オルタナティブ・ブログ > 柴崎辰彦の「モノづくりコトづくりを考える」 >

サービス化時代の潮流、ビジネスモデルを探る。週末はクワッチ三昧!

SXSW2017観戦記ーその7 IBM is Making② 

»

SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は、世界80か国以上からの参加者同士がネットワーキングを目的に"参戦"する今最も注目されるフェスティバルだ。日本企業の活躍をこれまで紹介してきたがここで以前から参戦しているグローバルプレイヤーとしてIBMについて紹介する。前回、前編(IBM is Making①)では、"ENGAGING","SECURE"に関するデモを紹介したが、後編は、"PERSONAL","HEALTHIER"に関するデモを紹介したい。

IBM1.JPG

IBMの展示会場の入場にあたっては、黒服の警備員にパスポートの提示が必要(右側)》

8.お天気ステーション(WEATHER STATION)

ソーシャルイノベーション領域のデモ。天気を制御することはできないが、天気の体験を制御することはできる。センサーで収集されたデータが集計・可視化されている。

WEATHER STATION.JPG

《センサーらしき機器と一緒に展示

9.共創 (CO-CREATION)

教育の現場におけるWatson Education IBM Design Thinkingに関するデモ。実際には、共創とは何をどうすることなのか?を示すために教育現場を題材に IBM流 Design Thinkingのデモ展示を行っていた。

CO-CREATION1.JPG《参加者の意見を問うような演出も》

教育の現場では、教師の仕事をしっかりと把握するため、先生の後をついていったり教室にはりついたり、先生達の会議に数えきれないほど参加したとのこと。観察からアイデアへの変革観察結果を元にワークショップを開き、先生たちと一緒に課題解決に向けた議論をしたという。

ワークショップで作ったアイデアを試し、そこからのフィードバックを元にした拡張を繰り返す。

CO-CREATION2.JPG《展示用の演出とは言え、デザイン思考のアプローチは楽しい》

このプロジェクトで出たアイデアの一つは、 "Student Dashboard"。最初、教師は生徒のパフォーマンスを示すグラフを見たいと考えていたが、実際には成績を付けるためのツールがより必要なことが分かったという。

デザイン思考の考え方を元にした、課題抽出やアイデア出し、ワークショップ、プロトタイピング、実証実験というプロセスを IBMも持っている。実際の利用者である教師も巻き込んでいる点が特徴的。利用者もデザイン(設計)の課程に巻き込むことにより、利用者はその成果物を気に入りやすくなる。

技術面だけではなく、デザインシンキングやワークショップなどの開発手法、co-creationの手法も実践している。

10.オープンソースのボットプロジェクト(TJBOT)

チャットボットだけでなく、物理的な筐体を持つロボットを用いたインターフェースの開発に取り組んでいる。Watsonの各種サービスに人が楽しくアクセスするための(キーボードやディスプレイとは異なる)インタフェースを研究開発している展示。このロボットをコントロールするための指示を書くツールもある。

オープンソースのプロジェクトとしていることによって、多くの人がアクセスし多数のユースケースができる。

TJBOT.JPG《子供との工作で作ってみたくなる愛らしいロボット》

11.Internet of Caring Things (AGING IN PLACE)

IBM Researchがシニアのヘルスケアのために IoTを使っている事例。高齢者のための未来の家に関する展示。背景として、 高齢者はアメリカには約46百万人いて、介護は大きな問題となっている。子供の世話をしながら親の世話もしなければならない世代の人達もたくさんいる。また、高齢化はアメリカだけの問題ではなく世界中の問題となっている。この展示では、特に高齢者向けのスマートハウスで、キャビネットや椅子、冷蔵庫など様々な箇所にセンサーが付けられており、 パソコンやスマホなどから家の様子が分かる。 たとえばお母さんが今この椅子に座っているなどを離れた場所から 知ることができるという。

AGING IN PLACE.JPG《アメリカの家庭内を再現したデモ展示》

IBMはこれらの技術を Internet of Thingsではなく Internet of Caring Thingsと名付けている (care: ケア→気にかける、世話をする、介護する) テクノロジーが人をより人間らしくしてくれる点が重要。

技術としては、他社もすでに進めているスマートハウスの事例だが、 Internet of Caring Thingsのような名前を付けて、一段大きな視点で 技術の位置付けをしている点がうまいところ。

12.ワトソンヘルスケア(WATSON HEALTH)

ヘルスケアに関するデモ。ヘルスケアに関するデータの80%は非構造データであるテキストデータだという。Watsonの自然言語処理技術は診療に関するデータから構造的なデータを取り出すことができ、その結果を元に、その後の解析やアラートを実現できる。医療の専門家のためのヘルスデータのプラットフォームであるIBM Watson Platform for Healthは、ビジネスのためのプラットフォームではなく、医療におけるイノベーションを実現するためのプラットフォームという位置づけ。

WATSON HEALTH.JPG《展示用のお年寄りの人形が可愛らしかった

13.ワトソンビート (WATSON BEAT)

おしゃれで機能的なヘッドホンbeatsやキーボードを使った音楽関係のデモ。

WATSON BEAT.JPG

《クラウドの世界のコトのデモではリアル世界のモノと組み合わせが重要》

14.コグニティブビール(COGNITIVE BREWS)

Watsonがビールの鑑定をするという。真偽はさておき、面白い試み。生活者の中に新しいデジタルテクノロジーが徐々に浸透して行く。 

beer.JPG《デモでは実際に試飲をしていたので行列ができていた》

15.チャットボットと会話してTシャツをゲットしよう!(IBMPerspnail-tee

IBM版のチャットボット。「おもしろい」と同時に「うまい」デモだと思う。 はっきりとした正解の無い「性格判断」を題材としているので、その結果に同意できれば「当たってる」と思えますし、同意できなくても「そんな一面があるんだ」と思わせることもできる。 conversationという APIは、あらかじめ決めたシナリオにそって対話を進められる APIらしい。台本を書くことにより、その台本にそった対話が生成できる。 そのため、複雑な会話は実現できないが、この性格診断では基本的に、システムが質問してユーザが答える、というスタイルに絞っているので、台本だけのデモでもそれなりに見せています。

T-shirt.JPG《Tシャツをゲットしてご満悦の後輩君》

tone analyzerはポジネガ分類(sentiment analysis)の拡張版のようなものです。専門家によると恐らく機械学習を使ってあらかじめ感情の情報が付与されたテキストから学習しているのではないとのこと。この手の分類問題は問題の定義事態があやふやだったりする。たとえば、複数の人に同じ文章を見せたときに、書き手がどんな感情か?を尋ねると意見が分かれることが多いらしい。人間でも判断が揺れる問題ですが、ある程度の数の学習データがあれば判断できるようになるという。 ここでもやはり「うまい」のは、そういうあやふやな APIを、性格診断という、結果の厳密さが問われないところで使っているところだと思います。

マーケティングと技術、その両者がちゃんと連係できている例は、世の中を見ても実際のところ少ないのではないのではないでしょうか。ad-techとは言っても、よくある事例は ad寄りだったり、tech寄りだったりしているようにも感じます。

16.オープンエアでネットワーキング(ROOF)

屋上のルーフに上がるとそこにはBARカウンターとネットワーキングの場が。いかにもアメリカらしいですね。開放感あふれるオープンエアーの環境でちょっと息抜き。

roof.JPG《BARカウンターだけでなくソファーで寛ぐこともできる》

長年SXSWに参戦しているIBMの今回の展示は、まさに「IBM is Making」であり、完成した何かを展示している前提ではない。すべては試行中、あるいは提案。それだけに一見すると、くだらないと思えるものも多い。それを展示すれば(SXSWなので)参加者からのフィードバック、共同研究があり得る。昔のIBMなら内部で消えていったような研究を、こういうかたちで試行し、オープンにする点がさすがと思う。

(つづく)

Comment(0)