ライアン・ホイミンの関係とプリンシパル・エージェント
ドラゴンクエスト4では、仲間達のキャラクターが固定されていました。
アリーナ、クリフト、ブライ、トルネコ、マーニャ、ミネアなどなど。
その仲間にライアンという戦士がいました。
ライアンの目的は勇者(=主人公=プレイヤー)の仲間になって
悪の頂点に君臨するデスピサロを倒すことでした。
その旅の途中でライアンはホイミンというホイミスライムを仲間にします。
ホイミンはホイミスライムという魔物ですが、人間になるのが夢です。
ホイミンは「人間の仲間になったら人間になれるのではないか?」という考えに基づき
ライアンと行動を共にすることになりました。
ライアンは勇者を探すことが目的であったわけですが、
ホイミンはライアンと行動を共にすることが目的だったわけです。
ゲームでは、戦闘で得た収入は2人の共有財産となり、
経験値は戦闘中の成果に関わらず均等に配分されました。
モンスターとの戦闘に際して、ゲーム上ではプレイヤーである人間が
ライアンとホイミンの2人に指示を出します。
現実の世界であればどのような形になったでしょうか。
プレイヤーに代わってライアンが細かくホイミンに戦闘の指示を出すでしょうか?
おそらくライアンは自分の戦闘に精一杯であると思います。
よってホイミンとは戦闘の前にお互いにどのように戦うか取り決めたと考えられます。
- 一番強い敵を協力して攻撃する
- 敵戦力が均等だった場合、目の前の敵を攻撃する
- 手が空いたらすぐにお互いの戦闘を助ける
- ホイミは早めにかける
- (以下省略)
以上のような約束をしておくのが普通かと思います
しかしここでホイミンの目的を思い出してみましょう。
ライアンは勇者と合流し、勇者の役に立つために体を鍛えたいと思っていますが、
ホイミンはライアンと行動をともにすること自体が目的になります。
強かろうが弱かろうがライアンと一緒にいることに変わりありません。
そうすると、ホイミンにとって戦闘に全力を傾けることは
利益が大きい行動であると言い切れないことになります。
ライアン「おおにわとり強いです。HP少ないのでこっちにホイミかけてください。」
ホイミン「(きりかぶおばけは弱いな。相手にならん。)手が離せませーん。」
(戦闘終了)
ライアン「がんばってたみたいだけど、もう少し早くホイミかけられない?」
ホイミン「(余裕あるけど)私もギリギリでやってるんですよ。無理言わないで下さい。」
こういう良くない関係になることも考えられます。
(実際のドラクエでは1対1の戦いが2組で同時進行することはありません)
これはプリンシパル・エージェントの問題と言われる情報の非対称性の一種です。
以下の原因から発生すると考えられます。
- ライアンがホイミンの実力を知ることができないこと
- ホイミンと戦闘中の敵の実力を知ることができないこと
- ホイミン自身にとって、戦闘で全力を出すメリットが感じられないこと
1番目の点について、ゲームのドラクエの画面のように
ホイミンの実力(HPや攻撃力)が明らかになっていた場合、
ライアンは「なにさぼってんだ。コンビ解消するぞ。」と、
文句を言うことができます。しかしそれができない場合、
「私はこれで精一杯です」と言われればそれを信じるしかありません。
2番目の点について、ホイミンが対峙する敵の強さを
把握することができれば、ライアンは「さっさと倒して援護しろ」
などの的確な指示を出すことができます。
それができない場合はどうなるでしょうか。
ライアンの敵が強い敵で、ホイミンの敵が弱い敵だったケースを考えます。
ホイミンは自分の利益を考えればわざわざ強い敵の前に飛び出していく
必要はありません。目の前の敵を「活かさず殺さず」で戦闘を長引かせ、
ライアンが強い敵を倒すのを待ちます。それで戦闘終了後に
経験値を等分することができるとしたら、ホイミンにとっては言うことなしです。
しかしライアンが死なないように注意を払わなければなりません。
ホイミンはホイミスライムですのでそこは抜かりないかと思います。
3番目の点について、ホイミンの目的はライアンと旅をすることです。
ホイミンに対して「レベル99になったら人間になるらしいよ」と
動機づけをすることができたとしたら、ホイミンは意欲的に戦うでしょう。
また、敵に殺されるかもしれない状況であればホイミンも本気を出しますが、
ライアンが強くていつも助けてくれる、という状況下ではその必要がありません。
すなわち、雇用主=プリンシパル=ライアンが、
使用人=エージェント=ホイミンの情報を把握していないとう
情報の非対称性により、ライアンが損をしてホイミンが得をすることになります。
身近なところで雇用主と使用人の関係と言えばサラリーマンです。
上の1,2,3を置き換えて説明してみます。
1については、社員の本当の実力がわからないことになります。
本当はもっと大量の仕事をすることができるはずなのですが、
社員が手抜きをしながら「これ以上仕事できません」という
態度を取り、それを見抜くことができないと会社は損をします。
2については、社員が取り組んでいる仕事の難易度を
会社が把握していない場合の問題になります。
少し前にホワイトカラーエグゼンプションという制度が話題になったことがありました。
完全出来高性の成果主義を取っていればそんなことは起こりえません。
しかし使用人に対して成果物を明確にしないことは、時間単価で
報酬を支払うような場合には、残業代の増加を促進する要因となります。
できるだけ時間をかけてやったほうがお金がたくさんもらえるからです。
また、「頑張り」や「姿勢」を重視して評価する場合には、本人が真の実力を隠して
余裕の仕事を「精一杯やりました」というように見せかける現象が発生します。
むしろ、「余裕でできましたよ」という姿勢は「額に汗して良く頑張った。偉い。」
という評価につながりにくいですし、「じゃ、もっと仕事しろ」と
新たな仕事を生むことになります。これは社員にとってはあまり魅力的でありません。
3については、ものすごく大きな部署や会社にいると、1人の社員のがんばりが
全体に連動しないように見える、という問題になります。
大きな会社では、個人のモチベーションが下がって仕事をしなくても
「創業以来の増収増益」という結果が起きることがあります。
また、1人が身を粉にして働いても「減収減益で株価暴落」という結果が起きることがあります。
評価制度を充実させることにより、がんばったらたくさん給料がでるという
動機付けをすれば、個人のモチベーションを維持することができます。
しかし現行の制度では会社が社員を解雇することはなかなか難しいことから、
「がんばらなくっても幾らかもらえるからそれでいい」という落としどころで
会社と社員のそれぞれの思惑が均衡してしまう場合があります。
これを社員の全員がやれば会社は倒産し、「幾らかはもらえる」状態もなくなります。
3番目の点は、利益を追求する集団の中で自分自身の利益を追求すると
集団にとってマイナスとなる行動を取ってしまうことがある、という問題と言えます。
環境の問題や、就職活動の早期化の問題に通じるものがあります。
ライアンが守ってくれるから、自分(=ホイミン)は手を抜いて戦えばよい。
利益は他の人が出してくれるから、自分はクビにならない程度に働けばよい。
ホイミンの場合は、確かに一生懸命に戦っても人間になれるという確証がありませんので
仕方がないでしょう。しかしサラリーマンの場合は、自分が努力して利益を増やせば
会社全体の利益も増えますから、自分の給料も増えるはずです。
ただし、会社の給料の配分に問題がある(完全年功序列制や学閥主義)とか、
自分の目には利益を下げる結果しか見えないような命令が会社から下った、
という場合には少し難しい問題です。自分が会社に貢献しても、
それが他人に渡ることが判りきっていたらさすがにモチベーションを維持できませんし、
賞味期限切れのチョコレートを偽装して出荷しろ、というような命令をされたら
それをいかに効率よくやるか、という点に尽力できないのも事実です。
かくしてライアンとホイミンは能力の把握や動機付けの点において
不安を抱えたまま、かたや勇者と合流し、かたや人間になるための旅に出ました。
2人とも夢が叶うといいですね。
(参考)関連する自ブログ内のエントリ
- ドラゴンクエスト
ドラゴンクエストの道具屋の憂鬱
ドラゴンクエストの宿屋の市場
ドラゴンクエストXIII~ランチェスターの教え子~ - 情報の非対称性
レモンの市場の続き(モラル・ハザード)
レモンの市場
私はドラクエシリーズでクリアしたのは3,4とモンスターズだけです。
5より新しいのはほとんど把握してません。
ファイナルファンタジーも好きですが、ドラクエも大好きです。
学生時分に飲み会をしたときに、誰かが飲みすぎて床に突っ伏すと
宿屋で起床するときの着メロ(たーらーらーらーらったったーん)を流して全員起立し、
パーティを組んで1列縦隊で練り歩くというのが流行しました。懐かしいです。
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