新ハードウエアの動きがIoTを助長する
IoTは大きな注目を浴びている。少しばかり、オーバーヒート気味だ。色々な観点から議論され、多くの情報が飛び回っている。最近のO'ReillyのSolidコンファレンスに先立ちJon Bruner氏は以下のブログを掲載している。今までにはなかった観点なので、これに関して考察してみたい。Bruner氏はForbesのデータエディターである。
新ハードウエア―の動きとIoTは別物: 安価で、アクセスの良い、オープン・ハードウエアはIoTを助長する (英文)。
最近はIoTというキーワードを使用すれば、ブログでもツイッターでもプリゼンでも反応が良い。今はIoTのバブルと言われている所以であろう。Gartnerは最新のハイプ曲線でIoTを現在ハイプのど真ん中と指定している。更にAppleの共同創始者のSteve Wozniak氏も現在のIoTはバブルの真っ最中だと指摘している。
以下のブログはBruner氏のペーパーを解説したもので、特に断らなければ主張や議論はBruner氏のものである。
背景
Bruner氏は、どんどんIoTが示す範囲が広がり、2つのものが含まれるとなんでもIoTと呼ばれるようになったと述べている。その2つとは技術と物理的に存在する「もの」だ。オブジェクト指向が叫ばれたときは、すべてのものはオブジェクトだと言われたが、オブジェクトの代わりに「もの」という言葉が使われているわけだ。どうも筆者はThingでも「もの」でもじゃっかん違和感がある。これは「もの」という言葉があまりにも口語であるからだと思うが、語感の問題かもしれないので筆者がどうにかできるものでもない。
Bruner氏は続けて、これではなんでもかでもIoTに含まれてしまうと書いている。IoTと言えばその例としてよくあげられるものに、ネットで繋がった「冷蔵庫」がある。何年にも渡って、実際に電力とか製造などの産業の実務に関わる人はネットで繋がった「冷蔵庫」に代表されるIoTのカテゴリーと同列に扱われることを避けようとしてきた。IoTに関連した実際のビジネスや産業に関わるアプリを開発したい大企業は「全てのもののインターネット」(Cisco社による)や「インダストリー・インターネット」(GEによる)なるカテゴリーを作った。
(筆者注: インダストリー・インターネットに関しては、インダストリー・インタネット・コンソーシアム(IIC) がこの分野で標準化の活動を行っており、日本の企業も参加している。IICのウエブサイトによれば、NEC、日立、富士通、東芝、富士電機、富士フィルム、三菱電機、ルネサス、トヨタが日本の企業として参加している。)
ハードウエア開発の傾向
Bruner氏はIoTは新たな大きな動きの結果生まれたものだと主張する。その大きな動きとは、彼が「新ハードウエアの動き」と呼ぶものだ。彼の説明によれば、これは我々人間を物理的な環境により容易にアクセス出来る様にする傾向だとしている。これは、正に我々がインターネットに過去20年間アクセスできた様にだ。
ハードウエアの開発
Bruner氏はハードウエアの開発は近年アジャイルになって来ており、ソフトウエアの開発に近づいてきていると述べている。1つにはコンピュータの価格の下落でよりハードウエアではなくソフトウエアによる解で広い適用範囲を確保できる。
更に、新ハードウエアの動きは次の新しいツールや動きによってサポートされている。
- プロトタイピング
- 例
- 安価な3Dプリンター: Formlabs社
- コンピュータ数値制御: Other Machine社のOthermill
- 安価でパワフルなマイクロコントローラ: Arduino社
- 組み込みシステムでの高水準言語: JavaScriptをNode.js(エンドポインんととウエブサービス)とHTML5(ポータブルなユーザー・インターフェース)と共に使用
- 例
- 資金調達とビジネス開発のサポート
- 例
- Highway1社: 製品のアイディアがあれば製品製造までサポート
- Lab IX社: Flextronics Internationalが提供するIXはハードウエア開発に必要な専門知識や必要なツールを提供、製品製造までサポート。
- 例
- 製造 のサポート
- 例
- PCH: PCH International社はカスタム・ハードウエア製造支援会社
- Seeed: ハードウエアのメーカーにイノベーションを与えるプラットフォームを提供
- 例
- マーケティング・営業のサポート
Bruner氏はMITのメディアラボDirectorの伊藤穰一氏の言葉を引用している。それによれば、IoTは発明や発見を中心(筆者注:大企業)からはエッジ(筆者注:個人・中小企業)に移動させていることの症状ではないかということだ。つまり、資金力がなくても特別なツールがなくても、普通の人がアイディアさえあれば実際にものをつくり展開することができるのということだ。言い換えれば、アイディアさえあれば、資金がなくても、大掛かりな設備やツールや製造のノウハウがなくても、ハードを作成できるということで、ハード開発の民主化が起こっているということだ。
(筆者注: 上で取り上げたもの作りについてもう少し述べてみよう。Techshopは米国の各地に存在するものづくりをサポートする団体である。ドイツなどの海外へも進出している。昨年富士通との連携を発表しており、日本にも拠点をおくのではないかと取沙汰されている。)
IoT
新たなハードウエアの動きから生まれたIoTは種々の産業をインターネット化することができる。最初は広告、金融やオンライン・小売り業・リーテルで始まったが、現在は流通、農業、重工業、ヘルスケア―や鉱業に広がり始めている。
IoT は以下によってサポートされている
- ユビキタスな接続、何時でも、何処でもネットに接続可
- 前述の新しいハードウエアの動きにサポートされる安価なハードウエア
- 安価なデータ処理や機械学習の存在
新ハードウエアの動きとIoT
しかし、IoTと新ハードウエアの動きは同じものではない。以下にIoTと新ハードウエアの動きの関係を示す。 興味深いのはIoTと新ハードウエアの動きにそれぞれ重ならない部分があることだ。これは、Bruner氏のペーパーから引用し、筆者が日本語化したものだ。会社名は日本語にはならないので、英語のまま。
注: ダイアグラムで示されている各社の簡単な説明を記す
- Precision planting: 農地からの収穫を最大化するための技術を提供
- DropCam: WiFi ストリーミング・ビデオを提供、2014年6月にGoogleによって買収。
- Nest Labs: WiFiを駆使してホーム・オートメーションを提供、2014年1月にGoogleによって買収
- Rethink Robotics: 全く新しい自動化を製造業に適用するために設立
- Otherlabs: 高度な製造技術、エネルギーとエネルギー・システム、ロボットなどを専門にし、ベンチャーを資本家に引き合わせる。
- Makani Power: 風力による発電のためエネルギー凧を開発している。Googleの支援を受けている
ここでは筆者の意見を述べてみよう。
- IoTで新ハードウエアの動きと重ならない部分: ここであげられている例は全て規模が大きくて、専門性の高いものだ。GEのジェットエンジンはその動作中に色々な部分に装着されたセンサーからの情報を収集することができる。収集された情報はネットを介して、集められて解析されることが可能である。運用はそうであるが、開発や製作はどうだろうか。ジェットエンジンの複雑さと専門性を考えると、容易に素人が上で述べられたようなサポートがあっても作れるものではない。その他の例も同様なことが言える。何時でも何処でもネットに接続されてデータを送受信できるIoTが必要である。
- 新ハードウエアの動きでIoTと重ならない部分: Bruner氏の説明によれば接続を必要としないが新ハードウエアの動きで今までなかったハードウエアや既存のものでも、より安価に容易に製作することができる。この部分では必ずしも製作や運用にあたり、IoTのインフラによるネットワーク接続が必要なものではない。確かに3Dプリントなどは、接続があっても良いが、特に必須ではない。しかし、アプセサリーはスマホのアプリと連動する周辺機器であるので、スマホとの通信が必要であると理解する。そうなると、これは重なった部分の例なのではないかと思う。他のものは、新ハードウエアの動きをサポートするための団体である。
- 重なった部分: 今までなかったハードウエアでネットに接続されているもの。ここにあげられているものは全てIoTによるネット接続が必要だ。DropCamやNestの製品では当然接続が必要だ。その他も接続が必要な新たなハードウエアだ。
この話を長年お付き合いのある技術とビジネス両方に造詣の深いA氏(本人の希望により匿名)に意見を聞いたところ、以下のような回答を得た。
日本にもTechshopのような団体がある。
A氏は前述の動きは、メーカーという動きもIoTも、ビジネス系のクラウドソーシングなども個別の一つ一つがどうというより、全体として業界構造とかビジネス構造というかビジネスの進め方そのものが変わってきているような気がすると述べた。つまり筆者が言葉を補って言い換えると、製品製造の分野で何か大きな変動が起こっており、大企業だけが、資本、場所、ノウハウ、技術、人員を駆使して新たな製品やサービスを提供していた時代が収束し始め、個人でも新しいアイディアで大企業と対等に戦える時代がそんなに遠くない時期にやってくるのではないだろうか。
どちらにしても、わくわくする時代に突入したのだと感じる。