これで良いのか、日本企業のアメリカ企業への連携アプローチ
アメリカとイノベーションの話は少しおいて、今回は日本の企業がアメリカの会社との連携を模索する場合について述べてみよう。筆者はコンサルタントとしてアメリカ側に付いて話をする場合もあるし、日本側のお手伝いをすることもある。また日系企業に籍を置いたこともあり、かなり日本側の事情も分かる。
日本企業が連携を考えてアメリカの会社を調査することに関わった経験を振り返ってみる。大体の場合、日本の企業は情報を収集することには貪欲だ。それ自体は悪いことではない。でもあまり熱心に相手の会社の技術やマーケティングの情報を知りたがるので、アメリカの会社は日本側が乗り気だと思ってできるだけの情報を提供する。ここまで乗り気だから次の段階に行くかと思ってアメリカ側が期待していると、その後はなしのつぶてとなる。それでアメリカ側は頭をひねってしまう。そういう経験を何回かすると、アメリカの会社は日本の会社を相手にしなくなる。
例えば最近、知り合いのデータセンターの会社から問い合わせがあった。日本から数社、そこのデータセンターを見学に来たが、その後何の連絡も無いのでどうなっているのか、というのだ。
しかし、日本側には日本側の事情がある。大抵の場合、実際にアメリカの会社と会って話をした人々は次に話を持って行く権限がない。日本側は集めた情報を解析して、なかなか良いレポートを作成している場合が多い。技術に関しても場合によってはアメリカ側より良く理解している。しかし、その次に移ることは稀だ。アメリカ人のアナリストで日本の会社を扱った人がこの状況をうまく表現している。「アメリカの会社はコンサルティングを購入するが、日本の会社はリサーチレポートを買いたがりコンサルティングを購入することは稀だ。」つまり、情報は収集するがそこまで、ということ。
一時流行った「シリコンバレーの会社のツアー」というのも日本の会社特有の感じがする。これはシリコンバレーに1週間ほど団体でやって来て、十数社を回って話を聞いたり講演を聴いたりするものだ。ずっと前はシリコンバレーも景気が良く、日本とのビジネスにつながればということで、このツアーを担当する人を雇ったくらいである。しかし、日本の会社が多数押しかけてきて、でもビジネスには結びつかない(訪問したら、はいそれまでよ、が多い)、そんなことがシリコンバレーの会社で何時までも続く訳はない。今や有料にする会社や断る会社が続出している。
さらに日本企業の意思決定のスピードが遅いことも知れ渡っている。なぜ話が止まっているのか、次のステップがあるのか、日本人の私でも分からないことが多々あるので、アメリカの会社にとっては更に理解に苦しむところであろう。大体日本の会社では、どこかと連携するという話になると関係者全員に稟議書が回り、全員の判子がないと処理できない。聞いた話では、うるさい人には稟議書が回る前に電話などで稟議書の内容を説明してあらかじめOKを取っておかないと、稟議書が回った段階で「こんな話は聞いていない」と判子を押してくれないことが結構あるとか。とても筆者にはついて行けない世界だ。
以上は筆者の経験に基づくもので、もっとうまくものごとが運んでいる場合もあるのだろう。だが、こういう経験は筆者特有のものか、筆者の取り持ちの仕方が悪いのかと思って同業者やアメリカの会社に話を聞いてみたが、どこもあまり変わらない。ただ、日本側の当事者がアメリカの会社と会って情報を収集した後の一歩が踏み出せないことにフラストレーションを感じていることは確かだ。
ICT(情報・通信技術)に関しては、アメリカが進んでいて日本は遅れているという意見が未だに根強いが、ものによっては日本の方が進んでいる。以前ブログにも書いたようにブロードバンドのインフラやサービスは日本の方が進んでいる。アメリカの通信関連ベンチャー会社はNTTなどに売り込みをしたいようだが、こうしたアイディアは既に日本で実装されていることが多い。この点に関して、アメリカで投資や連携を求める日系の通信会社の方に「なぜ通信後進国のアメリカでアンテナを張っているんですか」と尋ねた。回答は面白かった。「インフラや下位のサービスではあまり参考にはなりません。しかし、」と続けて「上位層ではやはりアメリカの会社には敵わないことが多いです。」
最近アメリカの会社は、市場を求めるなら中国やインドへと目が向くような感じだ。中国やインドとはあまり付き合いがないが、聞くところによると、中国はホンネと建前が近いので、アメリカ人にとってはビジネスがやりやすいようだ。どうも日本の元気のなさも手伝って、このままでは日本のICTはどうなるのかと思うこの頃だ。