「AIをどう導入するか」から「AIを前提に組織をどう設計し直すか」へ----AICX協会「組織AI変革推進委員会」に、委員として参画します
このたび、一般社団法人AICX協会が新たに設立した「組織AI変革推進委員会」に、委員の一人として参画することになった。マーサージャパンの立場から、業界を代表する企業の方々とともに、AI時代の組織・人・制度の変革に取り組んでいく。

本稿では、この委員会がどのような問題意識から生まれたのか、そして私自身がなぜこの取り組みに強く共感しているのかを書いておきたい。
参考:一般社団法人AICX協会プレスリリース「メルカリ、パーソルホールディングス、村田製作所、ソフトバンクらが参画|AICX協会、『組織AI変革推進委員会』を設立」(2026年9月1日)
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■ 委員会の顔ぶれ
委員長には、株式会社グロービスのマネジング・ディレクターであり、グロービス経営大学院の教員も務める鳥潟幸志さんが就任した。
委員には、株式会社メルカリの木村俊也さん(執行役員CHRO 兼 CAIO)、パーソルホールディングス株式会社の倉本由香里さん(執行役員CPrO)、株式会社村田製作所の内海克也さん(データ戦略推進部長)、ソフトバンク株式会社の白山奈津美さん(IT戦略統括部 組織人材戦略部長)、株式会社テックビズの藤村大輔さん(HRBIZ事業責任者)が名を連ねる。人事・組織開発、DX・AI推進、データ戦略という、それぞれ異なる専門領域のリーダーが集まった構成になっている。
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■ なぜ、この委員会が必要とされているのか
プレスリリースが指摘する問題意識は、私が日々のコンサルティングの現場で強く実感しているものと、ほぼ完全に一致する。
生成AIやAIエージェントの普及によって、企業にとってのAI活用は「導入するかどうか」の段階を超え、「どのように事業や組織へ組み込み、価値へつなげるか」が問われる段階に入った。しかし多くの企業では、AIツールの導入や一部業務の効率化ばかりが先行し、AIが存在することを前提とした組織設計、評価制度、採用、人材育成、マネジメント、意思決定の見直しにまで踏み込めていない。既存の業務フローにAIを単に追加するだけでは、効率化にはなっても組織変革にはつながらない、というのが問題の核心だ。
プレスリリースは、企業の現場で顕在化している課題を6つの領域に整理している。
戦略・ガバナンス(AI導入そのものが目的化し、何のために活用するのかが曖昧なまま推進体制が整っていない)、人材・組織(人とAIの役割分担やAI時代に求められる人材・管理職の役割が不明確なまま、育成や組織体制の見直しが追いついていない)、AI活用(活用レベルにばらつきがあり、組織全体で継続的に活用する状態に至っていない)、業務変革(PoCや部分的な効率化にとどまり、全社的な業務・組織変革へ展開できていない)、データ・知識(実践知が個人や部門の中に閉じており、組織横断の学習に生かせていない)、評価・文化(AI活用の成果を評価する制度や、挑戦を後押しする文化が整っておらず、積極的に使う人と不安を感じる人との間に分断が生じている)。
この6領域は、まさに私がこのnoteで書き続けてきたテーマの縮図だと感じている。パーソナリティベースへの人材マネジメントの進化、評価・等級・報酬の前提の崩壊、CHROの「Chief Work Officer」への進化----これらはすべて、企業が「AI導入」の次の段階で直面する、組織・人・制度の再設計の問題である。
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■ 「気付く・試す・再現する」という設計思想
この委員会の活動設計で、私が特に評価しているのが、抽象的な議論で終わらせない構造になっている点だ。
活動は3段階で展開される。第一に「気付く」。組織AI変革成熟度診断を通じて、各社の現在地と優先課題を可視化する。これは、AIツールの利用状況を測る診断ではなく、AI時代に求められる組織・人・制度の現在地そのものを可視化する診断だという。
第二に「試す」。各社が組織課題に応じた実証テーマを設定し、実際の組織で検証を行う。実証期間中は月1回のオンライン委員会で進捗を共有するが、注目すべきは、成果だけでなく失敗、組織内の抵抗、導入時の障壁までも共有の対象にしている点だ。他社や有識者の視点を取り入れながら、取り組みを改善していく。
第三に「再現する」。実証で得られた成果と課題を体系化し、他社でも活用できる組織変革モデルとして発信する。ホワイトペーパーとしての公開も予定されている。
半年間のロードマップも具体的だ。2026年9月〜10月に成熟度診断、11月〜2027年1月に実証プロジェクト、2027年2月以降に知見の体系化とホワイトペーパー化、初回診断から約6か月後に再診断と次の変革テーマの設定、という流れで進む。
主な実証テーマとして挙げられているのは、AI活用を推進する組織体制、ノウハウを共有する仕組みと文化、AI活用を反映した評価制度、人とAIの役割分担と業務プロセス、AI協働型のマネジメント、AI時代の採用要件と人材育成。いずれも、単一企業だけでは答えを出しにくい、しかし避けて通れない論点ばかりだ。
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■ 「唯一の正解がない」からこそ、業界を超えて持ち寄る
委員長の鳥潟さんのコメントが、この委員会の本質を端的に言い表している。「AIをどう導入するか」から「AIを前提に組織をどう設計し直すか」へ、企業が向き合う問いはこの1〜2年で大きく変わった。ただし、その新しい問いに答えを持っている企業は、まだどこにもない、と。
これは、決して謙遜ではないと思う。AIエージェントが業務に組み込まれ、人と協働する組織のあり方について、確立された「正解」を持つ企業は、世界を見渡してもまだ存在しない。だからこそ、各社が個別に試行錯誤を繰り返すのではなく、異なる業界・企業・専門領域の知見を持ち寄り、実際の組織で実証し、その成果と課題を共有し合うことに、大きな価値が生まれる。
AICX協会代表理事の小澤健祐さんのコメントも印象的だった。AIエージェントの登場により、AI活用の論点は「どのツールを使うか」から「AIエージェントにどう仕事を任せ、組織をどう作り変えるか」へ明確に移った。技術は単発のプロンプトから、チャットボット、ワークフロー、そして半自律・完全自律のエージェントへと、「点」から「立体」へ進化している。しかし多くの企業でボトルネックになっているのは技術ではなく、業務プロセス、人材要件、評価制度、意思決定の設計といった"組織側"だという。そして、この領域の知見はいまだ各社の暗黙知として閉じたままだからこそ、業界を横断して実践知を持ち寄り、共通言語と再現性のある型をつくる場が必要だ、と。
「完璧な正解を待つのではなく、80点で動かして現場で磨く」という小澤さんの姿勢にも、強く共感する。組織変革は、理論を完成させてから動くものではなく、動きながら磨いていくものだ。
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■ 私自身が、この委員会に持ち込みたいもの
私はこれまで、noteの連載「AIエージェント時代の組織デザイン」で、いくつかの仮説を書き続けてきた。人材マネジメントが「ジョブベース → スキルベース → パーソナリティベース」へと進化すること。評価・等級・報酬という制度の前提が崩れ、成果だけでなく判断・スキルとパーソナリティ・組織への貢献という4軸で人を評価する必要があること。そして、CHROが「人の責任者」から「働くこと(Work)の責任者」、Chief Work Officerへと進化すること。
これらはすべて、一人のコンサルタントとして、クライアント支援の現場から立ち上げた仮説である。しかし、仮説はあくまで仮説であり、実際の組織で検証されて初めて、意味のある知見になる。
今回の委員会は、まさにその検証の場になると考えている。メルカリ、パーソルホールディングス、村田製作所、ソフトバンクという、業種も規模も異なる企業が、それぞれの現場で実証を重ねる。その過程で得られる知見と、私自身が書き続けてきた仮説を突き合わせることで、より確からしい「型」を見出していけるはずだ。
そして何より、この委員会が「失敗や組織内の抵抗も共有する」という姿勢を明確に掲げている点に、深い共感を覚える。組織変革の記録は、成功事例ばかりが語られがちだ。しかし本当に価値があるのは、なぜうまくいかなかったのか、どこで現場の抵抗が生まれたのか、という失敗の解像度だと思う。
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■ おわりに
AI活用の本質は、技術の導入ではなく、人と組織の変革にある。私はこの言葉を繰り返し書いてきたが、それを一人の主張として語り続けるだけでなく、業界を代表する企業の実践知と突き合わせ、検証し、社会に還元していく機会をいただけたことを、大変光栄に思っている。
答えのない問いに、業界を超えて向き合う。その積み重ねが、AIを前提に人・組織・制度を進化させ続けられる企業を、日本に増やしていく一歩になればと思う。
この取り組みに関心のある企業の方は、ぜひAICX協会までお問い合わせいただきたい。
参考リンク
・一般社団法人AICX協会プレスリリース「メルカリ、パーソルホールディングス、村田製作所、ソフトバンクらが参画|AICX協会、『組織AI変革推進委員会』を設立」
・一般社団法人AICX協会