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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

アメリカで大寒波のなか巨大な文鎮と化すEVという報道を眺めつつ思う事

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アメリカの中西部や東部が大寒波に襲われていて航空機の欠航が相次いでいるという報道が各方面から流れているのですが、そのなかで「さもありなん」というのがTeslaをはじめとしたBEV(Battery Electric Vehicles=電気自動車)が寒波の中でどうしようもなくなっているケースが多発しているという報道。例えばCNNでの"Here's why electric cars don't go as far in the cold"といった記事。バッテリが寒さに弱いのは物理法則の原理からしてどうしようもないのですが、どうも今回の寒波ではそれが顕著に出ているようです。

誰にも変えられない物理法則

今実用化されているバッテリは温度が下がると効率が低下し、それもある一定の温度以下になると更に急激に能力が低下します。これは従来からある鉛蓄電池だけでなくPHEVやBEVに多く採用されているリチウムイオン電池でも同じです。それとは別にバッテリが放電しきってしまうと再充電ができなくなるといった問題があるのですが、低温の中で放電しきってしまうと最早巨大な文鎮となってしまいます。ということできちんと設計製造された車両の場合にはそこまで放電しきってしまう前に給電を止めてしまう=動かせなくなるのですが、巨大な寒波が航続距離をどんどん縮め、その再充電に通常より時間がかかり、その充電の順番を待つ車両で充電ステーションの前にBEVが列をなしてしまう状況が生まれているようです。

これがPHEVならエンジンを持っているので設計次第では数分かけてガソリンを入れてエンジンが始動できればすぐに走れる場合があるし自分で充電もある程度できる可能性があるわけですが、バッテリしか持っていないBEVではどこにも逃げ道はありません。自分の家に高電圧の急速充電設備があれば別ですが、低温の中では低圧の充電設備では何時間... というか下手すると何日かかるか、あるいは能力が低下したバッテリを充電できるかすらわからない。
本当に大変なようです。

今の時代にBEVを否定するわけではないですが

寒いアメリカという状況を深堀りして調べている中で、ノルウェーにある日本のJAFにあたるNAF(Norges Automobil-Forbund)が低温時のBEVの性能テストを実施したという内容のこちらの記事「EV winter test: All of the cars lost range」に私がたまたま行き当たったのは今年の頭くらいです。リンクはノルウェー語ではなく英語なので読めるのですが、EVの普及に力を入れている北欧故、冬季のテストには非常に力を入れているのがよくわかる記事です。このページ自体の最終更新は昨年11月30日で、この記事の中ではTeslaはテスト項目を基本クリアしたけれど中国のBYDはダメダメでしたといった内容になっています。

そもそも北極圏に近い国ですから寒さにどれくらい強いかというところが生死にかかわる話で、テスト自体の真剣さが伝わってきます。

前述のように、そして既によく知られている通り、エンジン自体が冷え切ってオイルも固まるような低温でない限りガソリンや軽油で動く車両はほんの数分間かけて給油すればエンジンを始動できますが、全個体電池などのように瞬時に充電できるバッテリが実用になっていない現時点では普通の状態での急速充電といっても一定の時間がかかるし、しかもたとえ新車であっても何かの理由でバッテリが完全放電してしまうと保証外でのバッテリ交換以外に対応方法がないケースもあって、なかなか難しい状況に追い込まれるケースもあるようです。だからこその真剣さですね。

今のアメリカの状況は異常気象と言ってしまうとそれ迄だし、ガソリンやディーゼルの車両であってもひどい壊れ方をすることはあるんですが、EVを使う事は冬季に非常に低温になる地域ではまさに死活問題で、そこに発電や送電に関する社会的経済的な問題も含めて考えたときに現実問題として政治的あるいは思想的に化石燃料を止めようという動きに諸手を挙げて賛成といいにくい環境はあるかとは思います。

因みにノルウェーの人口は500万くらいで、実は人口自体は北海道と同じくらいの規模ですが「国家」です。したがって単純にノルウェーのEVへの取り組みを参考にして人口1億を超える日本の状況について話をするのは無理筋だし、もちろん北海道に単純に当てはめるのもちょっとおかしい話になります。特に欧州のいろんな事例を参考する場合、人口を含めた経済規模などの考慮が全部ぶっとぶケースが多いのですが、あくまでも参考として考えるべきだと個人的には思っています。

でも実際にはどうなんだろうかと札幌を見てみた

試しに北海道での普及状況について、参考までに札幌市の2023年11月27日付の次世代自動車の普及というサイトにリンクがある「札幌市内の自動車普及状況等について」(PDF:213KB)を見てみると以下の説明があります。

  • "札幌市内の令和4年度末時点における自動車保有台数は、1,058,814 台となっています。"
  • "札幌市内の令和4年度末時点における次世代自動車保有台数は、238,098 台"

更にその内訳を上記のサイトにある表から見てみると...

  • ハイブリッド自動車(HV) 159,602台
  • クリーンディーゼル自動車(CDV) 73,613台
  • 天然ガス自動車(NGV) 1,047台
  • プラグインハイブリッド自動車(PHV) 2,678台
  • 電気自動車(EV) 1,056台
  • 燃料電池自動車(FCV) 22台
  • ディーゼル代替LPGトラックなど 80台

EVの保有シェアは自動車保有台数全体の25%に届かない「次世代自動車」の中で0.4%。市内全体の自動車保有シェアから見ると最早ほぼ存在していないと言っても良い状況に見えます。ちなみに札幌市の公用車が400台弱あるうちEVは3台とのことで、「一応あります」というレベルでしょうか。

ちなみにこれを批判する気は一切ありません。もちろん全国的に見て発電送電網まで含めた鶏と卵の議論的な「充電インフラの普及が先なのか車両の普及が先なのか」という話、更には補助金やそもそも国や自治体の環境政策はどうなのかなど別の議論もあるのですが、少なくとも現実として2023年時点でのEV保有台数が全国で17万弱あるなかで北海道最大都市の札幌市での保有台数の比率は決して高くはないどころか、ほぼゼロという風に見えてしまいます。

それでも「やっぱりEVは寒いところでは無理論」は先入観の問題なのか

「寒いところでEVは無理というがそれは単なる先入観だ」という話は聞きます。たとえば本州以南であれば寒さ自体は何とかなるケースは多いとは思います。北海道の寒さを本州以南に当てはめるなという議論ももちろんあります。ただ例えば短期的な豪雪などで何十台と高速道路で閉じ込められているような状況のなかで、ガソリンやディーゼルであればエンジンがかかっていればヒーターは機能するし燃料補給も比較的容易です。PHEVもバッテリが完全放電しておらずエンジンを始動できるなら燃料補給で何とかなる可能性はある。でもBEVではヒーターつけてるだけでどんどん電力を消費するから車両の中に待機して救出を待つこと自体が困難になるし、結果バッテリが完全放電してしまったら現地充電など不可能でバッテリ交換となる場合があるレベルなのでレッカー牽引以外に救いようが無いという話があったりします。

それは個別の特殊な状況だといわれるとそれ迄ですが、その場での生死にかかわる話なのは間違いありませんし、いずれにせよ実際に北海道という市場に受け入れられていないというのは今時点での厳然たる事実だと受け止めるのが正しい姿勢と理解じゃないかとは思います。

じゃぁ今後どうなるのか

自動車業界あるいは環境問題の専門家ではない私が予測を述べるべきではないのは百も承知なのですが、現時点で大寒波に襲われている米国での状況、あるいは同様に寒波に襲われている中国から漏れ伝わる状況などを考えると「電力インフラの状況と気象状況にダブルで影響されるのだな」ということは理解できます。

更にはそもそもバッテリの製造や廃棄の段階での環境負荷がどんだけ高いんだよとか発電や送電のコストは無視して目先の電気代とかだけで考えるのはどうよとか、電力インフラの整備が体力的に可能な国や地域だけが対応できるけれどそれが不可能な国や地域ではEVなんてあり得ないよという指摘があったりします。他にも国家からの補助金ずぶずぶで普及を図った上に他国への輸出に力を入れるのは不当だという主張や、果ては原理主義的に発電のための化石燃料を輸入してブンブン発電してその電力をEVの充電に使い化石燃料を使う車両の製造販売を止めようとしている欧州は正気なのかとかいろんな議論があることから目を背けたり単純に批判したりするべきではないとも思っています。

社会や地球規模での各種の影響まで考えていろいろなアクションを取るべきだという総論に関しては一切反論は無いのですが、各論として特定の技術に対して極端に肩入れして対立する「古い技術」を排除することに集中しすぎるのはどうなんだろうかという気持ちを捨て去ることができていません。

「代替案のある生活」でないと個人的にとても怖いです。
でも、そんな私は単に勉強と理解と修行が足りないんでしょうかね。

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