Smart Gridの通信プロトコル
あちこちで言われているように、Smart Gridとは「智」のない電力網にICTの技術で「智」を注入するプロジェクトだ。ICTというのだから、通信、セキュリティ、アプリケーション、標準などが関わってくる。最近出席したSmart Gridのコンファレンスで、講演者のひとり、Wi-Fi Allianceの技術ディレクターであるGreg Ennis氏にインタビューする機会があった。そこでのやりとりと氏の講演を基に、Wi-FiのSmart Gridへの応用について述べる。氏の講演やデモは録画してあり、以下で視聴できる。
GridCom Forumで講演するGreg Ennis氏
Smart Gridの応用範囲は、発電、送電、配電、その他を含み、非常に多岐にわたる。電力網は所謂サイロ型のサブシステムで構成されている。ここでいうサイロ型というのは、システムを構成するそれぞれの要素が互いに独立して情報を共有できないシステムのことを言う。つまり、それぞれのサブシステムは、他との整合性やインターフェースを考えずにその部分のみに焦点を当てた手法で構築されていることが多く、現在電力網に適用されているICTの技術の大部分は必ずしも標準に沿ったものではない。そのため、電力網をひとつの大きなシステムとしてとらえることができず、管理も困難となる。これを改善するには、それぞれのサブシステムを精査して、サブシステムそのものや他のサブシステムとのインターフェースを標準化して整合性を図ることが肝要である。このため米国では、商務省内の国立標準技術研究所(NIST)が中心となって標準と整合性の設定を行っている。NISTは技術の分野を22に分けてそれぞれ分科会を設置している。これにはICT技術だけではなく、電力やその他の技術も含まれている。筆者が所属するのは研究開発のグループである。
最近発表されたレポートではSmart Gridに適用される技術が2つのグループに分けられている。既に標準として受け入れられている第1グループと、有望だが更に精査が必要な第2グループだ。ICT関係では第1グループにはIPがリストされており、IEEE 802、セルラー、HomePlug、ZigBeeなどは第2グループに入れられている。Ennis氏によると、NISTは、第2グループの技術を第1グループに格上げすることに非常に慎重だとのことだ。
周知のように、IEEE
802はEthernet、Wi-Fi、WiMaxなどのプロトコルを含む。EthernetやWi-Fiは既に長期間多くの人々に利用されており、WiMaxと同列に扱われることは納得できない。Ennis氏にWi-FiはWiMaxと競合しているのかと尋ねたが、「WiMaxとWi-Fiは補完関係にある」という優等生的な回答しか貰えなかった。
デモは家庭内を想定していて、メーター、アクセスポイント、温度計、iPhone、PCをWi-Fiで繋ぎ管理するというものだった。
デモの設定状況
デモは問題なく終了したが、新鮮味がなくあまり面白くなかった。というのは、Wi-Fiがあまりにも身近になり過ぎて、socketを使えば筆者にもプログラム可能と思ったからだ。メーターやその他の機器にWi-Fiを内蔵したチップが搭載してあればプログラミングはさほど困難なものではない。最近のOSプラットフォームではIPスタックは搭載されているか搭載可能となっている。LinuxやWindowsはもちろんのこと、あまり聞かないRTOS上でもIPスタックにアクセスすることは可能となっている。このため、ひとつのプラットフォームでプログラムを開発すれば、それを他のプラットフォームに移動してもほとんど変更なしで使用可能だ。
最後に、802.11の標準はa,b,gと、最近標準として認められたnがあるが、Smart Gridに適用する時はどのように組み合わせるかとEnnis氏に質問した。最終的にはnで統一されるとのことだった。どう考えても、Wi-Fiが標準にならないはずがない。NISTが標準を見直すのは最低でも6ヶ月は掛かるだろうとのことだった。次の見直しで、Wi-Fiが第1グループに所属するようになるだろうか。