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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第17話:人の立場になるのは難しい

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 3年前の夏。
 ほんの不注意から、右足の親指の爪を半分まではがしてしまったことがある。(と、ここまで読んだだけで、下半身がぞぞーっとした方も多いと思うので、詳細は省く)

 近所の病院で処置してもらい、大げさに包帯をぐるぐる巻かれた状態で翌朝出勤することに。

 包帯の足にサンダルを履き、恐る恐るの通勤電車。普段なら混雑した車両にも果敢に乗り込むのだが、「親指を踏まれたらどうしよう?」と一歩が踏み出せず、空いた車両が来るまで何本も見送った。

 かろうじて空間がありそうな車両をみつけ、ドア付近の隅に立つ。全神経を足先に集中させて。誰かにぶつからないように、誰かに踏まれないように。

 たった20分程度の乗車時間でくたくたになった。混雑した電車では、他人の足元など誰の目にも入らないので、自分で自分を守るしかないわけだ。

 次の日は包帯に気づいた男性が席を譲ってくださった。ありがたい。
とはいえ、座ると立っている人の前に親指が来てしまうので、足を曲げて、できるだけ奥に隠すような態勢をとった。それでも、踏まれないか?ぶつからないか?とビクビクして立っているよりは緊張が軽減した。



 20年くらい前には、頭に怪我をして、頭頂部を二針縫ったこともある。(これもいきさつは実にくだらないので詳細は省く)

 この時も通勤電車が恐怖だった。込んでいる車内で隣に立つ長身の男性がつり革から手を離す際に私の頭に肘鉄を食らわしたらどうなる? などと怖い想像を繰り返し、ハラハラしていた。

 縫うために3センチ角の範囲で髪を短く切られた頭頂部には白いガーゼが張ってあった。
しばらくは帽子をかぶっていたため、他人からは怪我をしていることがわからない。余計に危険である。この時は上司にかけあい時差通勤をさせてもらって、リスクを回避した。

 お腹の手術をして退院してきたばかりの知人と一緒に朝の電車に乗ったことがある。

 外見からは手術後だとわかるわけもなく、混雑して人に押されそうになると、私がディフェンス担当として彼女の身体を守った。押されても人の腕やかばんがお腹にあたらないようにと。



 こういう体験を通じて知ったことは、世の中には、明らかに具合が悪そうだとか怪我をしているといったことがわかるケースと、外見上は何もわからないケースがあるのだなあ、ということだ。

 具合が悪そう、痛そうなど傍目からも判断できる場合は席を譲るなり、相手にぶつからないようこちらも配慮することができる。

 だが、わからない場合は、ついつい元気な自分を基準に行動してしまう。都会の朝の電車などそうせざるを得ない部分もある。

 だけれど、自分がそうであったように、足を踏まれたらどうしよう? 頭を叩かれたらどうしよう? お腹を押されたらどうしよう?とドキドキしている人が大勢の通勤客の中にもいるかも知れないのだ。

 自分がそういう思いをするまで想像すらしなかった。人の身になって考えるというのはだからとても難しいのだと思う。

 勤務先でそんな話をしたところ、同僚がこう言った。

 「東京だとエスカレーターって右側を空けますよね。たまに右側にどんと立っている人いて、左に寄ってくれないかなあと思っていたんです。だけど、この間、新聞でこんな投書を見かけて、はっとしたんです。『私は左半身の力が弱いので手すりを左手で持つことができません。だからエスカレーターも右側に立つようにしています。でも後ろから来る人に嫌な顔をされることがあります。こういう人がいることも理解して欲しいのです』…
それ以来、右側に人が立っていても事情があるのかも、と思うようになりました」

 そうだなあ、そういうこともあるだろうなぁ。



 オクサンが妊娠して初めて「この車内にもそれとはわからないが妊婦さんもいるかも」と想像できるようになった男性もいる。ピンクのマタニティーマークをつけている人がようやく目に入るようになったそうだ。彼もこれまでそんなことはまるで視界に入らなかったという。

 よく「人の立場になれ」とか「相手の立場で考えろ」と言うけれど、人間そうそう人の立場になんてなれるもんじゃない。

 特に経験したことがないことは想像することすら難しい。

 それに、常に「足を怪我している人がいるかも」「頭縫ったばかりの人がいるかも」「手術後の人もいるかも」とあらゆることを想定しながら行動するのも神経が疲れる。そもそもいつもそんなに善人ではいられないし。

 だから、自分が怪我したとか体調が悪いという経験をした時に、「そういう人が他にもいるのかも」とちょっとだけ想像してみることが大事なのだろう。

 親指の爪がはがれたのは本当に痛い出来事だったし、二度と経験したくないけれど、こういうことに気づけたのは収穫なのだ、きっと。

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【追記】

1.その後、「内部障害」マークというものの存在を知りました。「内部障害マーク」については、以下のエントリーで書いています。
「知っている」ことから始まるのだと実感した「内部障害」マーク

2.「マタニティマーク」については、コチラ

3.「足の親指の爪」をはがしたのはなぜか? サンダルのストラップを外して歩いていたら、自分で金具を踏んでしまったのです。そして、金具がそのまま親指の爪の間にぐさっと突き刺ささるという自損事故です。あれは、痛かった。全治3ヵ月。2008年7月3日に怪我しました。忘れもしない。

4.「頭の怪我」の真相は、コチラ

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※「日経BPケイタイ朝イチメール」(または、『コミュニケーションのびっくり箱』)の再録です。日時なのどは掲載当時のままにしてあります。(初掲:2009年7月~2010年7月)

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