ITベンチャーで成功したら、その後どうなるのか
日本は記録的な暑さのようだが、シリコンバレーの今年の夏は涼しいを通り越して寒い。日中でも25度くらいにしかならない。朝晩は12度とか13度だ。上着なしでは寒すぎる。日本の人と話していて気候の話で共感できないので困ることもある。今これを書いている朝の10時半で16度しかない。
それはさておき、シリコンバレーでの成功率は非常に低いと書いた。でも成功する人はいる。では成功した後、そういう人は何をするんだろうか。滅茶苦茶近いというわけでもないが、新聞やウェブのニュースで目にするだけ、というよりはかなり近い人々を例にとってみよう。3人のうち2人は名前を伏せるが、ひとりはオープンソースのMySQLの元CEOで、現在、クラウドのプラットフォーム ツールキット会社、EucalyptusのCEOであるMarten Mickos氏だ。最近彼をインタビューした。その記事はここを参照。
MartenはMySQLを日本円にして約千億円でサンに売却した。もちろんこの業績で、彼のベンチャー経営者としての価値が急上昇したのは間違いない。人が幾ら儲けたかという話をするのは品がないという教育を受けているのだが、敢えて書くことにする。ベンチャーのどのフェーズから参加したかにもよるが、一般にCEOは会社の数パーセントにあたる株式を与えられるものだ。そうすると、千億円の数パーセントが収入として入ったはずだ。税金等色々な経費もあるが、まあ普通ならもう働かなくても一生遊んで暮らせるだろう。
彼はMySQLを辞めた後、MySQLに投資した大手のベンチャー キャピタル(VC)、Benchmark Ventureのオフィスを仮のオフィスとして活動していたようだ。VCにしてみれば、有能でbattle tested(実戦で証明済み)なベンチャーの経営者は、自分たちの投資を守ってくれる英雄だ。EucalpytusはBenchmarkが投資していたベンチャーで、彼がそのCEOとなったのも頷ける。幾ら金が入っても、ベンチャーの世界で飽くなき追求を続けているのだ。MySQLのコンサルでビジネス オープンソースというものを学んだが、データベースよりももっと大きなクラウドでのビジネスで挑戦するというのも十分理解できる。
インタビューは彼の住む街のどこにでもあるカフェで朝7時半に開始した。この店は朝7時半からしか開かない。もし開店時間がもっと早ければ、もっと早い時間を指定しただろう。話の内容や態度は謙虚そのもの。あんなでかいビジネスを成功させ、また現在クラウドの分野でダークホースとなったベンチャーを率いている人とはとても思えないものだった。競合を決して悪く言わず、突然現れる若い人々の率いるベンチャーに良い意味でおびえている。その姿勢に学ぶことは多い。このインタビューの後どうするのかと聞いたら、これが今日の最初のミーティングで、この後も目白押しだと言う。夕方には家族と一緒にフィンランドへの短い休暇に出かけるそうだ。ちなみに彼はフィンランド人。フィンランドの公式言語はフィンランド語とスウェーデン語だ。MartenとMySQLのもうひとりの重鎮はフィンランド人だがスウェーデン語圏に属す。で、正確に言えば、MySQLはスウェーデン語の会社だ。
二人目は、名前は伏せるが、ソフトウェアのライセンスを管理する会社の副社長として、投資銀行などの助けを受けずにその会社を今筆者がこれを書いている大手に売却した。価格は800億円に近いものだった。彼の給与体系は複雑なのだが、それでもかなりの額が入ったようだ。その後3年ばかりITを離れて不動産の投資などをしていたが、ITに帰ってくる際、まずはエンジェル投資家として復帰した。色々と投資案件を見ながらここだという会社に投資して、そこのCEOに収まった。何故彼を知っているかというと、彼の会社でコンサルをしたからだ。さらにその以前、筆者がこちらの日系の会社で事業部を立ち上げてベンチャー方式で運営しようとしていた時、コンサルとして彼を雇ったのが最初の出会い。立場が変わったわけだ。彼は非常に気さくで、偉そうにもせず、またざっくばらんな人だ。だから彼があからさまに彼の財力の話をしても腹が立たない。彼は単に事実を語っているだけなのだ。彼が筆者に語ったことで一番印象深いのは、「もう一生働かなくても食うには困らない。でも、親父が朝から何もせずにパジャマ姿のまま家でごろごろしていたら、子供に示しがつかんだろう。子供が人生ちょろいと思ったらまずい。」なんたる率直さ。確かに、2人の子供は彼の財産を継げば、額に汗して働かなくても暮らせるかもしれない。でもそれでは、子供の先行きが心配なんだろう。
残念ながらその会社、業績が良くなく畳んでしまった。今彼が何をしているのか知らないが、またシリコンバレーのどこかで会うこともあるだろう。常にコンタクトを取っている人もいるが、何かのきっかけで再会してまた一緒に仕事を、というのも過去に何回かある。それぞれの時に全力で仕事をして良い人間関係を築き、敵を作らず、違うシチュエーションでまた出会った時に誘って貰えるようにと心掛けている(と言っても、身に降る火の粉は払わないといけない時もあるが。)
最後は、データセンター運営会社、Equinixの共同創始者のひとりだ。これも名前は伏せる。Equinixは順調に発展を続け、今や総売上890億円規模に達している。アメリカ国内はもとより、世界中でデータセンターを展開おり、日本でも運営している。彼は数年前にEquinixをリタイア(彼は筆者よりかなり若い)したが、創始者のひとりとしてEquinixが株式上場する前から関わってきたので、かなりの資産を得ただろう。しかし彼も家でごろごろせず、あちこちの会社のボード メンバーになったり、コンサル ビジネスを立ち上げたりしている。
さて筆者だが、まだ成功したとはとても言えないので、平日であろうが休みであろうが早く起きてムシムシと仕事をするのみだ。ある意味では、もう一生働かなくても食える財産が無い分だけ、成功した上の3人のように思い悩まなくてもよいという強みがある。。。。これは明らかにイソップの酸っぱい葡萄だ。
では、寒いシリコンバレーから、暑い日本の皆様へ、残暑お見舞い申し上げます。