オルタナティブ・ブログ > 柴崎辰彦の「モノづくりコトづくりを考える」 >

サービス化時代の潮流、ビジネスモデルを探る。週末はクワッチ三昧!

「コトづくりの国、ニッポンへ」

»

Tit_cover_2 日本初の広告マーケティング専門誌である宣伝会議11月号のオリンピック開催特集「日本企業がこの好機を活かすアイデア」に僭越ながら寄稿させて頂きました。

 今回は、その内容を元に「コトづくりの国、ニッポンへ」と題して7年後のオリンピックに向けた日本企業の取り組みについて少し書いてみたいと思います。

  • 日本企業が転換すべき視点

 2020年に東京でオリンピックが開催されることになり、日本企業、いや日本全体に共通の目標が設定されました。1964年の東京オリンピックと対比して今から7年後の2020年の東京オリンピックに向けて日本企業はどうあるべきか?

 日本の将来を考える上で必要な視点はズバリ「モノからコトへ」の転換だと考えています。

  • モノづくりニッポンの栄枯盛衰

 前回東京オリンピックが開催された1964年は、まさに映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の世界。高度成長まっただ中でモノづくり日本の基盤を築いた時代でした。オリンピック開催を機に新幹線や高速道路などさまざまな社会インフラが整備されました。テレビ・洗濯機・冷蔵庫の3種類の家電製品は三種の神器と呼ばれ、急速に家庭に普及し、オリンピックを転換期に輸出型の高度成長期を迎えます。そして、社会学者エズラ・ヴォーゲルによる1979年の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(原題:Japan as Number One)は、まさに日本の黄金時代を象徴するような書籍でした。
 1990年代後半から企業やマスメディアの間でさかんに使われるようになったことばに「モノづくり」があります。モノづくりとはもともとは大和言葉ですが、生産や製造を意味する言葉として盛んに使われるようになりました。日本の製造業と、その精神性や歴史を表す言葉であり、日本企業の繁栄は、日本の伝統文化に源を発するという考え方です。
 しかし、最近の日本企業はどうでしょうか?バブル崩壊後モノづくり神話はもはや崩壊し、韓国やアジア諸国にその地位を奪われつつあり、従来の「モノづくり」の視点から新たなステージへ転換期を迎えているように感じられます。

そこで注目したい概念が「コトづくり」なのです。

  • 「コトづくり」が世界の消費者と日本企業の新しい関係を創る

 「コトづくり」は、古くは流通業で語られ始めたと言うが起源は定かではありません。筆者は、本年総務省の「ICTコトづくり検討会議」の構成員として議論してきましたが、この概念が社会一般に浸透するのはこれからだと思われます。
 「コトづくり」をひと言で言えば、モノやサービスでイノベーションを実現するビジネスモデルそのもの。「モノづくり」が、”Thing (物)を対象”にするのに対して「コトづくり」は、”Event(出来事)を対象”とし、”機能的価値”ではなく、”意味的価値”を追求します。
 つまり、製品やサービスを売るのではなくて“体験や経験を売る”のが「コトづくり」なのです。そして物語性があってこそ価値のある「コトづくり」だと考えています 。
 コトづくりの具体的な例は、Apple社の事例が有名です。音楽プレイヤーとしてのMP3は単なるモノですが、「ipod+iTunes」になるとシームレスな音楽体験を提供する「コトづくり」になります。

  • 「モノからコトへ」の誤解

 「モノづくり」と「コトづくり」を議論する上で最近感じている注意しておきたい視点があります。「コトづくり」には、「モノとサービスを中心としたコトづくり」、いわゆる"製造業のサービス化"もあれば、もちろん「サービスだけのコトづくり」もあるということです。
 また、よく「モノからコトへ」という表現が使われるが、これは誤解を招きやすい表現だと思います。それは、「モノはもう必要無くなってコトが全てだ!」と言った極端な捉え方をされる場合があるからです。
 確かにモノのないコト(サービスのみ)もあるかもしれませんが、"強いモノとサービスが魅力あるコトを創る"場合も多いと思います。
 コトの議論が進み、共通認識が出来上がるまでは致し方ない事だとは思いますが、注意しておきたい文脈です。

  • おもてなしとのコラボ

 オリンピック招致で話題となった滝川クリステルさんのプレゼンテーションの「お・も・て・な・し」。いろいろな意見はあるだろうけど「コトづくり」は、「おもてなし」との相性もよい。
 実は、ビジネスモデルという視点で考えた場合、日本の伝統文化から今でも競争優位を持っている学ぶべきモデルがいくつかあります。
 京都の祇園などにある「お茶屋」は、芸妓さんや舞妓さんの仕事場ですが、「お茶屋」の「お母さん」と呼ばれる経営者は、お客様の来店の目的や好みを考えて、どの芸妓・舞妓を呼ぶか、どの料理屋の仕出料理を調達するかなどを決めてサービスを提供します。
 言ってみれば、「お茶屋」の「お母さん」は、まるでイベント会社のコーディネーター兼プロデューサーのような役割を担っており、お客様の素敵な時間を演出しているのです。「お茶屋」は、料理を提供せずに、場所だけを貸し、芸舞妓さんたちや料理に関する情報を集め、お客様の好みに応じてきちんと手配し「もてなし」をコーディネートする業務をなんと350年前から続けているのです。

 言い換えると、「お茶屋」は、お客様との接点をいかに保つかに特化し、顧客のニーズに的確に応えようとしているともいえます(お茶屋では”場”のみ保有している)。

 お客様に提供するサービス全体を組み立て、「おもてなし」のサービスとして”場”を提供するビジネスモデルを構築し、ビジネス環境が変化した今でも繁栄を続けています(サービスプラットフォームとコトづくり 〜京都の「お茶屋」のビジネスモデル〜)。

「お茶屋」のように継続性のある場を提供し、さまざまな関係者を満足させるビジネスモデルが日本の伝統文化にはこの他、いくつかあります。このようなモデルを現代のサービス業や製造業も大いに参考にすべきだと感じています。

  • 「コトづくりの国、ニッポン」の実現に向けて

 この日本の「コトづくり」で日本企業はもちろん、日本の国力がかつてのモノづくりのように世界に誇れるものになれば面白い。2020年の東京がまさに「コトづくりニッポン」の象徴のようになっていれば第二の高度成長期も夢ではないのではないだろうか。
 近江商人の経営理念に由来する三方よしの世界で提唱される「売り手よし、買い手よし、世間よし」の世界やお伽話の終わりのように「めでたしめでたし」と言えるような世界が「コトづくり」で実現される事を密かに期待しています。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する