顔面神経麻痺を患った話 (1/6) 原因はわかっているような、でもそうでないような
実は顔面神経麻痺は誰もが発症する可能性がある病気。ただし軽度の場合には比較的短い期間で元通りに回復出来るようです。しかしながら私が2019年の正月明けに発症した状況は症状を判断する専門医による40点満点の機能評価で4点。医師からも余り見ないほどの重症だと言われた状況でした。
そしてそれから足掛け4年も経って症状も随分と落ち着きました。
最初の段階で医師からは「元の顔に戻る可能性は非常に低い」」と言われていたのですが、黙っていればそれとはわからない程度にようやく回復してきた今、今回から6回にわたって、この話を書いてみたいと思います。
正直、誰もが発症する可能性があります。でも前駆症状に気がついていれば私のようにビッグマックを前に怯んだりQOLなにそれ美味しいのという状況にならずに済むかもしれません。
そもそも発症したときって何が起きたの?
忘れもしない2019年1月10日。
顔の左側で顔面神経麻痺を発症しました。
当日はなんか朝からちょっと顔がおかしくて、朝ごはんがちゃんと食べられず、口の左側からお椀から味噌汁が飲めないし、ご飯も口の中の右側でないと噛めません。なんだろうと思いつつ家を出て仕事に出掛けたのですが、とにかく左目が乾く。口も何故か左側の歯が乾くけれど、何故かよだれが微妙に出る。どうやら口も目も左側がキチンと閉じれていない。
おかしい。
口はともかく目は涙が止まらないのに乾くのがどうしようも無く、ドラッグストアで目薬を買ったのですが数時間でなくなる勢い。しかも瞼が下がって眼の前が見えにくい。
おかしい。
そのうち滑舌がおかしいのにも気が付きました。「ぱぴぷぺぽ」や「ばびぶべぼ」が明らかに撥音できません。
おかしい。
流石に上司に相談して早上がりし、帰宅途中に症状を調べるととにかく耳鼻科に行けと言う話が多く出てきました。その時点でどうやら顔面神経がおかしい事に薄々気づき始めていたのですが、とにかく花粉症の関係で毎年通っている耳鼻科へ。そこで馴染みのドクターが私の顔を見た瞬間に一言。
「此処では処置できない。すぐに紹介状を書くから近くの大学病院に明日の朝一番で行って。多分かなり重い治療をすることになると思う」
そしてとりあえず少量のステロイドを出してもらって帰宅し、翌日朝一番で紹介状を持って自宅最寄りの大学病院に行ったらそのまま緊急入院となって大慌てになったのですが、それはまた次回。
そもその顔面神経麻痺ってなに?
顔面神経麻痺という病気、幾つか症状のパターンがあるのですが私の場合を例に乱暴に説明すると頭蓋骨の耳の後ろにある穴を通って表に出てくる顔面神経と呼ばれる顔の表情や味覚聴覚を伝達する太い神経が何かの理由で機能を失って、その先にある顔の全体が麻痺する病気です。私の場合にはその穴の中で腫れ上がって窒息するような状況の中で機能を喪失、その先にある表情筋などの筋肉や味覚聴覚を司る細胞と脳との信号伝達ができなくなり、とにかく筋肉を制御する信号が来ないので表情筋を含めた発症した側の顔が全てその場所を保持できなくなって下に垂れ下がる状態になりました。口も頬も鼻も目も全てです。
この顔面神経麻痺、いくつか症状のパターンがあるのですが、いずれも原因はわかっているようで、でも実は完全には解明されていません。私の場合、恐らく顔面神経の中に幼少期にかかった感染症の原因だったヘルペスウィルスが顔面神経の中に入り込んだまま不活性の状態になっていて、それが溜まった疲れなどから落ちた免疫機能に打ち勝って潜んでいた顔面神経の中で活性化してしまい、その結果腫れ上がって頭蓋骨から出てくる穴の中で機能不全に陥ってしまったのではないかという医師の話はありました。
幼少期に水疱瘡やおたふく風邪などなど、いろんな感染症にかかるのはよくある話です。ワクチン接種で症状を軽くする方法は確立されていますが、変わらないのは何らかの形で罹患して免疫を獲得することで打ち勝つという流れです。ただし、打ち勝ったところで体に入り込んだウィルスが全て死滅するわけではなく、体のどこかに潜んで静かにしている状況になることは珍しくないようです。そして体が弱ったときに息を吹き返してしまう。そんな病気のひとつのようです。
実は原因を特定するのは非常に困難だと言われています
但し腫れ上がっているとはいえ顔面神経自体を切り取って検査するわけには行きませんし、仮にヘルペスウィルスだとしてもどの程度存在しているのか、検査の検体にどれほど含める事ができるのかなどを考えると「原因は恐らくこうであろう」という憶測を出ることができないのが今の医学の状況のようですし、それは仕方ないと思います。顔面神経抜いたら本当に顔の半分が完全に機能を失いますから。
ただ、この顔面神経麻痺でひとつはっきりしてるのは「これで死ぬことはない」ということ。私のような状況の場合に取れた最初の治療はステロイドのパルス投与。ただし顔の半分が完全に崩れて欧米の漫画に出てくるゾンビのような垂れ下がって表情を失った自分の顔を鏡で見たときには、当時既に60歳近いジジイな自分でも「最早この顔を晒して生きていたくない」と本気で思ったのは事実ですが。
生死に関わる病気では無いけれど
そんなに多くの人が発症する病気ではありません。更には程度の差も大きくて、発症しても投薬等で数日で神経が機能を取り戻して元通りの顔に戻ることもあれば、顔の片側だけが動かない状態を抱えて暮らしていく場合もあります。実は私は後者で、神経が筋肉を動かす信号を上手く通せなくなって一旦完全に弛緩した顔の左側の筋肉がその後萎縮して何となく元の場所に戻ったけれど、信号はやっぱりちゃんと届かないので動かないし、萎縮しているから元の信号よりも強く伝わらないと顔の左側は動かない=つまり顔の左側が固まった状態になっています。
医師からも「実は原因を特定するのは非常に困難なんです」と最初から言われていました。実際この顔面神経麻痺は誰もがかかる可能性があります。ある意味帯状疱疹などと近いところがあるかもしれません。しかしながら予防のためのワクチンなどは存在せず対症療法しか無いです。
別に恐れる必要はありません。
キチンと生活していれば発症すること、少なくとも私のような症状になることは少ないのではないかとは思います。
但しそれも可能性と運の問題なので一概には言えず、私の知り合いの中にも程度問題はあれど発症した経験のある方は一定数いらっしゃることが後からわかったりはしています。ただし御本人からお話を聞くまでそういう経験があったと気づいたことはありません。ゼロです。
それを踏まえて教訓じみた話を最後に。
- 若いとか関係なく絶対に過労の環境からは逃げろ。
- 飯をちゃんと食ってちゃんと寝ろ。
- 人から「顔の片方だけで笑うな」とか顔の左右のバランスに関することを指摘されたら直ぐに耳鼻咽喉科へ走れ。
- 普通にしてるのに口の片方だけが閉まらくて歯が乾くとか片目の涙が止まらないとか起きたら冗談抜きで一刻を争うので本当に即刻耳鼻咽喉科へ走れ。
- 他の科目では駄目。耳鼻咽喉科。
- 軽ければ多くの場合医師が判断する量のステロイド投与で数日で治る。
- でも最初の発症でも私みたいに重症になることはあって、そこには運しかない。
次回へ続きます。