シリコンバレー見聞録―その5 NewSAPを牽引するSAP Palo Alto Labs
最近、ICTの世界では、システムをSoR(System of Record)とSoE(System of Engagement)という概念で説明します。これは、「キャズム」の著者で有名なジェフリー・ムーア氏が提唱する概念で、経理や人事など"記録の為のシステム"とデジタルテクノロジーを使った新しい"関係性の為のシステム"と捉えることができます。
ERPシステムの巨人と言われるSAPは、永らくSoRの象徴として捉えられて来ました。しかし、最近ではビジネス・ポートフォリオが大きく変化してきているようです。
《SAP Palo Alto Labs》
NEWSAP 成長の象徴
2010年頃のSAPの売上大半は、ERPビジネスでしたが、2015年にはNEWSAPと呼ばれるSoE、即ちデジタルビジネスの世界で売上を急伸させています。従来のERPビジネスは、売上げの4割しかないという。
では、新しいSAPのビジネスは、SAP発祥の地ドイツで生まれたのかと言うと、実はGoogleやApple、そしてあの電気自動車で有名なTESLAのあるシリコンバレーが起点となっているらしい。
《SAPと隣接するTESLAとPivotal(GEのIoT基盤を支えるCloud Foundryを提供)》
変革のポイントは、3つのP
今回、シリコンバレー訪問の目的の1つは、パロアルトにあるSAPの拠点を訪問することで、唯一の日本人として駐在する小松原さんにお会いすることでした。何故、SAPは、NEWSAPと呼ばれる新分野を拡大できたのか?小松原さんは、3つのキーワード(People,Place,Proces)を使って説明してくれました。
Peopleとは、多様な人との交わり、Placeとは、ドイツの城下町ではなくシリコンバレーに出島を作ったこと、そしてProcesとは、共通言語としてERP同様物事の進め方の標準化をグローバルで進める。
デザイン思考との出会い
SAPの会長だったハッソ・プラットナーは、2003年のデザイン思考との出会いに衝撃を受けたそうです。私財(なんと日本円で30億円以上)を投じスタンフォード大学にデザイン思考を学部横断で教えるd.schoolを設立しました。近接するSAPのパロアルトラボは、今では全ての仕事がデザイン思考の考え方で進められているそうです。
《カラフルなSAP Palo Alto Labsの室内。ネスレがスポンサーらしい》
人事や経理の打合せにも
当初戦略や開発に導入されたデザイン思考は、やがてNEWSAPを支える全ての業務やロールに広がります。訪問して驚いたのはあらゆるスペースがデザイン思考を実践するために設計されていること。研究開発は未だしも、人事や経理の打合せにもデザイン思考が実践されているとは驚きでした。
《デザイン思考を意識したちょっと遊び心もある施設》
"出島"と新しい仕事の進め方
シリコンバレーは、予てからICTベンダーのある意味聖地として存在してきました。SAPは、自社ビジネスを大きくドライブさせるために外資系企業としては、トップのシリコンバレー従業員数を誇ります(シリコンバレー在籍社員ランキングで13位の4,000名)。
しかし、単に拠点を作ればよいというのではなく、"やり方"自身を変える必要があります。
どうやらデザイン思考は、そのための強力なツールになっているようです。
(つづく)