トラパパさんの本『SEからコンサルタントになる方法』の感想
ITmediaオルタナティブブロガーのトラパパさんの『SEからコンサルタントになる方法』という本を読みました。
読みながら「うんうん」とうなづいたところに付箋を貼っていったらこんな感じになりました。
どっさり。
私はオルタナティブブログで数少ない現役SEの1人なので、SEの視点を意識して感想を書いてみました。
第1章 コンサルタントのことを知っていますか?
この本全体を通してもっとも感銘を受けたフレーズがこの章にありました。
コンサルタントは問題解決で報酬をもらうので、別にシステムを構築しなくても、問題解決さえできればいいのです。(コンサルタントとSEの仕事内容の違いと共通点)
SEとして要件定義に参加する際には、既にシステムの方向性ができつつあります。その時点から「構築はおすすめしない」という結論が出ることはあまりないのではないでしょうか。要件定義やよりも一歩手前である経営戦略の立案や業務プロセスの分析に参画できるコンサルタントと、経営戦略の一部としてIT化が決断されたところからの参画となるSEの大きな違いであると思います。
情報処理技術者試験のシステムアナリストの各種参考書にはシステム化の断念も含めて検討することが記載されています。しかしながら実際の試験問題で「システム化の断念」という体験が役立つような問題はこれまで無かったように記憶しています。SIerを中心にして、お客様の中にも「とにかくシステム化」という雰囲気を感じることがあります。新システムの開発による問題解決ありきで計画が進み、開発プロジェクトが難航してしまったような事例もあると聞きます。 新システムの追加開発でなく業務プロセスを変更することで問題を解決する、システム化しなかった場合の未来予測を客観的に行うといったことの重要性を感じました。
第2章 コンサルタントになるための基礎力・考え方
コンサルタントには、「追加の調査をしなくとも、与えられているインプットから最高のアウトプットをする」ことが求められます。(ゼロから何かを出せますか?)
SEの業務は、上流工程から下流工程に向けてインプットをアウトプットに変換していくことが基本となります。特にウォーターフォール型と言われるオーソドックスな開発スタイルでは、アウトプットがインプット以外に由来していることが許されないようなケースもあります。「この部分はこうしたほうが良いはずだ」という創意工夫は、コードの最適化など品質の向上に対して発揮されればプラスとなりますが、上流工程からのインプットの反して画面デザインを変更したり、業務プロセスを変えたりということは基本的には許されません。
特に大規模な開発ではこういった創意工夫をする場面が限られてしまいがちです。そうなると、自分が「ものづくり」に参画しているという自覚が薄められてしまいます。コンサルティング業務に対して憧れを抱くSEが増えているのは、コンサルタントならばもっと自分の裁量でインプットからアウトプットへの変換ができるのではないか?というイメージがあるからなのかもしれません。
第3章 短期間で最大の成果を上げるマネジメントスキル
コンサルタントがプロジェクトに臨むときの7つのロールという表は、SEがプロジェクトの中でどのように振舞うかということを考えるときにも役立ちそうなものでした。お客様がシステム化を検討するプロジェクトチームを招請する際に、システムの専門家としてSEが参画を求められることがあります。私にはまだそのような経験がありませんが、そういった状況で大きなパフォーマンスを発揮する助けとなってくれそうです。
(参考URL)トラパパ@TORAPAPA > 仕事依頼をくれたお客様への断り方
http://blogs.itmedia.co.jp/torapapa/2006/11/post_afb3.html
また、第3章では進捗管理と品質管理についてトラパパさんの熱い思いが語られており、一瞬PMPの教科書が乱丁して混ざっているのかと思ってヘッダを確認してしまいました(笑)。次はプロマネ系に特化した書籍で麗筆をふるっていただきたいと心の中で応援しております。
第4章 案件を勝ち取る提案力と営業力
この章ではSEだろうとコンサルタントだろうと営業マンだろうと変わらない、提案力と営業力についての様々なアドバイスが紹介されていました。
- 否定的な意見をすんなりと受け入れよう
- お客様の言葉をリピートしよう
- 良いプレゼンテーションの作り方
- 予算は”妥協”せずに”妥結”しよう
- 案件を断るときは気持ちを込めて対応しよう
などなど。読めば「当たり前」に感じることばかりなのですが、きちんとやろうと思うとこのうちのどれかひとつだけでも難しいです。普段からトラパパさんのブログの中で紹介される色々なことに挑戦してみるのですが、さらっと書かれているわりに実現することが難しいものが多いです。最近も「蛇足なことを言わない」や「TBDを気軽に使わない」というエントリがありましたが、何日か取り組んでみて容易でないことを痛感しました。
トラパパ@TORAPAPA > 蛇足の恐ろしさ
http://blogs.itmedia.co.jp/torapapa/2008/01/post-01da.html
トラパパ@TORAPAPA > 「TBD」を気軽に使わない
http://blogs.itmedia.co.jp/torapapa/2008/01/tbd-6efd.html
※第5章の『コンサルタントの報酬体系と採用試験対策』は転職に興味のある方なら参考になるんじゃないかと思います。今まで転職情報の収集などしたことがありませんので「ふーん」と思って読みました。
全体の感想
この本そのものがコンサルタントのアウトプットのあるべき姿を示しているかのようでした。私はこの本を読んで自分の課題をいくつも発見することができました。そういった効果が企業で発揮されれば経営上の課題を浮き彫りにし、自発的に改善へと向かうような影響を与えるのだと思います。そう考えると、コンサルタントの資質のひとつとして「課題に対して真摯に取り組むことを手助けする」ということがあると言えるでしょう。このことは文章に書かれていたことではありませんが、読み終わった後にそう感じました。
というわけで、コンサルタントになりたい方もそうでない方も、まずは第1章を立ち読みしてみてはいかがでしょうか。
# まだamazonでは「近日発売」になっているようです (2008.1.29 22:50)