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「AIを使っているか」ではなく「判断が変わったか」----PendomoniumX Tokyo 2026が示す、AI時代の組織変革の中身

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ビジネス+ITに掲載された、「PendomoniumX Tokyo 2026」(2026年7月24日開催)のレポート記事を読んだ。マッキンゼーの工藤卓哉氏、Pendo創業者のトッド・オルソン氏、そして早稲田大学ビジネススクールの入山章栄氏という、AI・経営戦略の第一線に立つ識者が登壇した回で、これまで私が書いてきた「AI活用の本質は技術の導入ではなく人と組織の変革にある」という主張を、それぞれ異なる角度から、極めて解像度高く裏づける内容だった。

本稿では、このイベントで語られた要点を私なりに整理しながら、それぞれの論点がどうつながっているのかを考えてみたい。

参考:ビジネス+IT「AI時代に企業はどう"判断"を変えるべきか? マッキンゼーや早大教授らが語る組織変革の条件」

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■ 88%が導入、しかし全社展開はわずか7%

イベント冒頭で基調講演を行ったのは、マッキンゼーTech&AIの日本統括責任者を務める工藤卓哉氏である。工藤氏が示したのは、マッキンゼーが2025年に実施したAIに関するグローバル調査の結果だ。

AIを定常的に利用している企業は88%に達している。しかし、収益効果を実感している企業は39%にとどまり、全社展開できている企業に至っては、わずか7%だという。そしてAIで好業績をあげている企業に共通するのは、業務のワークフローそのものを再設計していることだったという。

この数字は、私がこれまで紹介してきた複数の調査結果と、驚くほど一致する。以前紹介したアクセンチュアの調査では、日本の経営幹部の78%がAI投資拡大を計画する一方、全社的な成果を実感できている経営層はわずか13%にとどまっていた。今回のマッキンゼーの数字(導入88%対全社展開7%)は、この「投資と成果のギャップ」を、さらに大きなスケールで裏づけている。

工藤氏の指摘で特に重要だったのが、評価軸の転換の必要性である。PoCの数や導入ツールの数、モデルの性能で測るのではなく、日々の意思決定の速度や質が向上したか、データが判断にいつ、どう使われたかという「判断の変容」へと、評価軸そのものを移す必要がある、という考え方だ。多くの企業がAIを導入していても、日々の意思決定そのものは変わっていない。その原因は、ワークフローの欠如と、AIエージェントの出力を検証する手順が未整備であることにある、と工藤氏は説明したという。

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■ 「判断できる組織」になるための4ステップ

では、企業はどうすれば「判断できる組織」になれるのか。工藤氏が示したのは、現場特定、判断スタックの構築、判断変容の実測、横展開と全社化、という4つのステップだった。

特に重要なのが「判断スタック」という概念である。これは、品質が担保されたデータをもとにワークフローを設計し、それをAIエージェントが実行し、その結果を人が判断するという、一連の循環を指す。データからワークフロー、エージェント、そして人へとつながる、この4つが連携して初めて、組織は「判断できる」状態になるという。

そして工藤氏は、人間が意思決定プロセスに介在する「Human-in-the-Loop」について、興味深い定義を示している。それは単なる「安全装置」ではなく、「判断の主体性の設計」だという指摘だ。人は承認者ではなく、説明責任を負う存在である、と。

この考え方は、私が以前書いた「Human-in-the-Loopの形骸化」という論点と、正確に一致する。人間がループの中に「いる」ことと、人間が実質的に判断の説明責任を負っていることは、まったく別の話だ。「承認はしたが結果については知らない」という状態は、Human-in-the-Loopとして機能していない----工藤氏のこの言葉は、その形骸化への、極めて明確な警鐘だと思う。

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■ Pendoが提示する、AIエージェントの「計測」という発想

続いて登壇したPendo創業者兼CEOのトッド・オルソン氏は、ソフトバンクグループの孫正義氏が語った「2040年までに1000兆のAIエージェントが連携し合う世界」というビジョンを引用しながら、そのために必要な新しいインフラと計測の発想を語った。

オルソン氏が紹介した「Pendo Agent Analytics」は、AIエージェントの利用状況や品質を分析するための製品だという。どのエージェントが動いているか、コストはいくらか、どう利用されているかを可視化する。また「Pendo Agent Toolkit」は、ユーザーの行動データをAIエージェントに連携し、エージェントをより賢くするソリューションとして紹介された。

さらに、コードを読み取り製品の文脈やユーザー行動を自律的に理解する半自律型のAIプロダクトエージェント「Novus」も紹介された。アプリケーションに変更を加えた際、それが製品を良くするか悪くするかを予測し、悪化が見込まれる場合は警告を出すという機能を持つという。AIによって開発速度が上がった世界では、人間がすべての変更をレビューすることはできない、という課題意識が、この製品の背景にある。

Pendo日本法人社長の花尾和成氏は、日本企業の経営層との対話でよく聞かれる悩みとして、「AIが使われているかどうか分からない」「どこで価値が生まれているか分からない」「ROIを説明できない」という3つを挙げている。これは、以前紹介した久松剛氏のITmedia記事----「削減効果の"行き先"を誰も決めていない」「時間削減はコスト削減そのものではない」という指摘----とも、深く重なる問題意識だと感じる。

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■ 入山章栄氏が語る「アフターAI企業」という衝撃

セミナー最後の基調講演に登壇したのは、「両利きの経営」という概念を日本に広めたことで知られる、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏である。

入山氏がまず紹介したのが「OPC(One Person Company)」という言葉だ。AIの登場によって可能になった、1人で経営できる会社を意味するという。日本でも1人あたり10億円の売上を達成する会社が存在し、米国では2人だけで300億円を売り上げる会社が実在するという。入山氏はこうした会社を「アフターAI企業」と呼び、それ以前からある会社を「ビフォーAI企業」と呼んで対比させる。組織も戦略も採用も、すべてAIをベースに設計されたアフターAI企業に対し、ビフォーAI企業が普通に戦っても勝つことはできない、という厳しい指摘だ。

だからこそ、ビフォーAI企業に必要なのは抜本的な変革であり、その核心は「人と組織の変革」だと入山氏は語る。AI時代には戦略もあっという間に陳腐化する。だからこそ最も重要なのは、不確実性の高い環境下でアジャイルに対応できる人と組織を作れるかどうかだ、という。

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■ なぜ大企業は変われないのか----「経路依存性」という壁

では、なぜ大きな組織ほど変わることが難しいのか。入山氏はその原因を「経路依存性」という概念で説明する。会社は複雑な要素が噛み合って回っている複雑なシステムであり、そのうちの一つの要素だけが時代に合わなくなっても、全体としてはとりあえず回ってしまうため、変えることができない、という構造だ。

この経路依存性を脱却するために、入山氏はデジタルのトップが人事のトップを兼ねることが必要だと提言している。これは、以前私がメルカリの木村俊也さんの事例(CTOがCHROとCAIOを兼務)を紹介した際に論じた、「IT部門と人事部門のオペレーティングモデルの融合」という論点と、正確に一致する。学術的な立場からも、実務の最前線からも、同じ処方箋が示されているということだ。

参考(筆者blog):「CTOがCHROを兼務する」----木村俊也さんの人事が体現する、IT×人事のオペレーティングモデル融合

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■ 「知の探索」と、これからも人にしかできない仕事

経路依存性を脱却した先で、企業が生き残るために必要なのがイノベーションだ。入山氏はここで、自身が提唱してきた「両利きの経営」の概念----既存事業を深める「知の深化」と、新しい事業や技術を生み出す「知の探索」を同時に進める経営----を紹介する。

イノベーションの本質は知と知の組み合わせであり、だからこそ「知の探索」が必要だ。しかしこれは、遠くのものを広く見る、時間も人もお金もかかる、失敗の多い営みである。だから企業は次第に知の探索をしなくなり、知の深化ばかりを追求するようになる。これが、日本企業にイノベーションが足りないと言われる本質的なメカニズムだ、と入山氏は指摘する。

そして入山氏は、「知の探索」は人でなければできないが、「知の深化」はAIで代替されると説明する。ゴーゴーカレー創業者の宮森宏和氏の「発想力は移動距離に比例する」という言葉を引用しながら、積極的に行動して知の探索を強化すべきだと強調したという。

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■ 「知的スマイルカーブ現象」----中流が消え、上流と下流が輝く

基調講演の最後で入山氏が示したのが、「知的スマイルカーブ現象」という図式である。これは、AI時代に人の仕事が上流・中流・下流に分かれたとき、上流と下流の価値が上がり、中流の仕事がAIに代替されるという構造を表している。この概念は、もともと経営共創基盤(IGPI)創業者の冨山和彦氏が提唱したものだという。

入山氏の説明によれば、上流とは、答えのない中で知の探索を行い、意思決定し、成功しても失敗しても責任を取るリーダーの仕事。下流とは、現場の仕事であり、いま圧倒的に人手が不足している領域だ。問題は中流である。ここは情報の伝達・整理をする仕事、つまり管理職とバックオフィスの仕事だという。

だからこそ、これからは中流を担ってきた人々を、いかに上流や下流へシフトさせるかが大きなテーマになる。入山氏は「リスキリングという言葉では生易しい。メタモルフォーゼ、異世界転生です」という強い言葉で、この変革の大きさを表現している。

この知的スマイルカーブという構図は、私が以前noteで書いた「事務職が437万人余り、AI・ロボット利活用人材が339万人不足する」という経産省の2040年就業構造推計とも、深く重なる。事務職・管理業務という「中流」の余剰と、専門性の高い「上流」人材の不足という構図は、入山氏の言う知的スマイルカーブ現象そのものだと読み替えることができる。

参考(筆者blog):2040年、事務職は437万人余り、AI人材は339万人足りない

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■ 「海兵隊」という、これからの組織のかたち

入山氏はさらに、これからの企業が目指すべき組織の形として「海兵隊」を挙げている。海兵隊は、敵がどこに潜んでいるか分からない島に上陸し、不確実性が非常に高い中で役目や立場を柔軟に変えながら任務を遂行する。こうした、多様なタイプの人材からなる小さなチームをたくさん作ることが、AI時代における企業の一つの勝ち筋だと入山氏は語る。

そして入山氏は、日本企業には決して不利な点だけではないとも指摘する。少子高齢化による労働力不足は、AIによって人が要らなくなる時代においては、むしろ有利に働く可能性がある。人口が増えている国のほうが、大量の失業に直面しやすいかもしれない、という逆説的な視点だ。加えて、現場(下流)の力が強いことも日本企業の強みであり、その力をうまく引き出して海兵隊のようなチームを多く作れれば、日本企業にもまだ十分に勝ち筋はあると、講演を締めくくったという。

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■ すべての識者が同じ結論に行き着いた

このイベント全体を通じて語られたのは、「AIを導入すること」が目的ではなく、「AIによって組織の判断をどう変えるか」が競争力を左右するという、一貫したメッセージだったと記事は総括している。AIエージェントの性能は今後も向上し続け、多くの企業が似たような技術を使えるようになる。そのとき差になるのは、AIを業務プロセスへ組み込み、成果を計測し、人とAIが継続的に学習できる仕組みを構築できるかどうかだ、と。

マッキンゼーの工藤氏は「判断スタック」という実装論から、Pendoのオルソン氏・花尾氏は「計測」という技術基盤から、そして入山氏は「知の探索」と「知的スマイルカーブ」という経営組織論から----立場も専門も異なる3者が、まったく同じ結論に行き着いている。この収斂こそが、いま語られている論点が一時的な流行ではなく、構造的な必然であることを物語っていると思う。

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■ おわりに

私はこれまで、「AI活用の本質は、技術の導入ではなく、人と組織の変革にある」と繰り返し書いてきた。今回のPendomoniumX Tokyo 2026のレポートは、この命題を、マッキンゼーの実装論、テクノロジー企業の計測論、そして経営学の組織論という、三つの異なる視座から重層的に裏づけるものだった。

AIを"使う企業"から、AIとともに"判断する企業"へ。この転換のために必要なのは、より高性能なAIモデルではない。判断スタックという仕組みであり、それを計測する基盤であり、そして何より、経路依存性を脱却し、知の探索を続けられる人と組織そのものなのだと、あらためて確信させられた。

参考リンク
ビジネス+IT「AI時代に企業はどう"判断"を変えるべきか? マッキンゼーや早大教授らが語る組織変革の条件」
「CTOがCHROを兼務する」----木村俊也さんの人事が体現する、IT×人事のオペレーティングモデル融合(筆者note)
2040年、事務職は437万人余り、AI人材は339万人足りない(筆者note)

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