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書評:『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』 ~ホンモノの働き方改革は、働く人が幸せであること~

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「自分の仕事をどのくらい楽しんでいますか?」

「仕事をもっと楽しくするために、何ができますか?」

「同僚の仕事も楽しいものにするために、どんなことをしますか?」

みなさまは、これらの問いに対して、『自分の言葉』で、すぐに回答することができますか?

これは、本書に書かれている問いであり、私がCHO(Chief Happiness Officer)として大事にしている観点でもあります。今日は、発売前から楽しみにしていた『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』(9月16日発売)について書きたいと思います。

「Amazonがどうしても欲しかった企業」ZapposをAmazonが買収したのは2009年7月。Zapposの企業文化やサービスについて書かれた前作 顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか2010/12/3)から10年、ZapposをAmazonが買収してから11年、本書は、「Zapposがどのような変化(進化)を遂げてきたのか?」について、働く人たちが自らの体験(エピソード)を自らの目線と言葉で語る、ストーリー形式で綴られています。

さまざまなエピソードの中で、私の1番のお気に入りは「タイラー・ウィリアムズ のファンジニア」のストーリーです。(ネタばれしないように、お気に入りの理由はここでは割愛します。)

本書には、前作同様「企業文化」の重要性が多く語られています。「企業文化」のコアバリューを維持するために、どのように採用し、どのようにリストラしているかまで、実にオープンに語られています

Zapposがティール組織をつくっていくために出された「ティール・オファー」。オファーが出たタイミングで、他社からZapposの2倍の給与を提示されて退職、1年半後にZapposに戻ってきたスコット・ジュリアンのストーリーは「企業文化」を維持、醸成させるのは、そこで働く人達であることを再認識させてくれます。(ザッポスを辞めて戻ってきた社員のことを「ズーメラン」と呼んでいるらしい。)

本書は、各エピソードがインタービュー形式で語られているので、本を読んでいるというより、まるで対面で、直接、本人から話を聴いているような感覚になりました。夢中になって読み進めていくと、本書には、私自身の働き方の軸(父が教えてくれたこと)が沢山書かれていること気づきました。また、それと同時に、ある懸念が生まれました。それは、先日公開された対談 『職場の問題地図』著者・沢渡あまねと、組織開発のプロ・椎野磨美が語る「これからの組織のハッピー(幸福)」でも話していることですが、「働き方」の話になると「日本企業 vs 外資系企業」という二項対立で考える風潮があるということです。もし、本書に書かれていることを米国企業(ザッポス)だからできる」「スタートアップ企業だからできる」と捉えてしまう方がいたとしたら、それは、とても残念なことです。

本書が一貫して伝えていることは、「個人の価値観」と「企業の価値観(≒企業文化+企業倫理)」がフィットする人を採用すれば、働く人にとっても、会社にとっても、うまくいくということ。そして、そのためには、個人も会社も変化を受け入れ、変化を推進しつづける必要があるということであり、それは「米国企業(ザッポス)だからできる」「スタートアップ企業だからできる」ということではありません。

大事なのは、「仕事ですることと家庭ですることは、まったく異なるものではないし、区別するべきでもありません。サービスを第一に考えることは、仕事と同じくらい、人生でも大切なことなのです。」(P59 )に書かれているように、仕事とプライベートを区別するのではなく、幸せであるためにはどうすればよいのか?」を考え、働く人にとっても、会社にとっても「素晴らしい方法」を実現すことです。

そして、それは「働き方改革」や「ワークアズライフ」という言葉がない時代(45年以上前)の日本でも実現できていたことを証明するために、日本企業で働く父が実現していた「働く人が幸せである」ためのエピソードをいくつか紹介したいと思います。

エピソード①「通勤時間30秒」(「働く場所」を「暮らす場所」に近づける )

48年前に自宅を建てる時、おそらく、「在宅勤務」という概念もなかったであろう時代に、通勤時間を最短にするため、自宅の1Fに営業所をつくることを会社に提案し、実現させた父。創業80年を超える、東証一部上場、数千人規模の日本企業において、どのような提案をおこって、実現したのか?(23年前に泉下の人になってしまっているので)今となっては確かめようがありませんが、父の交渉術を学んでおきたかったと思っています。
会社のコストを抑え、通勤時間は30秒(階下に降りるだけ)という環境を整えた父は、父自身の時間を増やしただけではなく、母の自由な時間も作り出しました。通勤時間が30秒になったおかげで、毎朝、幼稚園に私を送っていくのは父の役割になりました。

エピソード②「ワークアズライフ 」(仕事とプライベートを分けない働き方)

働く場所が自宅の1Fということもあり、幼稚園や学校から帰宅した私に、1番最初に「おかえり」と言ってくれるのは父でした。幼稚園や小学生時代は、そのまま、父の職場の片隅で本を読んだり、絵を描いたり、宿題をしたりしていました。47年前、父以外の方も働いている職場で「職場に子どもがいる状況で働く」を実現していたことを考えると、とても先進的な働き方であったと思います。

エピソード③「自分がしてほしいことを人にする」(同僚の働き方を支援する)

就業時間内に会社の仕事が終わったら、残りの時間は自分の時間として自由に使ってください」これは、父の葬儀の時、一緒に働いていた方から教えていただいた父の言葉です。将来、別の職業に就きたい、働きながら目標を実現したい(資格を取得したい)と父に相談した時、父が伝えた言葉であり、「言葉どおり、本当に自由に勉強時間にあてることができたことに感謝しかありません」と教えてくれました。

「個人の価値観」と「企業の価値観(≒企業文化+企業倫理)」がフィットする場で働く

本書を多くの「働く人」に読んでいただきたい理由は、企業は「社員が仕事で幸せを感じ、長く組織の一員でいたいと思えるためには何が必要か?」を考え、個人は「幸せな仕事を継続するために、企業に対してどのような貢献ができるのか?」を振り返る機会になるからです。

「価値観」は、どれが正しい、正しくないと判断するものではなく、「価値観」にフィットするかどうかを見極めることが大事だと思っています。本書をきっかけに、本を読まれた方々の「働き方」に対する「価値観」が明確になり、その「価値観」にフィットする場で働くことができるようになれば、「幸せに働く人」が増えると思っています。

本書は、「働く人」すべてにおススメしたい1冊です。ぜひ、読んでみてください。

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