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人事領域(上流/elearing/ERP)コンサルでの人材開発/人事の一歩先の動向を考えます!

「AIで人員削減が生じる」と経営幹部の99%が予測----それでも従業員に説明できていない、という不都合な真実

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CIO.comに、示唆に富むインタビュー記事が掲載された。マーサージャパンの江口智彬さん(人事機能変革・デジタル戦略プラクティスリーダー/プリンシパル)と諸橋峰雄さん(組織変革エクセレンスユニット統括/シニアプリンシパル)----私と同じチームで働く二人が、「グローバル人材動向調査2026」のデータを軸に、AI時代の組織・人事変革の実像について語っている。

同僚の仕事を紹介するのは少し面映ゆいが、内容そのものが極めて重要な論点を含んでいるので、本稿ではその要点を整理しながら、私自身の考察も交えて紹介したい。

参考:CIO.com「AIで人員削減を予測する経営幹部は99%━IT部門と人事に求められる『受託からの脱却』」(末岡洋子氏、2026年9月3日)

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■ 「共感のギャップ」という、静かな危機

記事はまず、マーサーのグローバル人材動向調査2026が示す、経営と従業員の間の深い溝から入る。

「AIによる雇用喪失が最大の不安の一つ」と回答した従業員の割合は、2024年の28%から2026年には40%へ上昇した(日本では23%から37%)。従業員の「活力」を示す指標も、2024年の66%から44%へと落ち込み、調査開始以来最低の水準になったという。

一方で、従業員の62%が「リーダーはAIによる心理的・感情的な悪影響を過小評価している」と回答している。不安が急増する現場と、その深刻さを十分に認識していない経営層。この間にある溝を、記事は「共感のギャップ」と呼んでいる。

このギャップの背景について、諸橋さんの分析が興味深い。人員削減の予測の多くが、AIへの理解が乏しいまま「世の中で話題になっているから自社も同様だろう」という感覚的な予測にとどまっている、という指摘だ。自社がAIによってどこを代替され、どこを拡張されるのかが正確に見えていなければ、その先の議論はできない。結局は根拠に乏しい印象論の数字にとどまっているのではないか、という問題提起である。

減る側の数字にばかり注目が集まりがちだが、営業やコミュニケーションのように人にしかできない領域は、むしろ重要性を増す。実際、AI企業自身が営業人材を増員している事実が、その象徴だと諸橋さんは指摘している。

江口さんは、この不安を放置することの危険性についても語っている。危機感を醸成すること自体は組織変革の基本であり必要なプロセスだが、「このままいくとどうなるか」という事実を伝えるだけで終わらせず、そうならないためにどんなシナリオを描いているかまで示す必要がある、と。目指す姿と支援策を示さないまま危機感だけを煽れば、従業員は不安だけを抱え込むことになる、という警鐘である。

調査では、AI導入戦略において「心理的・感情的影響を明確に考慮している」と答えた企業はわずか19%(日本25%)にとどまる一方、投資家の77%は「AI教育を通じて従業員の能力向上に取り組む企業」を好むと回答しているという。従業員の不安への対処は、単なる社内配慮の問題ではなく、企業価値そのものに関わる論点になりつつある。

そしてこの不安を和らげる役割を誰が担うべきかについて、江口さんは、CIOというよりCEOやCHROが主導すべき領域に近いかもしれないと語る。なぜそのスキルが必要で、会社としてどう支援し、どう処遇に反映するのかを発信することが、CIOを含めた経営陣全体に求められる、という。

具体策として諸橋さんが紹介しているのが、経営者自身がAIを使う姿を見せる取り組みだ。あるスタートアップでは、経営幹部一人ひとりに専属のエンジニアがつき、経営陣のアイデアをすぐに形にする体制を敷いているという。また、フリマアプリを運営する企業が公開しているAI活用の安全ガイドラインを例に、「やりたい人がやれない環境をつくるより、安全に試せる場を用意し、そこで線引きを確認しながら進めることが重要だ」とも語っている。

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■ スキルは「新たな通貨」

記事の後半では、スキルの評価・処遇という論点が深掘りされる。

調査によれば、「自分のスキルが今後も通用するか不安だ」と回答した従業員は、2024年の17%から2026年には47%へと急増している(日本では20%から47%)。さらに従業員の63%(日本では65%)が、AI・デジタルスキルを習得する機会を得られるなら、給与の10%増を犠牲にしてもよいと回答しているという。マーサーはこうした変化を踏まえ、スキルの需給を継続的に把握し、ギャップを可視化する「スキルインテリジェンス」の重要性を指摘している。

江口さんはこの傾向を「スキルが新たな通貨になりつつある」と表現する。理由は二つあるという。一つは、企業が人材市場で取引する対象そのものが、職務ではなくスキルへ移りつつあること。もう一つは、通貨の価値が変動するように、今は意味のあるスキルも数年後には陳腐化している可能性がある、という点だ。

この表現は、私自身がnoteで書き続けてきた「ジョブベース → スキルベース → パーソナリティベース」という進化論と、深く重なる。スキルを固定的な資産としてではなく、変動する通貨として捉える発想は、より動的な人材ポートフォリオの設計を要求する。

参考(筆者note):AIはスキルを奪う。最後に残るのはパーソナリティだ。

では、AIが台頭しても人間に残るスキルとは何か。江口さんが挙げるのは、大きな目標を分解し、タスクとして組み立てる「設計力」。諸橋さんはこれに、複数の関係者の合意を取り付ける「調整力」を加える。さらに江口さんは、AIが実行した結果を踏まえた意思決定や、その結果を組織の中で人に伝え、人を動かすことも、引き続き人間の役割として残ると指摘している。

投資家の側もこの変化を注視している。調査では、投資家の97%が「アジャイルやスキルベースの人材マネジメントに消極的な組織は、投資判断に悪影響を及ぼす」と回答しており、スキルへの向き合い方は、もはや財務上の評価にも直結し始めているという。

処遇面での具体例として、江口さんは、あるポストに求められるスキルを身につければ、より高い報酬レンジで登用される仕組みを紹介している。仮に人事部長のポストの報酬レンジが1000万円から1200万円だとして、AIを活用した業務拡張に必要なスキルを持っていれば、そのスキルプレミアムを上乗せする----こうした構想を持つ企業も出てきているという。

これは、私が以前noteの連載で「人事制度はあと10年でどう変わるか」というテーマで論じた、評価・等級・報酬の前提が崩れるという議論の、具体的な実装例だと言える。

参考(筆者note):人事制度はあと10年でどう変わるか----評価・等級・報酬の前提が崩れる日

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■ 「受託」体質という、IT部門と人事部門に共通する構造

記事で最も鋭いと感じたのが、この論点だ。

調査によれば、AIを「生産性・効率性向上のための労働力強化ツール」と捉える経営幹部が55%(日本62%)に上る一方、「高品質な成果を生み出す人の能力を増幅するツール」と捉える割合は42%(日本37%)にとどまり、経営幹部と人事の間でも認識のズレがある。さらに、自社の人事機能が「戦略に組み込まれている」と評価する経営幹部は、わずか8%(日本20%)にとどまっているという。

江口さんは、この認識ギャップの背景に、情報システム部門(情シス)が長年置かれてきた立場があると指摘する。HR×テクノロジー領域のプロジェクトで情シスが人事部と同席するケースはあっても、人事がやりたいことを実現する窓口として受ける、「受託」に近い立場だったという。方針を決める議論に加わるというより、決まったことを技術面で実行する役回りにとどまりがちだった、という指摘だ。

そして同様の構図は、人事部門自体にも当てはまる。諸橋さんは、これまでのIT部門は、コストの抑制や効率化という観点で使われることが多かったと振り返り、人事部門もまた、決まったオペレーションを規定通り実行する役割にとどまってきた歴史があると語る。

なぜこの「受託」構造が生まれたのか。江口さんは、IT部門についてはベンダー依存の高さを一因に挙げている。外注のSIerに任せる中で、社内にノウハウがあまり蓄積されてこなかったのだろう、という分析だ。

この指摘は、記事全体の中でも最も本質的な部分だと思う。IT部門も人事部門も、「管理部門」「コーポレート機能」という名のもとで、長らく事業の意思決定から一歩引いた場所に置かれてきた。その構造そのものが、AI時代における戦略実装の遅れを生んでいる、という見立てだ。

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■ 「HRBP」というアナロジーが示す、組織構造の転換

この構造をどう変えるか。記事で紹介されている事例が、示唆的だ。

一部のベンチャー系テック企業では、全社を統括する守りのIT機能とは別に、事業部門に直接ひもづくIT機能を置く組織設計が見られるという。江口さんは、この権限委譲の方向性を、人事領域の「HRBP(HRビジネスパートナー)」になぞらえている。人事でいうHRBPのように、ITも中央集権の機能から、事業部の課題をITでどう解決できるかという位置づけの役割を作っていく、という発想だ。

このアナロジーは秀逸だと思う。以前、私はnoteで「HRBPは名称変更ではなく、顧客定義そのものの転換だ」という論考を紹介した。HRBPが本来果たすべきは、「判断×攻め」の領域に集中し、顧客を事業部全体ではなく事業リーダーに絞り込み、事業の言語で語ることだった。江口さんが提唱する「ITのHRBP化」も、同じ構造転換を、テクノロジー領域で実現しようとするものだと理解できる。

参考(筆者note):HRBPは名称変更ではない。顧客定義そのものの転換だ

江口さんはさらに、前職で担当したある大手メーカーの事例も紹介している。IT部門の中に人事の業務や仕組みを理解した専門部署を置き、そこに人事ドメインの知見を持つ人材が蓄積されていく構図があったという。ITと人事、あるいはITと事業の垣根を、組織構成の工夫によって解消していく一つの手であり、そこで育った人材が、いずれ重要なポストに登用されることもあり得る、という見通しだ。

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■ 「守りから攻めへ」----CIOと人事、両方への提言

記事の終盤で、江口さんと諸橋さんは、CIOへの明確なメッセージを語っている。

江口さんは、守りのITから攻めのITへの脱却は不可欠だとし、安定運用は重要だが、それ以上に、ITを使ってビジネスのトップラインをどう伸ばせるかという視点を持つべきだと助言する。リスクは大切だが、リスクが先に立つ前に、まず何ができるかを考える順番であってほしい、という言葉が印象的だ。

諸橋さんも、受託的な役割として考えるより、ビジネスを一緒に作っていくパートナーという発想が必要だと語り、その鍵として権限委譲を挙げる。中央集権的にやっていた機能を、部門単位や事業単位に権限を渡し、ある程度自由にやってもらう。ITも同様だろう、という提言だ。

そして江口さんは、この視点の転換をIT部門だけの課題とは捉えていない。人事も含めたコーポレート部門全般に言える話であり、管理部門と呼ばれてしまうくらいなので、管理しているだけでは足りない、と締めくくっている。

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■ おわりに----「受託からの脱却」という、私自身への問い

この記事を読んで、あらためて考えさせられたのは、私自身も日々のコンサルティングの現場で、この「受託構造からの脱却」を支援する立場にあるという事実だった。

情シスの「受託」体質と、人事部門の「制度運用」体質。形は違っても、いずれも本来果たすべき戦略的役割を実行部隊へと矮小化してきた点では共通する。江口さんと諸橋さんが語るこの構造分析は、AI時代の組織変革を考えるうえで、極めて本質的な補助線だと思う。

AIが人員削減を予測させる技術であると同時に、それを正しく従業員に説明し、スキルを新しい通貨として処遇に組み込み、IT・人事という管理部門を事業のパートナーへと転換させる契機にもなる----この二重性こそが、いま企業に問われている変革の核心なのだと思う。

同じチームで働く二人が、こうして専門メディアで、現場の実感に裏打ちされた知見を発信している姿を見て、率直に誇らしく思うとともに、私自身もこの問いに向き合い続けたいと、あらためて感じた。

参考リンク
CIO.com「AIで人員削減を予測する経営幹部は99%━IT部門と人事に求められる『受託からの脱却』」(末岡洋子氏)
AIはスキルを奪う。最後に残るのはパーソナリティだ。(筆者note)
人事制度はあと10年でどう変わるか(筆者note)
HRBPは名称変更ではない。顧客定義そのものの転換だ(筆者note)

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