SXSW2017観戦記ーその6 IBM is Making①
SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)は、世界80か国以上からの参加者同士がネットワーキングを目的に"参戦"する今最も注目されるフェスティバルだ。日本企業の活躍をこれまで紹介してきたがここで以前から参戦しているグローバルプレイヤーとしてIBMについて紹介する。
《昨年同様、オースティンコンベンションセンターとは離れた場所に独自に展開》
"IBM is Making"のメッセージが示すとおり、すべてが試行中、あるいは提案という位置づけのものが多かった。一見すると、くだらないと思えるものも多い。それをSXSWに展示すれば参加者からのフィードバック、共同研究の発生の可能性もあり得る。昔のIBMなら内部で消えていったような研究を、こういうかたちで試行し、オープンにする点がさすがではないだろうか。
メインフロアーでのデモは、"ENGAGING","SECURE","PERSONAL","HEALTHIER"に分かれ、屋上ではネットワーキンができるようなBARラウンジが用意されていた。まずは、"ENGAGING"、"SECURE"に関するデモから紹介してみたい。なお、拙い英語力と限られた見学時間の制約もあり、内容はかなりの部分、推察により記載しているのであしからず。
1. オースティンの話題のスポットを捜そう(AUSTIN GEO VIS)
SXSWではたくさんのイベントが同時に開かれていて、どこに行くべきか悩ましい。そういった悩みを解決してくれるのがこの Mapbox。人々がどこに集まっていて何をしているかが一目で分かり、自分の行く場所を決められる。こういったアプリケーションも IBMの Bluemix APIを組み合わせればすぐに作ることができるとアピール。
《右下の図にはオースティンの街並みとそれについてのつぶやきが表示》
恐らくこのデモはこんな仕組みで実現しているのだろう。
- 各イベント会場に話されていることが "Speech to Text"でテキスト化され、
- その内容が "Discovery"によって解析され、
- その結果が"Cloudant No SQL DB"に保存され、
- その情報に対して "Conversation"を使って対話的にアクセスできるようにし、"Mapbox"により地図上に可視化している。
このような複雑な、そしてAI的なシステムを構成するための素材(API)が Bluemixはそろっており、それらを使えば新しい技術開発をすることなく短期間でアプリケーションを構築できるところがミソと言いたい。
とかく、Deep Learningなど個別のアルゴリズムや個別のAPIが注目されがちだが、個々のニーズや課題(今回の場合はSXSWの会場でのイベント探し)に答えるために、それらを適切に選び組み合わせてアプリケーションを作るところが実際に「価値」を生むところであり重要だと感じるデモ。
2.HMDでデータ分析ができたら!?(IMMERSIVE INSIGHTS)
《HMD(ヘッドマウントディスプレイ)でデータ分析をする時代へ!?》
ARのデバイスを付けると、目の前にニューヨーク市が3Dで表示される。 それぞれのビルが使っている電力の大きさが建物の上に棒グラフで映し出される。タップの動作によってグラフを選択して、時間当たりの電力使用量や住所などの より詳細な情報を見ることもできる。 もし、データサイエンティストがこれを使えば、 たとえば天候と電力使用量との関係などを調べることができるようになる。
ツールとしては以下の 2つ
- Data Science Experience "The IBM Data Science Experience"はインタラクティブで協調作業のできるクラウドベースのツールである。データサイエンティストはデータからインサイトを得るためにいろいろな機能を使うことができる。
- Bluemix Private Cloudプライベートクラウド
この技術は現時点では開発者用のみが利用可能で、一般消費者はまだ使えない。恐らく今年中には使えるようになるんじゃないかという意見もある。
SXSWならではの実験的なアプローチ。世の中にあふれる膨大なデータをARによって実社会に結び付け、それによって新しい価値(ここではデータサイエンティストの為の分析ツール)を示している。一緒に考えてほしい。だからこそ"Making"という進行形と言える。
ARやVRと言うとそのデバイスに目が向けられがちだが、そこに映し出すデータに着目している点が IBMらしいところ。どんなデータをどこで、どんなタイミングで出すか、ということが適切にできなければ、ARは、ちょっと面白いだけで終わってしまう。データと実社会のリンクを実現することにより、ARだからこそできる価値を産み出している点が、このデモのユニークなところ。
3. VR空間を音声でコントロールしよう!(SPEECH SANDBOX)
VRの空間では操作方法が限定されるので、そういう空間でこそ音声インターフェースが有用となるのではないか?という仮説をもとにこんなの作ってみましたがどうでしょうか?と。VRは圧倒的に画像とサウンド中心だが、そのVR空間に音声でインタラクトできたら面白いよね!という提案。「何ができるか」はIBMも模索中。そのうち手で触るような動作も入ってくるかも知れない。
《仮想と現実の境目がどんどん無くなって行く》
4.ハッカーがみんなのコンピュータをゾンビに変えたら?(GLOBAL THREATS)
日々、非常に多くのサイバー攻撃がIDやデータ、金銭などあらゆるものを盗もうとしかけられている。それは、特定の送信元からだけではなく、マルウェアに感染した身近な人からも送られることもある。そうしてサイバー攻撃はすごいスピードで拡散する。 このデモは、それをシミュレーションを使って可視化している。 攻撃を受けるのはノートパソコンやタブレットだけではない。 身のまわりのあらゆるデバイスがスマート化している。 電球や車もスマート化しており、これらすべてのデバイスが攻撃の対象となる。
このようなボットネット(ゾンビ化したデバイスの集まり)を利用するのはよくある攻撃の1つらしいが、デバイスがつながればつながるほど脅威(Threat)は増大するのでその対策はこれから深刻になるのであろう。
《ダークなイメージとは裏腹に攻撃を俯瞰するグラフィカルなイメージが目を引いた》
SXSWでは新しいデバイスなどきらびやかな展示も多いが、 セキュリティのような基盤の技術が非常に重要。そういう地道な技術もちゃんとやっているという点が、IBMらしい点、さすがという点、なのかと思います。
目に見えないので分かりにくいセキュリティの脅威をいかに理解してもらうかに注力しているのが、SXSWでのIBMらしさではないか。デジタル化が進行する世界ではセキュリティ技術をちゃんとやるのは当たり前なのだろう。
5.セキュリティアナリストを支援 (CORORATE THREATS)
先のデモとの違いは、自動的に可視化するデモであるのに対し、こちらは、セキュリティの担当者であるsecurity analystをサポートするもの。デモは、ゲーム感覚のシミュレーションツールでシナリオは大体こんな感じ。
- アメリカ、ドイツ、中国に展開しているグローバルバンクのセキュリティ担当者が、いつ、どこで特定のイベントが起きたかを調査することにより、セキュリティ上のインシデントを 90秒以内に調査する。
- 調査するイベント(以下)を選択し、「マルウェアである可能性のあるファイルがホストで見つかった」このイベントと関係のある口座を選択。
- ソース側の IP addressを選択、ターゲット側の IP addressを選択最終的に、脅威となるかどうかを判断する。
《ストーリー性を持たせて体現できるところが興味深い》
脅威に対して自動的に処理するシステムだけではなく、このように人をサポートするシステムをデモとして出している点がユニーク。現実的に90秒で出来るかは別としてそれぐらいの早さでインシデントレスポンスできないと現実的に意味がないということだと思う。
6. サイバー攻撃から組織を守る(INSECURITIES)
IBM QRadarサイバー攻撃から組織を守るソリュション。IBM Blockchain Blockchainとセキュリティの脅威に関する情報を共有するためのクラウドベースのプラットフォームIBM X-Force Exchangeを活用している。X-Force(セキュリティ研究開発チーム)は、もともとISSという会社がもっていたIBMが買収したらしい。
《デジタル領域でのセキュリティを重要視していることがわかる》
7.あなたのデータは狙われている(IBM BLOCKCHAIN)
これは、重要なデータがどれだけサイバー泥棒に渡されているかを見てみるデモ。既にブロックチェーンをセキュリティに活用している模様。
《自らの画像データをもとにサイバー犯罪の身近さを体験できる》
"IBM is Making"のメッセージの意味合いが少しでもお判りいただけたであろうか。
前編は、"ENGAGING","SECURE"のコーナーのデモをご紹介したが、次回は、"PERSONAL","HEALTHIER"のコーナーのデモについて紹介したい。
(つづく)