プロセス、戦略、人間学の視点からプロジェクトを眺めます。
こんにちは、プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。
「バッファ」です。
プロジェクトの計画を立てるとき、進捗管理をするとき、そのプロジェクトやプロセスの不確実性に応じて、マネジャーはスケジュールに「バッファ」を持たせます。きょうは、この「バッファ」の取り扱い方についてです。
■ バッファをどう取り扱うか
バッファの取り扱い方には、2つのことを考慮しなければなりません。つまり、
「バッファをオープンにするか」
「誰にバッファを管理させるか」
の2つです。
バッファがあるということを、メンバーに知らせるマネジャーと知らせないマネジャーがいます。さらに、バッファがあることを知らせていても、そのバッファをマネジャー自身が管理するか、本人に管理させるかがちがうのです。
■ バッファは「オープン」「本人管理」が基本
私は原則として、「バッファはオープンにして、本人に管理させる」ことが望ましいと考えています。「バッファをオープンにしたら、メンバーがアテにしてしまう」「本人にバッファを管理させたら使い切ってしまう」と思われるかもしれませんが、実際にそうしてみると、そんな事態はあまり起こりません。
私がバッファを「オープン」「本人管理」にする理由は3つあります。
(1)メンバーもプロである
(2)クローズされたバッファは人を疲弊させる
(3)人は自分のものは使いたくない
の3つです。
■ メンバーもプロである
バッファをオープンにしない、本人に管理させない場合、そこには「アテにされたら困る」「使い切られたら困る」という心理が働いています。これでは、「メンバーを信用していない」ということを、暗に伝えているのを同じです。
しかし、メンバーもお金をもらっているプロであり、誰もスケジュール遅延、納期遅延をしたいとは思っていません。納期を守りたい、プロとしての仕事をしたいと思っています。だからこそ、できるだけスケジュールには余裕を持ちたいと思うのです。さぼりたいわけでもなく、ダラダラ仕事がしたいわけでもないのです。
バッファをオープンにし、本人に管理させることは、「あなたをプロとして認めます」という意思表示であり、「プロとしての仕事を求めます」という要求です。メンバーも、プロとして扱われれば、プロであろうとしてくれます。
■ クローズされたバッファは人を疲弊させる
納期が迫っている、なんとか間にあわせないといけない。そんなときはギリギリまでメンバーは頑張ります。そんなときに「実はあと1か月待てる」と伝えられたときの、メンバーの脱力感は計り知れません。
実際、私がメンバーとしてかかわったプロジェクトで、「あと1か月」「あと1か月」と、結局、半年バッファがあったプロジェクトがありました。「あと1か月頑張れば、終わる」そう思って、限界ギリギリまでやる。そのギリギリの状態を6か月、続けたわけです。こんなプロジェクトは二度としたくないと思いました。
納期がどんどんストレッチしていくと、メンバーはいつまで頑張れば「終わり」が来るのかが分からなくなります。そんなギリギリの状態が続けば、モチベーションも、マネジャーへの信頼も、ガタガタになるのです。
そのプロジェクトは「到底、不可能だ」と言われていたプロジェクトでしたが、なんとか納期に間に合わせることができました。しかし、バッファをオープンにし、スケジュールを現実的なものにしていれば、もっと早く仕上げることができたのです。
一度失われたモチベーションと信頼は、元通りにすることはむずかしいのです。
■ 人は「自分のもの」は使いたくない
バッファをオープンにし、本人に管理させると、不思議なことが起こります。メンバーが、できるだけバッファを使わないで進めようとするのです。
たとえば、期間的なバッファが2週間あったとします。まだスケジュールが遅れているわけでもないので、残業する必要はありません。しかし、バッファが本人管理になると、「バッファは温存しておきたい」という心理が働いて、できるだけ「前倒し」で進めようとするのです。マネジャーである私が「まだ余裕あるからいいよ」「バッファを使ってもいいよ」と言っても、なかなか使わないのです。
バッファがマネジャー管理であれば、できるだけバッファをもらおう、使おうとします。しかし、バッファが本人管理であれば、それは「自分のもの」なので、できるだけ使いたくないという心理になるのです。
■ プロジェクトマネジメントの基盤は「信頼」
バッファをオープンにし、本人に管理させることは、とても勇気がいることかもしれません。マネジャーの手持ちの「保険」がなくなるわけですから無理もありません。
しかし、プロジェクトの主体は、マネジャーではありません。メンバーが動いて、はじめてプロジェクトは動きます。そのメンバーを信頼しないで、良い人間関係をつくることなどできず、良い結果を出すことはできません。
プロジェクトマネジメントの基盤は、マネジメントスキルでも、よい計画を立てることでもありません。基盤は人間の「信頼」です。その信頼という基盤の上に、マネジメントの方法論は成り立ちます。