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プロセス、戦略、人間学の視点からプロジェクトを眺めます。

プロセスはマニュアル人間をつくるか

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こんにちは。
プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。

きょうは、「プロセスはマニュアル人間をつくるか」という話です。

■ プロセスをデザインすることへの誤解

「プロジェクトはプロセスの連鎖」の記事でお話したように、プロセスは仕事のレシピであり、価値を生み出すには「価値を生み出すプロセス」をデザインすることが大切だというお話をしたとき、きまって出る反応があります。それは、

 「マニュアル人間をつくるだけではないのか」
 「技術さえあれば、プロセスなんて関係ないのではないか」
 「プロセスを決めて、技術のない人たちを集めて工場をつくるのか」

というものです。

とくに技術力があり、長年の経験の蓄積がある人は、このような反応をしがちです。

私自身、はじめて「プロセス」という考え方に出合ったときは、かなりの抵抗感を覚えました。「決められたことを、決められたようにやれ」と言われたような気がしたからです。

しかし、デスマーチを何度も経験するうちに、「もしかしたら役に立つのかもしれない」と思い、プロセスについて学び始めたのでした。

■ プロセスの意味を開眼させたドラッカーの言葉

プロセスについて学び、それをチーム、プロジェクトで実践し、コストは下がり、品質もどんどん上がっていきました。しかし、「プロセスを守る」ことに主眼を置いていたため、メンバーが楽しそうに仕事をしていないのです。

そんなときに出合ったのが、ドラッカーの言葉でした。

伝承を知識にまとめ、思考を体系にまとめることは、人間の能力を卑しめてマニュアルに置き換えることと誤解されがちである。もちろん、そのような試みは、ばかげている。

しかし、体系的な知識は、きょうの医者に対し、一〇〇年前の最も有能な医師以上の能力を与え、今日の優れた医師に、昨日の医学の天才が想像もしなかった能力を与える。

いかなる体系も、人間の腕そのものを伸ばすことはできない。しかし、体系は、先人の力を借りて常人を助ける。常人に対し、成果を上げる能力を与える。有能な人間に卓越性を与える。

P・F・ドラッカー(『創造する経営者』,ダイヤモンド社)

ここでドラッカーのいう「体系的な知識」とは、まさにと同じことを意味しています。それぞれが持つ経験知を、見えるカタチに表現し、共有して、高めていくことは、マニュアル人間をつくることでも、工場のラインの機械として人を扱うことでもありません。

「体系的な知識=プロセス」は、成果を上げる能力を与えるものであり、それをつかってより価値を生み出すためにあるのだとドラッカーは喝破しています。

そのころの私は「プロセスを守る」ことを強いるあまり、それを使って、より大きな価値を生み出していくということをしていなかったのです。それに気づいてからは、創造性を高めるためのプロセスを設計していったのです。

■ プロセスは「固定」しない、「リ・デザイン」する

それぞれが持つ経験知を「プロセス」として体系化し、それをさらに高めていくためには、プロセスは固定されたものであってはいけません。世の中はつねに動いています。顧客、市場が求めるものは日々変化しています。とてもプロセスを固定していてはやってはいけません。

プロセスとは動的なものであり、つねに「デザインする」ことで、成果を最大化することができます。「リ・デザイン」し続けることが必要であり、そこにこそ、創造性が発揮されます。

プロセスをデザインすることは、変化する社会に、より大きな価値を生み出し続ける、まさに変わり続けるプロセスなのだと言うことができます。

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