見る限り、amazon のサイトでも同じものを売っているようで別ブランドを立ち上げた理由はわからないのだが、おしゃれなサイトを作ってブランディングしてみたということかもしれない。日本でも昨年、Javari.jp という同じようなサイトが開設されたが、なぜこんなドメインを使っているのか疑問でもある。

Mercury.com
IT 業界にいる人は Mercury といえば、Mercury Interactive を思い浮かべるのではないだろうか(現在は HP の一部)。しかし、Mercury Interactive は、かつて Mercury.com というドメインを使っていなかった。Mercury Technologies という会社が先にこのドメインを取得していたため、しかたなく merc-int.com というドメインを使っていた。しかし、どうしても Mercury.com を使いたかったのだろう。Mercury Interactive は70万ドルのキャッシュと40万ドル分の製品やサービスを提供することで、Mercury Technology からドメインの譲渡を受けたのである。そして、Mercury Technologies は MercuryTech.com というドメインに引っ越していった。

Chance.com
日本の例も紹介してみよう。懸賞関連の情報サイトを運営するチャンスイットは、当初 chance-it.com というドメインを使っていた(開設は1997年)。しかし、2002年に chance.com というドメインを購入して、すべてのサイトを chance.com ベースでリブランドしたのである。chance.com の購入金額は1000万円だそうだ(プレスリリースより)。おそらく当時から成長しつつある中で、さらなる飛躍を狙ったゆえの決断だと思う。なにはともあれ、まさに「うらやましいドメイン」である。

Hatena.com
ローマ字でも単語は単語である。はてながアメリカに進出するときに入手したのか、あるいはそれより前に入手していたのかはわからないが、そもそも名の知れた企業がドメイン名の whois にプロテクトをかけるべきではないと思う。ただ、前所有者(Ultimate Search※)がドメインの世界では良く知られた孤高の存在だったので、ローマ字とはいえ安くなかったのではないと思う。はてなのアメリカ進出は決して大成功という結果ではなかったようだが、ちゃんと .com を取得して進出したのは称賛すべきことだ。
※Ultimate Search は、一端登録すると二度と手放さないのではないかとも言われていた。ただし、2005年に Marchex に買収されたので、交渉相手は Merchex だったかもしれない。

ドメイン売買の最大手といえる sedo という会社がある。 sedo はドイツの会社なので当初は sedo.de というドメインを使っていたが、米国へ進出するにあたり sedo.com を8万ドルで取得している。2006年に、たまたま CEO の Tim Schumacher にインタビューする機会があったので、そのときのビデオを最後に張り付けておこう。

※本エントリは、個人ブログからの転載です(多少、改変しています)。

mohno

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平成元年にIT業界に入って以来、開発ツールに関わり、主にマーケティング中心に活動してきました。現在はフリーランス。

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