データセンターの冷却はソフトウエア定義できるのか
最近ソフトウエア定義されるデータセンターが注目を浴びている。データセンターは周知のようにICTとファシリティの装置で成り立っている。しかし、現在のソフトウエア定義されるデータセンターにはファシリティの装置は含まれない。しかし、幾らICTの装置やそのレイアウトをソフトウエアで定義しても、その装置を問題なく動作させるためには、適度な冷却と電力が必要である。つまり、冷却と電力もソフトウエア定義されないと本当の意味ではデータセンターをソフトウエアで定義したことにはならない。このブログでは、冷却のソフトウエア定義に関して述べる。
冷却のソフトウエア定義を謳っているベンダーはあまり多くない。と言うか、筆者は一社しか知らない。それは、Vigilent社だ。早速知り合いのVigilent社のAlex Fielding氏に話を聞いた。
Alex Fielding氏
Vigilent社
非常に簡単に言うと、Vigilent社はデータセンター・インフラ管理(DCIM)のツールを提供するベンダーである。市場調査会社のGartnerはDCIMツールをを以下の様に定義している。
データセンターの効率やエネルギー消費をモニター、計測、管理または制御する全てのIT関係の装置(サーバー、ストレッジ、ネットワークなど)やファシリティのインフラの要素(PDUやCRACなど)を含む。
Vigilent社の業務内容
Vigilent はDCIM のベンダーでデータセンターの冷却を管理する。非常に分かり易い。周知のようにデータセンターの運用は大部分はファシリティの人々によってなされる。IT関係の人たちはお客さんとして見られることが多い。しかも、なかなか要求の多い客だと思われがちだ。過去には何回もITとファシリティを統合し、データセンターを効率良く運用しようとする試みがなされた。幾分かの成功例はあるものの、統合管理というのはITとファシリティのどちらにも受け入れにくい提案の様だ。Fielding氏 によれば Vigilentの業績が良いのは2つの理由がある。1つはデータセンターの運用に大きな影響を与える部分を改善するからだ、つまり効率の高い冷却方法だ。40% から50% の冷却に必要な電力消費に影響を与えることができる。つまり、必要な所に必要な量の冷却を提供するのだ。だから、非常に恩恵が見えやすい。何かしなかればならないのはファシリティ側だけで、IT側のサーバーなどのIT機器にはタッチしない。しかし、そのおかげでIT側の人を巻き込む必要もなく、サーバーなどの装置に触れることもないが、IT装置を安定して問題なく運転することができる。ファシリティの人たちは簡単に理解でき、すぐに恩恵が見られるものであれば、非常に受け入れやすいという分けだ。その上、実際のインストレーションから数日でエネルギー効率の改善が見られるとFielding氏は続けた。
実装
Vigilentの技術を説明するのは容易だ。常にデータセンター内の冷却の必要性をモニターして計測し、本当に必要なところに動的に最少必要限の冷却を提供するということだ。サーバーやその他のIT 装置は負荷によって発熱量が異なる。データセンターの負荷は動的に時間毎や日ごとでも変化する。通常将来の拡張を見込んで、電力も冷却も過剰に準備しがちだ。IT装置は必要以上に冷却しすぎる必要はなく、冷却の必要性が軽減されれば冷却もそれに伴って調整されるべきだ。
Vigilentは正にその機能を提供する。一般的にデータセンターの冷却は冷却装置に戻ってくる熱くなった空気の温度を感知して温度調整を行う。しかし、本当に必要なのはサーバーの取り入れ口での空気の温度をモニターし温度調節をすることだ。これが行われなかったのは、以前は容易にサーバーの取り入れ口での空気の温度を測定できなかったからだ。ここ数年、サーバーやラックレベルでの温度や湿度などの環境情況をモニターし計測されるようになった。これを使用すれば、実際にモニター・計測しなければならない箇所で環境情況の情報を入手できるようになり、もっと効率の良い冷却を提供できるようになる。Vigilentは無線センサーを利用してDust Networks のメッシュ・ネットワークを利用して環境情報を収集する。常に温度などの環境情報を収集してモニターして、冷却装置を電源を入れたり、止めたり、またそのファンのスピードを調整することで、冷却量を調整することが出来る。以下の図はこの様子を示している。
Vigilentのシステムの仕組み (出典: Vigilent)
冷却の仮想化
Vigilentが最初に冷却の仮想化を言い出した。冷却の仮想化とは何だろう。あるものが仮想化されるのであれば、それを簡単さらに動的に生成、増量、除去、減量 および移動させることができる。これはサーバーの仮想化に当てはめてみると良く分かる。
冷却は:
生成される (冷却装置の電源をオンにする)
増量される(更に他の冷却装置の電源をオンにするまたは、ファンのスピードを増加する、チラーの温度を下げる)
除去される(冷却装置を停止を停止したり、スリープ・モードにする)
減量される(冷却装置の一部を停止したり、ファンのスピードを下げたり、チラーの温度を上げる)
移動はどうだろう。冷却って動的に移動できるのだろうか。実際のところ、仮想化されたサーバーも物理的に移動されるわけではない。vMotionの様にバーチャル・マシン(VM)の移動は生成、コピーと除去で実装されている。その仕組みは、新しいVM のインスタンスが移動先のサーバーに生成される、実行状態を元のVMのインスタンスからこのインスタンスにコピーする、そして最後にもとのインスタンスを除去する。この手法は冷却にも適用できる。サーバーのVMが1つのサーバーから他のサーバーに移動されると、当然移動元と移動先のサーバーに対する冷却の要求は変化する。移動元用のサーバーに対する冷却は停止されるか、冷却量を削減できる。これに反して、移動先のサーバーは冷却要求が増加して、移動先用のために新たな冷却のインスタンスを生成することで対応できる。
当然サーバーと冷却ではインスタンスの移動は全く同じではない。冷却のインスタンスはサーバーのVMの様に、移動元と移動先では全く同じコピーではない。物理的なレイアウトなどの幾つかのファクターにより、移動元と移動先では冷却量でさえ異なるかも知れない。しかし、これは移動元から移動先に動的に冷却が移動したと言えるだろう。ということで、冷却はIT機器の様に仮想化されると言う事にする。
以前に述べた電力の仮想化と共に、ソフトウエア定義されるデータセンターが新しく定義される。これによって、データセンターのコンフィギュレーションや要求をソフトウエアで定義すれば自動的にデータセンターを設計したり、最適な運用形態を自動的に生成することができる。これを敷衍すれば、ビルのエネルギー管理にも適用できるだろう。