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30年に渡って関わってきた米国のITの出来事、人物、技術について語る。

ICTと物性

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電気屋の頃、研究室配属の時、どの研究室を選ぶか他の皆は一生懸命考えていた。グウタラ学生だった筆者はあれこれ考えるのも面倒だし、競争率の高い研究室を選ぶと話合いとか抽選で決まるので、これも面倒だという事で、誰も応募しない研究室を選んだ。その程度だから、友人が「物性をやっているXX研究室を選んだ。」と嬉しそうに言うのを聞いて、「そう、物性ね。」と思った。もちろん、物性がなにか分かっていなかった。今も分かっていないのかも知れないが、物性・材料がなければICTは成立たない。例えば、半導体とか、燃料電池(FC)とか、バッテリーを構成する材料のことだ。

最近3つの動きにぶつかったので、書いて見る。それぞれに関しては、後日時間があればもう少し詳細に取り上げてみたい。その3つとは、FC、新しいバッテリー技術と高電圧に耐えられる半導体だ。

FC

FCは水素を燃料として、燃焼(火力発電)も必要とせず、化学反応だけで電力を生成する。もちろん、二酸化炭素のような温室効果ガスも放出しない。できるのは水だ。FCについては後日もう少し詳細な話をするつもりだ。滅茶苦茶簡単に言えば、小学校や中学でやった水の電気分解の反対のようなものだ。原理は似たようなものでもその手法は幾つかあり、出力も異なる。また用途も、携帯用、設置型、自動車用などがある。日本でも、ガス会社が家庭用のものを提供している。大型のデータセンターとなると、何十MWのも電力を必要とする。つい最近までは、FCは電力容量が小さすぎてデータセンターには向かないと切り捨てられてきた。最近になってeBayUtah州の最新のデータセンターにFCを使用すると発表してから、FCに注目が集まっている。eBayの他AppleNorth CarolinaのデータセンターにFCを設置している。

通常データセンターの運用は電力会社から電力供給を受けて、その補助用としてUPSやディーゼルエンジンの発電機を設置するのが常道だ。eBayの場合はFCを通常の電力源として、むしろ電力会社からの電力供給を補助用にしている。このことは、大きな発想の転換だ。Bloom Energy社のFCは一台は大型の冷蔵庫程度の大きさで、200kWの発電を行う。現在は6MW分の電力を確保するため、30台を設置している。通常のUPSとデーゼル発電機に比較すると必要とされるスペースもぐーんと小さくなる。言いことずくめの様だ。問題は、その安定度と信頼性だ。eBayもこれを導入するにあたり、長期に渡り他の解やベンダーも含め精査したようだが、最後はCEOの鶴の一声で決まった。電力不足に悩む日本、果たしてFCは救世主になるのだろうか。

バッテリー

電気自動車(EV)に対する期待は大きい。シリコンバレーではPriusはでこにでも走っており、Leafも結構見かけるようになった。しかし、所詮ここは最新のものを試してみようと思うお金に余裕のある人が集まっているから。全米からみるとまだまだだということだ。なぜ、普及しないかの大きな原因の1つは走行距離が短いことだ。一回の充電で100マイル(160km)しか走らない。ガソリンの自動車で大体300マイル(480km)は走ると言われている。電力不足でエンコしてしまうのが一番の恐怖だそうだ。バッテリーの技術も進歩した。最近はリチウム・イオン電池が主流だが、まだまだ容量が足らない。これが解決すれば、爆発的に伸びるのではなかろうか。

いま、高容量のバッテリーに開発がIBMを主体に開発が進んでいる。バッテリーの方充電の際に必要となる酸素は以前は電池内の物質から調達していた。そのため、十分な量を短時間で得ることが困難であった。このリチウム空気電池は外気を取り入れて必要な酸素を入手する。また、酸素を外に放出でこの問題を解決した。この結果電力密度を約10倍に高めることができるとのことだ。この研究は2009年から始まり、日本の旭化成も協力している。しかし、完成は2025年あたりと推測されている。それまで、今のEVに対する興味と支持が続くのか心配でだ。

高電圧半導体

2万ボルトの高電圧に耐える半導体の作成に京都大学の木本恒暢 工学研究科教授 のグループが成功したと報じられている。電力の送電、変電 には高電圧に耐える半導体が必須だが現在まではせせいぜい8千ボルト程度だった。このため、高電圧直流送電などへの応用が開ける。一般的に今の電力網の多くの危機は電気機械式のものが大多数だ。例えば、変圧器は1次側と2時側とのコイルの巻き数によって電圧の変換比が決まっており、自在に変動させることは出来ない。また、変換で電圧にゆがみが生じても修復する機能はない。しかし、もし変圧器をエレクトロニクスで実現すれば、ソフトウエアによるコントロールで変換比を自在にコントロールできるだけでなく、電力の波形、周波数や上下も簡単に修正することが容易となる。

30数年前の「物性」はこれだけの時を経て、筆者の前にまた現れた。今度は過去と違いその重要性を理解している積もりだ。ICTはともかく、この物性の分野は上からも分かるように、日本でも多く研究されており、成果もでている。今後も期待したい分野である。

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