米国でブロードバンドのサービスを確保するのも楽じゃない
このブログは東京に向かう新幹線の中で書いている。東京―大阪間の移動はN700系を探して書き物をする時間としている。惜しむらくは、ネットの接続がないことだ。もちろん日本に住んでいれば、どこかのプロバイダーと契約してWiFiでアクセスできるのだろうが、何分そうもいかない。
56K以前の世界を知っている者として、Cisco社長のJohn Chambersが自分の家に専用のT1ライン(1.5Mbps)引いたというニュースを聞いて羨ましく思ったことをつい最近のことのように思い出す。あちこちで報道されているのでもう周知のこととは思うが、米国はブロードバンド後進国だ。さすがに最近はケーブルなら24Mbpsまで、DSLでも最高24Mbpsまでのサービスが提供され始めた。しかしATTがサービスを提供している地域ではDSLの24Mbpsというのは、ATTが提供するDSLによるTV配信を買った場合だけで、ネット接続サービス単体では最高6Mbpsまでだ。筆者はケーブルのサービスを金輪際買うものかと固く堅く誓っている(理由は後を読めば明白)。
筆者の家はDSLで3Mbps、オフィスは1.5Mbpsだ。家では6Mbpsのサービスも購入できるのだが、大体サービスを変更するとうまくいかなくなると思うのでそのままにしている。何月何日にスピードが増加しますというお知らせが来る。その日になっても何も起こらない。電話連絡すると、米国国内に繋がるならともかく、ヘビーアクセントのインド人の「ビル」や「ジム」が電話に出てくる。そして技術的に全く何も分っていないとはっきり分るような指示を与えてくる。であるから、速度が遅くてもとりあえずはネット接続があるからましだと思う。ともかくサービスが猛烈に悪いことが多いので、これはユーザーにサービス コールを諦めさせる戦略だとさえ疑っている。こういう風にネガティブにものを考えるのは筆者の得意技。性格は暗いし、疑い深いのだ。しかし、以下の経験を聞けばなぜ筆者がそうなったかあなたも納得すると思う。筆者はこのブロードバンドの悪いサポートの被害者だ。
ブロードバンドのサービスを初めて検討した時、まずDSLを考えた。その時は電話会社の他CLEC(新興電話会社)もDSLサービスを提供していた。独占電話会社は税金で巨大なインフラを構築したのに、そのインフラを開放しない。それを打破すべく、ラストマイルを開放させる法律が成立した。独占電話会社のインフラを利用して、そのラストマイルでDSLなどのサービスを提供するのが新興電話会社だった。
その中の一社、COVADに連絡してDSLのサービスを受けられるか聞いたところ、電話局からの距離的に可能と返答があったので早速申し込んだ。2日ほどして今度は独占電話会社から人が来て、このDSLサービスのために新たに近くの電柱から電話線を引き込んだ。後はCOVADからサービスOKの連絡とモデムが届けばようやくブロードバンドだ。だがそれ以後待てど暮らせど何の連絡もない。とうとうしびれを切らせて連絡すると、「お宅の家は電話会社から遠すぎるので、サービスを提供できません」という回答。それなら新たに電話線を引いたのは何だったんだと突っ込もうとしたが、相手はさっさと電話を切ってしまった。その後独占電話会社もやってこないので、我が家には全く必要ない電話線が一本繋がっている。
DSLのサービスが受けられないので、今度はケーブルを考えた。その頃はhome.netがサービスを提供しており、早速申し込んだ。米国では60%以上がケーブルのサービスを受けていると報じられているが、どういう訳か、我が家にはケーブルの引き込み線がなかった。それでサービスマンがやって来て、最寄の電柱(無駄な電話線が引かれたと同じ電柱)からケーブルを引き込んだ。そして、サービスが始まった。サービスはそれほど悪くなかった。しかし、home.netは倒産してそのインフラをATTが引き継いだ。(電話会社の変遷は非常に複雑怪奇でまた折をみて書こうと思う。)この引継ぎもまあまあうまく行き、満足に過ごしていた。今思えば、幸せな時期だった。
今度はATTがケーブルのサービス事業から撤退することになった。Comcast社がATTからこの事業を受け継ぐことになって、触れ込みでは何月何日にケーブル モデムをオンにしておけばサービスは自動的に引き継がれて問題ないとのことだった。さてその日。何も起こらない。次の日も何も起こらない。筆者は極度のネット中毒者だ。ネットが繋がらないだけで、もうこの世の終わりと思うタイプである。2日間もサービスがないのだ。なんということだ。神も仏もない。さてComcastに連絡しようにも、一度に何十万、何百万単位でサービスの移行が起こっているのだ。電話は繋がらない。メールは送れない(ネットに繋がっていないのだから当たり前だ)。ただ悶々と日々を送っていた。筆者のもっとも不幸な一時期だ。
一週間後にひょんなことから、この地区でComcastのサービスを行っている人に連絡がついた。やって来たこの人が言った一言。「ああ、お宅のケーブル モデムではうちが新たに始めたサービスのプロトコルを理解できないね。これが新しいモデム。換えておきます。」それでサービスは回復。この1週間は何だったんだ。さてこれ以降、サービスが良ければ、「終わり良ければすべてよし」となるはずだった。しかし、サービスは度々中断され、サポートに電話するとなかなか繋がらない、繋がっても「ええ?お宅の地域のサービス落ちてるって?ちょっと待って」と長いこと保留にされて挙句の果て、「落ちてますね。はっはっは。いつ回復するか分りません。」こういうことが度々起こった。またサービス費ががんがん上がり、「ケーブルTVのサービスも同時に買うとお得ですよ」という宣伝が度々来る。
堪忍袋の緒が切れかけた頃、電話会社がファイバーをFTTN(Fiber To The Neighborhood)で近くまで延長して、そこからDSLを提供し始めた。今度は距離的に問題がない。さっとDSLに乗り換えた。その時は6Mbpsのサービスもあったが、6Mbpsも要らないなあ、思って3Mbpsにしたのだ。
この話を読んで、あなたはなぜ筆者が6Mbpsに変更したくないのか分かっただろう。今何とかなっているのになぜサービスの変更をするのか?筆者の性格が暗くて疑り深いのは皆この経験のせいである。