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Adobe CS2 を使うとライセンス違反になるのか?

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※2013/1/9追記。(投稿時に抜けてしまいましたが)このエントリでは表題に対する結論は出していません。念のため。

■"Adobe CS2 for free"

昨夜、Adobe が Creative Suite の古いバージョン(CS2)の無料ダウンロードをはじめたという情報が駆け巡りました。その時点では Adobe のサイトにサインインが必要であると書かれていたのに、サインインしようとしても重くてできなかったのですが、その後に知った「Adobe Creative Suite 2 製品およびAdobe Acrobat 7のアクティベーションサーバーに関するお知らせ」というページを見ると、とくにサインインしなくてもすべてのファイルがダウンロートできます。

当初は、Microsoft Expression の無料化に感化されたのかと思いましたが、それにしては最新OSで使えないようなものを出しても仕方がないですし、探してもプレスリリースらしきものが見当たらないという疑問はありました。今日になって、Adobe のブログで無償化を否定する見解が出されました。今ではプレスリリースも出され、ダウンロードサイトにも同様の記載があります(強調は筆者)。

今回の措置は、あくまでもCS2およびAcrobat 7の正規ライセンスを所有するお客様向けの顧客支援のための措置であり、不特定多数の皆様に向けて無償でライセンスを提供しているという事ではございません

正規ライセンスを所有されていない方の利用につきましては、ライセンス違反となり得るため、ご利用の際にはくれぐれもご注意いただけますようお願い申し上げます。

「ライセンス違反となる」という断定表現でなく、「なり得る」という限定的な表現を使っているのが興味深いところです。

■ソフトウェアの公開は継続

Adobe は、上記のページで今でも CS2 を自由にダウンロードできる環境を継続しています。サインインの必要もありません。既存ユーザー向けと断っているのですが、このように表明するだけで、これまで正規ライセンスを持っていなかった人がソフトウェアを使うことを「ライセンス違反」に問うことができるのでしょうか

SmartNews のエントリでも触れましたが、日本では私的複製は明文で合法とされています。3年前に施行された、いわゆる「ダウンロード違法化」によって違法に配信されているコンテンツのダウンロードは私的複製から除外されるようになりましたが、このサイトは Adobe のサイトに間違いありませんので「違法に配信されているコンテンツ」とは言えません。細かな突っ込みを受けかねないので条文を掲載しておくと、著作権法第30条1項3号には私的複製を除外するケースとして、次のように書かれています。

著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

少なくとも Adobe のサイトで公開されているものが「著作権を侵害する自動公衆送信」という認識を持つことはできないでしょう。そもそも条文を素直に解釈すれば、ダウンロード違法化の対象は音楽と映像(録音と録画)であってソフトウェアは対象外なのかな、という話もあるのですが(ゲームは映画の著作物という見方もされます)、それは言わないでおきます(←言ってますが)。

しかし、このページには「CS2およびAcrobat 7の正規ライセンスを所有されているお客様を対象として、アクティベーションサーバーを介在しないソフトウェアをアドビ システムズより直接提供」していることが明記されています。そう書いてあるのに、CS2 のライセンスを持たない人がダウンロードして使うと使用許諾条件に反して使うことにならないかということは気になります。

かつてレコードには「複製禁止」という但し書きがあったそうです。しかし、「私的複製は法律で認められているのに“複製禁止”と言われるのはおかしい」という指摘を受けて、「家庭内など私的な範囲を超えた複製は法律で禁止されています」という表記に変わったそうです。複製禁止と書いてあるのに複製するのはライセンス違反だ、という理屈は通らないわけです。かつて「複製が私的でも目に余るようになれば、CD にも使用許諾書が追加されるんじゃないか」というエントリを(皮肉として)書いたことがありますが、パッケージを開封したり、インストール中に [同意] ボタンを押すような仕組みを容易しない限り、一方的な表明では“契約”が成立しないのではないかと思います。「CS2 のライセンスを持ってない人に使うな」というのは「Adobe の希望」としては理解できますが、“法的な縛り”が生じる気がしません

■インストールと使用許諾契約

さて、実際にソフトウェアを使うためにはインストールしなければなりません。ほとんどの商用ソフトウェアがそうであるように、Adobe CS2 でも「使用許諾契約書」への同意が必要になります。もし、ここですでに CS2 の正規ライセンスを持っていることが条件として課せられていれば、そこで終わりです(そして、そうなっていたら、このエントリを書くこともなく秋アニメのレビューをアップしていたことでしょう)。

でも、そんなことは書かれていませんでした。Photoshop CS2 のインストーラを起動してみましたが(※)、おそらく製品版の使用許諾契約書と内容は変わっていないと思われます。なくなっているはずのアクティベーションに関する記述も、そのまま残っていました。
※ここでの検証には2013/1/8 午後9時頃にダウンロードした日本語版Adobe Photoshop CS2を使っています。その他のソフトウェアは確認しておらず、今後、変更される可能性もあります。

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さらに「2. ソフトウェアのライセンス」には、次のように書かれています。

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あらためて赤枠部分を引用します(強調は筆者)。

2. ソフトウェアのライセンス。お客様が本ソフトウェアを Adobeまたはその公認ライセンシーから取得し、本契約の条件に従う場合には、 Adobeはお客様に対し、下記に定めるように、マニュアルに記載されている方法および用途に本ソフトウェアを使用するための非独占的なライセンスを許諾します

「金を払っていない人など、“お客様”ではない」という主張は“あり得る”かもしれませんが、このダイアログの言語を英語にして確認すると、ただ "you" と書いてあるだけです。「これらのソフトウェアを Adobe のサイトからダウンロードした」ことを「本ソフトウェアを Adobe から取得した」とは言わない、というのも無理がある気がします。そして、この使用許諾契約に同意すれば(通常の製品がそうであるように)ライセンスが許諾されると明記されています。

Comics68_lo■日本ならでは(?)

たとえばアメリカなら「正規ユーザー向けに配布しているだけのものを、他の人がダウンロードして使うのは“公正な使用”(フェアユース)にあたらない」という理屈があるかもしれません。しかし、日本では私的複製が明文で合法化されており、除外する規定にも該当しそうにないので、どこをどう解釈したら“ライセンス違反になりうる”のかわからないというのが正直なところです。何の責任も負いたくはないので、冒頭に書いた通り結論は出さないでおきますが(そもそも私は CS5 の正規ライセンスを持っているので必要ないですし、先に進めてインストールすることもしていません)、(日本の)Adobe 社は何かしら対応を考える方がよいのではないかという気がしてなりません。

なお、そういうライセンスの心配などなく、無料化されたデザインツールとして Microsoft Expression があることを重ねてご紹介しておきます(ただし Windows に限ります)。

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