熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した⑤ ガニェの9教授事象(学習支援のための働きかけ)
忘れたころにやってきますよ、熊大「インストラクショナルデザイン」講座のレポート第5弾です。
「ガニェの9教授事象」・・・。
最初聴いた時(7-8年前?)、「うわっ、なんだこりゃ。そんな難しい言葉はわからん」と拒絶反応を示した私ですが、知ればなんてことない、「普段無意識のうちに、というか、経験則から自然にやっていたよね」とも思える「学びを支援するプロセス」を示したものでした。
学ぶために9つの働きかけがあるよね、と ロバート・ガニェさんが言います。(IDの生みの親的な方です)
これは、認知心理学をベースにして体系化されたものだということです。
<導入>
1. 学習者の注意を喚起する
→ 「勉強したいなぁー」「面白そうだなー」「ほぉー」「え?なになに?」とこれからの学びを受け入れやすい状況・態勢を作る。研修で言えば、アイスブレークとかオープニングの様々な仕掛けがこれにあたります。「料理教室」なら、「今年は"手作りXmasParty!~今、自宅で家族や友人と過ごすクリスマスがナウい!」などとトレンドを紹介して、注意を引きつけます。(※「ナウい」:ギャグです)
2. 学習者に目標を知らせる
→ これは、いわゆる「学習目標」を示すことですね。 何を学べるのか、どう役立つのか、自分ごととしてゴールを意識できるようにします。料理教室だと、「本日作るクリスマスケーキの完成形はコチラです! これを1時間半で一人で作れるようになりましょう♪」と完成したケーキがどーんと示されたりするのがこれにあたります。
3. 前提事項を思い出させる
→ 新ことを学ぶために、これまでの知識やスキル(既習していること)を思い出させます。料理で言えば、「先週は、スポンジケーキの焼き方を練習しましたね。今日はあの基本のケーキに生クリームや果物などでデコレーションしていくところをやるんですよ。スポンジケーキはもう大丈夫ですね?」などとこれまでの学習内容を思い出させることです。
<情報提示>
4. 新しい実行を提示する
→ 手本を示したり、具体例を上げたりしながら、新しいことを学びます。料理教室であれば、手元が見える場所に生徒を集めて、生クリームの泡立て方を示したり、本体に塗りたくるさまを見せたりするプロセスです。
5. 学習の指針を与える
→ 既習事項や新しいことと結び付けて頭に上手にしまいこむ、後ですぐ思い出させるようにヒントを与えるなどです。 生クリームは「ピンと角が立つようにします。そうしないと、塗った後、だらだらとたれてきてしまうからです」などと具体的に何がどうなるかコツを伝える場面はここです。
<学習活動>
6. 練習の機会を作る
→ 学んだことを学習者自身が試行してみる段階です。 失敗しても構わないので、じゃんじゃん練習します。 「では、生クリーム200mlを泡だて器で泡立ててみましょう。」と練習する時間を設けます。
7. フィードバックを与える
→ 練習したことは、どこがうまく行っていて、どこがうまく行っていないかをフィードバックする必要があります。 「角が立っているので、ちょうどよいですね」「おー、泡立てすぎて、ぽろぽろになってしまいましたね」などと自分の成功・失敗を講師からフィードバックされたり、受講者同士で気づいてアドバイスしたりするような場面です。
<学習の出来具合を確かめ、忘れないようにする>
8. 学習の成果を評価する
→ 上記、6や7は何度も繰り返され、それなりにちゃんとした生クリームの泡立てができ、ケーキ本体に塗ることも、果物を飾ることもできたら、今度は、「ちゃんとできるかな?」と総合演習をしたりすることです。この時、学んでいないことを追加しないようにします。たとえば、見本では、イチゴが丸ごとどーんと載っていたのに、「イチゴの飾り切りができていたらもっと美しいのに」といったフィードバックは相応しくありません。
9. 保持と転移を高める
→ 学んだことも時と共に忘却していきます。 学びを長く保持し、他のことにも応用が利く(転移)するための工夫を提示します。Xmasケーキの講座であれば、「詳しくは、この本に作り方や注意事項が書かれているので、自宅で再度復習してみてください」と関係資料を紹介してもよいですし、「今日は生クリームをそのまま使いましたが、つぶしたイチゴ果汁を少し加えてピンク色のクリームを塗ってもよいですね。Valentine's Dayに相応しいようなピンクのケーキを作ることもできます」などと「転移」するようなヒントを出してもよいでしょう。
・・・と、だんだんとXmasケーキの作り方ベースでの解説になっていきましたが、これが「ガニェの9教授事象」です。
難しそうでいて、意外にそうでもないですね。
人に教える役割を担う方は、この9教授を頭において研修や講義や勉強会を進行するとよいと思います。
また、この熊大の講座では、「学習者自身がこの"モデル"を意識して学ぶとよい」ということも教えていただきました。
今まで学習を提供する側が使うモデルだと思い込んでいましたが、確かに、学ぶ側が自らこのプロセスを頭においておくことが、深い学びに繋がりますね。
【10年くらい前に作成したXmas Cake。渾身作】
※当時連載でお世話になっていた「日経ITプロフェッショナル」編集部に差し入れたものです。プロ仕様のカメラで撮ってくださった・・・記憶があります。懐かしい。
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【ガニェさんの本と言えばこれ】
・・・ですが、マジきつい。文字が多い、難しい。通しで読むと泣きそうになるので、「ここを知りたい」と選んで読むという使い方をしています。