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AI音楽最大の課題は「主題の重複」~ 絵と詩と音楽(n)~

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AI音楽が席巻し始めている。Microsoftは、Suno Inc.の音楽生成AI「Suno AI」を、Copilotのプラグインとして搭載。

まだ利用してはいないものの、最大の課題は見えている。
作曲への活用方法、著作権問題、レーベル間との収益構造についての法や倫理の問題以上に、厄介な問題がある。
複数ユーザーでの「主題の重複」だ。
その理由を、以下に示す。

まずは、これを聴いてほしい。面倒なら、最初の3フレーズだけでかまわない。「CARNAL」という曲だ。

あれ?どこかで聴いたことがある主題だ、そうおもった人がいるのではないか。

社団法人 全国牛乳普及協会のCMのインストゥルメンタルが、同様の主題なのだ。
上記の打ちっぱなしフォルクローレとは全く異なる、シンフォニックで上品、軽快な印象のアレンジ。気高い生演奏の音源に合わせて、バレエダンサーがリズミカルに踊る。作曲者は、久石譲氏。2002年の作品のようだ。先日検索したところ、CD化はされていない。筆者は、以前、Youtubeで偶然耳にした。そして驚いた。
リンクできればいいのだが、動画が見つからない。Copilotに探してもらったが、「以前YouTubeで公開されていた動画は現在削除され、代わりに別のCMが公開されているようです」という回答だった。

先の「CARNAL」は、1984年、筆者が20代前半に書いた曲だ。

筆者が真似たわけではない。もちろん、その逆でもない。

偶然の一致、ではなく、必然の一致。

このような主題の重複の発生確率は、ヒトが創る限りにおいては、高くはない。それでも、これまで筆者が作った、わずか150曲(ほぼ未公開)の中で、数曲、同様の現象が発生している。小学生の頃、宮澤賢治の詩集「春と修羅」の中の詩「真空溶媒」に付けた曲、その主題の1フレーズが、10数年後に街角から流れてきたときには、驚いたものだ。
作曲をするひとなら、同様の経験が一度や二度はあるのではないか。

AI音楽が普及すれば、この現象の発生確率は、一気に跳ね上がる。

主題は、音階と長さとリズムの膨大な組み合わせの中の、ひとつにすぎない。
それは、作るというよりも、発見だ。ヒトの情動を喚起するトリガとなる主題は、ただ、そこに在る。見い出すのが、早いか遅いかの違いでしかない。
計算機は、短時間で膨大な処理をして吐き出すことができる。ヒトよりも速くたどり着くだろう。そして、同じAIを利用した複数のユーザーが、酷似した主題を引き当てる可能性が生じる。

同時期に、世界中の、複数の作曲者から、類胃の主題の曲が公開されたら、ストリーミングサービス側は、どう対処するのだろう。先に発表した人が優先され、後の人たちは公開を諦めるのか。公開済みであれば取り下げるのか。
それが必然の一致なのか、模倣なのか、誰が、どのようにして、判断するのか。
趣味や、サブスクでのコーヒー代程度ならまだしも、公的なイベントのテーマソングのように、金銭が絡むと面倒なことになりはしないか。

前述の「CARNAL」には、歌詞がある。歌い手がいなかったため、インストにするしかなかっただけだ。

When the sun goes down on the top
When the men jump off the drop
A luminary loses himself to be proud
In the lucid interval of the crowd

Ah---the CARNAL things under the sun......

作詞も、1984年。肉体を持つ人間、現象であるがゆえの苦しみ、悲しみ。救いようのない詩だが、やむをえない。絶望が口を開けて待つ未来へ突き進む、この国を憂えた歌だから。

1996年、Windows 95、16bitのCubase ltで、midiを入力した(Cubase ltの独自拡張子は、all)。DTMの機材を手にして1週間程度での、2曲目。打ち込んだだけ、何の加工もできていないデータだ。当時、「YAMAHA XG 4th. DATA CONTEST」があり、応募総数を引き上げて盛り上げる役割くらいは果たせるだろうと応募した。(前掲の音源は、YAMAHA CS1Xから出力したものを、wavに変換して掲載している。)

allCARNAL1.png

その3年後の1999年、筆者が管理人を務めていた「XMLデザイナー・メーリングリスト」では、オンライン・コラボレーションによるコンテンツ制作が流行。音源のサンプルとして、このmidiファイルを提供した。
曲を聴いた、参加者のあつみ氏が、「オーケストラ風に編曲するといい」と発言した(下図)。
あつみ氏は連歌や音楽を嗜む文化人で、耳の肥えた人物だ。久石氏作のCM音楽のようなアレンジをイメージしていたのかもしれない。

メーリングリストの参加者たちは、筆者も含め、XMLの設計と活用に注力していたので、この音源がアレンジされることはなかった。だが、もし、あつみ氏の助言通りに、オーケストラ風に編曲していたら、どんな曲になっていただろう?
そしてもし、主題のMIDIやMusicXML、五線やタブ譜のイメージを食わせ、アレンジとエフェクトとミキシングのイメージをプロンプトで指示すれば、数ステップで作業完了となる機能が標準実装されるならば?
久石氏のような超プロの楽曲にクオリティでは確実に劣るとしても、類似の印象を与える音源が出力される可能性は否定できない。

CARNALatsumi4.png

筆者が2010年に巡音ルカの力を得て、80年代に書いた歌を収録したアルバムを作り始めたとき、この「CARNAL」を収録するかどうか、かなり悩んだ。主題が重複するはずはないと信じているひとが少なくないからだ。一人でも誤解するひとが現れたなら、説明に膨大な時間を割くことになり、疲弊するだろう。それを恐れて、とりあえず、見合わせた。

AI音楽については、法や規約が後追いしている状況にある。それらを議論するひとたち全員が作曲者とは限らないだろう。作曲には無縁の、法律や経済に特化した専門家もいるのではないか。そうであっても、主題が重複する可能性を踏まえて、議論が進むことを期待したい。安心してAI音楽を創り楽しむことのできる環境を整備してほしいものである。

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