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熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した⑥ 研修にまつわるQ&A

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熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」応用編に参加しました。1月25日(日)終日のワークショップです。

全国から、50人ほどの参加者が。本当に全国から。

そして、前回同様、「医療関係(看護師さんが多かったかな)」と「大学関係(教員、職員)」そして、「日本語学校の教員」の3つのカテゴリに属する方が多く、私のような民間企業で人材育成に携わる人というのは少ない(というか、私がグループワークした中にはいらっしゃらなかった)という状況でした。

事前課題が出てまして、普段自分が担当している研修の内容を「インストラクショナルデザイン」の観点から整理してきたものを使って、「どこがよくて」「どこが困っているか」などを話し合うセッションが午前中。

【事前課題のフォーム】
熊大②.jpg

午後は、その午前中のセッションで話題になったり、互いに気になったりしていた「疑問点」を、熊大の鈴木克明先生に質問しようー!というコーナーでした。

鈴木克明先生と言えば、「インストラクショナルデザイン」の第一人者ですから、直接、アドバイスやら事例やらをお聞きできるのは、非常にありがたいものでした。
それに、鈴木先生の一刀両断の解説が面白くて。

というわけで、今日は、Q&Aの中から、印象に残ったもの、多くの方にも参考になるんじゃないかと思ったやり取りを再現しておきます。



Q:会社や大学としては、「この勉強をしてもらわないといけない」と考え、研修を設定している。しかし参加者側には、「オレにはこんな勉強は必要ないし、これを習っても使う必要がない」と思っているという場合、どう「動機付け」したらいいでしょうか?

A:参加者が興味を持てないなら、今教える必要のないことなんじゃないですか? 参加者が「オレにはこの内容は興味持てない。関心がないから当然やる気も出ない」と言った時、「ふざけんな! こういう理由で必要性がある、必然性があるんだ」ときちんと言い返せるものですか? もし「必然性」がきちんと説明できないのであれば、その「研修」はやめちゃえばいいのでは? 「いや、説明できる、絶対にこの学習ややる必然性があるのだ」と言い切れるのであれば、あとは、「学習者も大人なんだから、自分でやる気出せ! 仕事なんだから」でいいですよね。

Q:事前課題を出してもなかなかやってきてくれない。どうすれば学習者に事前学習を促すことが出来るでしょうか?

A: 「やってこなければダメな状況を作っておくこと」これに尽きます。 「やってこなくても大丈夫だ」と学習者が感じてしまったら、どんどんやってこなくなる。 そういうところに「自主性」を求め、自主性に任せるのは無理です。 「やらないとまずい」「やってこないとまずい」という風に仕向ける。 「やらないこと」を許したらダメなんです。 「やってこなくてもなんとかなる」という状況を作るから、やってこないのです。「やってこないとなんともならない」としなければ。 

Q:テストする際に、「全員が合格するようにする」のか、それとも「ある程度差が出るようにする」のか。どちらが研修としていいのでしょうか?

A:「高い目標設定をし、できた人とできなかった人とを出してしまう」という教育の仕方を「伝統的アプローチ」と言います。 一方で、「全員が到達できる問題」に取り組んでもらい、「最低限の目標は全員クリアできるようにする」というのが、「ID的アプローチ」です。 そうすると、できる人は「吹きこぼれる」こともあるわけですが、その場合、「できる人」が放置されないよう、何かを考える、たとえば、「やりたいことを見つけさせる」など。 

Q:教育について語る時、「効率よく」ということを言うと、非常に嫌がる世代がある。 どう対応したらよいでしょうか? (大学教員の方の質問)

A:まずですね、「定年に近い人」の言うことなど相手にしないことですね(笑)。 で、マジメに答えると、教育で「効率」を語って何が悪いんですかね。膨大な時間と多大な費用をかけて何かすれば能力は向上するかもしれないけれど、提供側が楽するという話じゃなくて、学習者だって忙しいのだから、短期間で何かを学べることは互いのためになるでしょう? リソースをフルに活用するためには、"効率"は非常に大事。 

Q:大学1年生向けに「大学での"学び方"を教える」講座を担当しています。その場合、どういうアプローチがよいのかアドバイスをいただけますか?

A:FDをいくらやってもダメなんだな、と最近ボクは思ってきた。そういうことじゃなくて、学生自身を鍛えないといけないんだと考えている。そのためには、たとえば、ARCSモデル、これは、教員が使うToolでもあるわけだけれど、自分の学び、自分のやる気をどう高めるか、ARCSを大学生自身が自分の学びに使えると「学び方が分かる」状態になると思う。同じように「ガニェの9教授事象」についても、自分が勉強する際に踏むべきステップとして使うといい。だから、IDは、学習を提供する側も学習者側にも共に使えるツールなんですよね。

Q:きちんと学習した人は、人事評価でも「評価」してあげたいと思うのだが、今はそれができていません。どうやって「人事評価」に組み込んだらいいのでしょうか?

A:ボクは人事評価の専門家ではないので、それについて回答はできないが、ただ純粋な疑問として、「研修が人事評価に結び付いていない」ということ自体が信じられません。 人事評価に結びつけていない研修って、何のためにやっているんでしょうか? 大学で言うと、「単位に結びつかない授業ばかりある」という感じ?

Q:ITの教育を担当しています。ペアプログラミングなんかはペアだからうまくいくのですが、グループワークで3人となると一人が遊んでしまうこともあって。そもそも、グループワークに相応しい人数は?

A:MAX5人でしょうね。 それより多いと、Free Rider問題が生じます。またあまりに少ないと多様性がなくなります。 
そもそも、Free Riderが発生するとしたら、タスクが軽すぎるのではないか?も検討したらいいし、全員で持ちようらないと完成しないといったタスクや役割分担も工夫してみることですね。

Q:研修後のフォローやサポートについてアドバイスがあれば。

A:同じ悩み(課題)を抱えている人同士をどうつなぐか、ですかね。 SNSでもなんでもいいけど「つながり」を持つように。同じテーマを持った人を集め、そのつながりが継続するようなサポートを考えてみたらいいと思います。 (田中注: 「学び仲間」を作るということだと理解しました)

Q:研修の効果測定として、「仕事で活かせているか」を後日レポートしてもらうようにしている。このレポートは上司にも見てもらっている。こういう方法はどうか?

A:非常にID的ですね‼ ボクは全ての研修に「アクションプラン」を立てさせるのを入れたらいいと思っている。「帰ったら、これをやります」と宣言しておけば、後日「「やってますか?」とフォローできる。 「行動変容」が見られるまで、「フォローアップ研修が続きますよ」なんていう仕掛けもできますよね。 

Q:「入口」が不揃いな状況になることがあり、現場でその状況に合わせなければならないという場合、何かヒントありますか?

A:先ほども言いましたけど、たとえば、事前課題がある、これは、「絶対にやってくる」として、「やってこなかった人」、つまり、「入口未満な人」はその講座に入れないとかね、ま、そうはできないでしょうから、「今ここで"入口"に到達するまでやって」とか。そうしたら、皆と合流していいよ、とか。 「やってこない人もいる」から、講座ないでフォローする、、、そして「それでもなんとかなる」のであれば、そもそも「その課題は、なぜ予習・事前課題にしておいたのか。必然性があるのか」を教える側も自問自答しないといけませんね。やってこない人にどう対応するか、はあらかじめ考えておく。少なくとも「やってこない人」をうやむやにしないことです。

Q:40人の集合研修を担当しています。「教えていること」が「ちゃんと伝わっているのか、理解されているのか」が分からないこともあって、どうすれば学習効果を上げられるのでしょうか?

A: そもそも「教える」と言うけれど、「何をやっている」のか、自覚する必要がありますね。「ただしゃべっているだけではないか?」とかね。 テキストを見ればわかるようなことは講師は話さない。 ボクだったらどうするか・・。テキストを読んできてもらって、いきなりテストする。 あるいは、質問することから始める、かな。 研修は「集まった時にこそすべきことをする」という風に考えたほうがいいですよ。

Q: 「気づく」ことを狙いにしている場合、「気づく」というのは「学習目標」になりえないのではないかと悩んでいるのですが。

A: 「気づく」・・・いいじゃないですか。たとえば、「患者さんの急変に気づく」とかそういうことですよね。で、その時、「どういう状況において、気づいて、気づいたら何をすればいいのか」というところまで、具体的に「目標」として記述すればいいのでは? それと、教育は、どんどん「答え」を教えていいと思っているんですよ。「暗記」ではないから、「答え」はどんどん教えるけれど、それでも、「じゃあ、こんな場合は?」と問題を変えて行って、その問題を考えさせていけばいいんです。

・・・ 手書きでメモしていたものから書き起こしているので、細かい言い回しはもちろん「正確な再現」ではありませんが、こんなやり取りが2時間半くらい続きました。


IDは、奥深いなぁ、と改めて思うとともに、これを「学習者」も使うことで、もっと「学び」の効果も効率も魅力も高まるのだなと感じました。

学び手自身がこの「ID」を知っていることはとても大事なことだと思います。 私が担当している研修にどう組み込んでいくか、考えてみましょう。うん。

【受講証書】

熊大1.jpg

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