「裏切り者」だった退職者が、今や"採用チャネル"になった件----NTTアルムナイイベントで実感した、人材の"再接続"インフラ
先日、NTTグループのアルムナイイベントに参加してきた。そこで目にした光景が、単なる同窓会的なノスタルジーではなく、IT・人事の両方に関わる者として、静かに、しかし確実に進行している構造変化そのものだと感じたので、書き残しておきたい。
■ イベントで起きていたこと
会場を共催していたのは、アルムナイ(退職者)ネットワークサービスを提供するハッカズーク。その事業責任者は、実は私がPwC時代に一緒に働いていたかつての部下だった。
ハッカズークの事業責任者でアルムナイの著者でもある濱田麻里さんと

そして会場では、私の新卒時代の配属部署の先輩とも、思いがけず言葉を交わすことができた。
新卒の時にお世話になったNECの金友大さんと

同じ会社に在籍したことがある、という一点だけを頼りに、異なるキャリアを歩んだ人間同士が、また一つの場に集まる。これが「アルムナイネットワーク」というインフラが実現していることの本質だと、あらためて実感した。
■ 「裏切り者」から「即戦力」へ----市場が動いている
かつて日本企業では、退職者は「裏切り者」「戻ってこない人」として、静かに関係を絶たれる存在だった。しかしこの数年で、この扱いは明確に変わりつつある。
日経が実施した調査では、アルムナイ(出戻り)を受け入れる制度がある企業は約7割に達したという。リクルートのアンケート調査でも、退職した社員の"出戻り"を「受け入れている」と回答した企業は55.5%にのぼる。トヨタ自動車は2023年からアルムナイ採用を制度化し、三菱重工業では専用サイトを開設してからわずか半年で数百人が登録したと報じられている。自治体でも「カムバック採用」に乗り出す動きが広がっている。
マイナビの調査(2024年)では、企業のアルムナイ施策の実施率は40.9%。一方で、出戻り転職を行った正社員は12.3%というデータもある。決して珍しい現象ではなく、すでに一定規模で実際に機能している人材フローになっている、ということだ。
この動きの背景にあるのは、単純な採用意欲の高まりではない。帝国データバンクの調査によれば、正社員の人手不足を感じる企業は51.6%で4年連続で半数を超えている。総務省の労働力調査を分析した矢野経済研究所のレポートでは、実際に転職を行うのは就業者全体の5%程度にすぎないとも指摘されている。限られた転職市場を各社が奪い合う中、「一度自社で働いたことがあり、社風や業務を理解している人材」という、極めて希少なプールに注目が集まるのは、ある意味で必然だと言える。
■ 市場としても、静かに拡大している
この動きは、支援サービスの市場規模の予測にも表れている。矢野経済研究所は、リファラル採用・アルムナイ採用支援サービスの市場規模について、2022年度の18.5億円から、2023年度に30億円、2024年度には50.7億円に達する見込みだと推計しており、2028年度には300億円規模に成長すると予測している。
私が参加したイベントを共催していたハッカズークも、この分野で「国内法人向けアルムナイネットワーク構築・運用支援サービス」の導入社数No.1(上場企業導入社数でもNo.1)の認定を受けているという。かつては存在しなかった「退職者管理」という新しいカテゴリーのSaaS市場が、いままさに立ち上がっている最中なのである。
■ ITと人事、双方にとっての論点
ここからは、IT・人事の両方に関わる立場としての視点を書いておきたい。
アルムナイネットワークは、単なる「懐かしい人とつながるSNS」ではない。企業にとっては、退職者という「一度社内システムやカルチャーへのオンボーディングコストを払った人材」の、いわば人材データベースである。採用コストの削減、教育コストの圧縮、即戦力化のスピード----これらはすべて、データとして蓄積された「元社員」という資産をどう構造化し、どう活用するかという、極めてIT的な設計課題でもある。
そして人事の側から見れば、これは「退職」という事象そのものの意味を書き換える動きだ。退職面談が、関係を切るための儀式ではなく、将来の再接続の可能性を残すための対話に変わる。オフボーディングのプロセス設計自体が、採用戦略の一部として組み込まれていく。
■ 「退職が資産になる時代」の、その先へ
今日、久しぶりに会えた元部下や、新卒時代の先輩と話しながら感じたのは、こうした「縁」は、放っておいても自然に維持されるものではない、ということだった。連絡先は散逸し、記憶は薄れ、意図的に「つなぎ直す」仕組みがなければ、多くの関係は静かに失われていく。
アルムナイネットワークというインフラが果たしているのは、まさにこの「意図的なつなぎ直し」の役割だ。市場データが示す通り、この動きはもはや一部の先進企業の実験ではなく、人手不足という構造的な圧力のもとで、日本企業全体に広がりつつある確かなトレンドである。
「退職が資産になる時代」----この広がりを、一人の元コンサルタントとして、そして今も組織・人事変革に携わる者として、これからも大切に育てていきたいと思う。
今日出会った皆さん、そしてこの場をつくってくださった関係者の皆さんに、あらためて感謝したい。