オルタナティブ・ブログ > THE SHOW MUST GO ON >

通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

尽きない市場のガラパゴス化という意見と議論

»

かつてケータイ電話市場の閉鎖性と独自進化した状況を示す言葉として広く知られることになった「ガラパゴス化」という表現、今や通信機器以外の分野の説明でも使われることが多い訳ですが、この単語にどうしても反応してしまうのは私自身が今現在も通信業界の末席で禄を食んでいるからかもしれません。まぁ実際今でも業界内で使っている言葉だったりするので仕方ないところですが。

ガラケーは死なない

いわゆる3Gまでの世界でのガラケーは、その通信サービス自体の終了と同時に実用品としての寿命は終わり、既に個人の思い出として手元にあったりコレクターのコレクションに残っているレベルです。ただし実際に市場のなかで「ガラケーの体の電話端末」は各事業者とも残っていて、実際市場ニーズはあります。この形じゃないと困るという個人の方の強い希望、法人需要としてスマホでは色々不都合があるという方面のご要望等々がその理由です。勿論中身として過去のガラケーとは違っていて中身はAndroid OSですがスマホの全面タッチパネルではなく折り畳みのガラケーの形。元々ガラパゴスと揶揄されるレベルに極端に日本市場に最適化された端末とキャリアのサービスがそこに存在したのですが、既にエコシステム全体として存在しなくなってしまいました。勿論アプリのレベルであれば日本国内でしか流通していないモノが山のようにありますが、それは世界中どこの国でも同じ話。少なくともハードウェアレベルでいうと「汎用品」となっているのは皆さんご存じの通り。

そんな風に時代は流れているわけですが...

世界中どこでもその国その地域に特化した進化というものはあるんですけどね

そんな私にとって個人的に最近「ガラパゴス化」という表現をよく見るなと思うのが実は自動車の世界です。EVシフトが遅いとか日本のメーカー各社の対応がどうのとか、まだ内燃機関やるのかとか、日本国内の充電インフラの整備ってなんでこうなのよあの国はこの国はそこの国は云々といういろんな形での記事や主張を見かけない日は無い感じです。

でも、そもそも世界中いろんな国や地域や状況の中から自分が問題とするのに便利な、あるいは自分の主張に都合の良い例を切り取って自分の足元ってどうなっているのよと主張される向きが割と多い気はしています。いや勿論それぞれ理由があって主張があるのは解るんですが、そして今の日本の状況や流れは理想的なモノだとは全く思わないのですが、それでも「日本の置かれてる状況や現状はそれほど非難されるべきものなのか?」という疑念がどうしても残ってしまうんです。

世界市場とは日本も含めそれぞれが自己最適化された市場の集合体じゃないの?

たとえば国内メーカーが作る国内向けのマッスルでデカいRVやピックアップトラックがガンガン売れるけど州によってはヒステリックにEVに走るアメリカ自動車市場は非常に高度に自己最適化してるし、ディーゼルどこ行ったんでしょうね的なEUも迷走しつつ自己最適化してるし、アジアは各国ごとに自己最適化してるし、中南米とかアフリカとかガソリンとディーゼルのランクル無いと国が成り立たないしといった状況があるわけです。その中でたとえば国策からEVに急激 & 極端にシフトしている中国市場は国策で策定した自国市場に極端に自己最適化しようとしているわけですが、そこでのプレゼンスが世界全体でのメーカー自身のプレゼンスを示す最大の指標であるとまで主張する向きとかあったりして、その主張は誰かの意見の代弁ですかとか思ったり。

その主張は誰の誰に対する何を目的とした主張なのか

じゃぁどうあるべきなのとかそういうレベルの話を私ができる筈も無いのですが、ただたとえば企業が事業展開をするなかで一定以上の規模の組織体がただ一つの市場や分野だけで成立することは殆どなく、事実として今の時代の日本に於いては例えば国内市場だけ相手にできる分野と常に海外市場を意識しておく必要がある事業分野があることくらいは理解しています。

ただしひとくくりに海外と言ってもそこには国や地域ごとに多様性が存在していて、それらの最大公約数的なところは国際基準あるいは世界的な傾向と呼んでも良いと思うのですが、それぞれの地域別の志向や嗜好の違いを力任せに踏んづけて「これが正しいのだからこれを受け入れろ」と市場に土足で踏み込むのか、あるいはそれぞれに合わせて細かく仕様を変えて受け入れられるようにするか、それがコスト的にペイしないとか全然違う方向でのアプローチを考えている中で当該市場への方入れ具合を調整するかどうか。

そういった話はそれぞれの企業の然るべきマネジメントが判断するべきことであり、その判断によって組織体が大きくなることもあれば何万もの人が路頭に迷うことになるかもしれません。ただ、少なくとも「自分が信じる国際化の潮流とは違う日本市場は常に一つのガラパゴスである」までは良いとは思うんですけど単純に「だからダメだ」となると違うと思うんです。それぞれの国や地域の状況が違うことを棚に上げて都合の良いところだけを使って自分と意見の違う相手を非難してばかりの主張ってどうしても距離を置きたくなるんです。

難しい話ですけれど。

Comment(0)