ハイブリッド・クラウド – その1
クラウド・コンピューティングが現在の様に展開してくるとは、正直なところ予想しなかった。パブリック・クラウドから始まったクラウド・コンピューティングの焦点はその精神を自前のデータセンターで実現するプライベート・クラウドに移行し、そして現在はパブリックとプライベート・クラウドをどの様に組み合わせるのが最適かというハイブリッド・クラウドに焦点が移り始めている。このブログでは、ハイブリッド・クラウドの現状とその問題点について述べる。更に、クラウド・コンピューティングとエネルギー効率に関しても簡単に触れる。
ハイブリッド・クラウドはパブリック・クラウド(オンデマンド、使用量のみに課金、インフラ開発・維持の必要性なし、オペレーションの必要なし)とプライベート・クラウド(セキュリティとコントロール)の良い所取りのクラウドだ。その応用範囲は色々とあるが、その一部は:
ディザスタリカバリ (DR)およびフェイル・オーバー: プライベート・クラウドが自然災害のためなどで運用が出来なくなった際に、パブリック・クラウドでその運用を自動的に代行することができる。
クラウド・バースティング: 負荷の増大で一時的にプライベート・クラウドでの処理が間に合わなくなり、余剰の処理能力をパブリック・クラウドで補うことができる。
Follow-the-sun: 一般に人は昼間働き、夜休息を取る。夜間になって飛んでくる負荷をまだ昼間の地域で処理するためにVMをその地域に移動出来れば、効果的な運用が可能となる。
Follow-the-moon: 逆に、夜間は一般的に昼間より電気代が低い。それを利用して、夜間のクラウドで負荷を処理すれば電気料金を節約することができる。そのためVMを移動する必要がある。
現在までに、ハイブリッド・クラウドの利便性は強調されてきた。しかし、以下の技術問題で必ずしも簡単に実現されるものではない。
VMのファイル形式
パブリック・クラウド: この領域は圧倒的にAmazonが市場を占有している。AmazonはXenをベースにしたIaaSサービスを提供しているが、virtual machine (VM)のファイル形式はXenで使われているVHD形式ではなく、自前のAMI形式を使用している。
プライベート・クラウド: この領域はVMwareの製品が市場を占有している。ここでは、ファイル形式はVMDKである。
では、大部分のVMのファイル形式がVMDKであるプライベート・クラウドからどうやって、AMI形式のパブリック・クラウドにVMを移動させるのだろうか。移動させる度に、ファイル形式を変換する必要がある。もちろん、ファイル形式を自動変換するツールも存在するが、ハイブリッド・クラウドと一口に言ってもそんなに簡単でないことは自明である。
VMの移動:
実行しているVMの移動と言えば、VMwareのvMotionが良く知られている。vMotionは非常に技術的に興味のあるものであるが、移動する2つの環境はどちらもVMwareでなければならないとか、その移動距離が200kMとかの制限がある。
管理環境:
現在クラウドの管理環境には標準がない。VMのファイル形式に限らず、標準がないため、管理環境もそれぞれ一定していない。同じVM技術を使用したとしても、そこで使用されるツールや管理方法やポリシーなで異なる。このため、必ずしもVMを2つのクラウドで移動させた場合、容易に管理できるかは定かではない。
更に他の条件も含めると以下が満たされなければ、ハイブリッド・クラウドの実現は覚束ない。
2つのクラウド間には必要最小限度のコンピューティング力が存在する。つまり、余剰のコンピューティング力を常時保持しない。常に保持しているのであれば、それはDRの実装であり、オンデマンドのクラウドのスピリットに反する。
2つのクラウド間のファイル形式が異なっても移動に支障がない。
全てのアプリケーションは仮想化されているとは限らず、プライベート・クラウド上でその様なアプリケーションもパブリック・クラウド上で問題なく運用されなくてはならない。
2つのクラウド間は、データや状態の一貫性が常に保持されなければならない。例えば、クラウド・バーストで余剰のコンピューティング力をパブリック・クラウドで実現した際、負荷が落ちた場合、パブリック・クラウド上のVMは停止されるが、その際変更されたデータや状態情報はプライベート・クラウドに自動的に移動され一貫性を保証する必要がある。
さて、この条件を満たすのは、かなり高い壁を越える必要があるように思われる。
最近ハイブリッド・クラウドの技術を開発したCloudVelocity社を訪問する機会があり、その技術について話を聞いた。Rajeev Chawla (CEO) とGreg Ness (VP Marketing) の両氏が対応してくれた。
左から、Rajeev Chawla (CEO) とGreg Ness (VP Marketing) の両氏
非常に簡単に言うと、以下の様になる。
プライベート・クラウド内の全てのコンピュータ力の目録を作成
目録内のコンピューティング機器がどの様に配置され関連付けられているかをデータベースに格納
必要に応じてVMを相手方のクラウドに作成
2つのクラウド間のVMを同期させる
作成したVMを立ち上げ、元のVMを停止させる
しかし、これではまだ技術的詳細が分からない。次回はもう少し詳細を見ることでこの技術の解説をする。