Cubase と ボーカロイドで、DTM。環境構築に立ちはだかる壁。~ 絵と詩と音楽 (n) ~
前回は、データ形式の変換によるコンテンツを考えるにいたった背景について書いた。
今回は、DTMを始めたきっかけと、Cubase le から Cubase 11 + ボカロ にいたる経緯。
Windows 95、YAMAHA CS1X+Cubase leで、DTM
(前回からの続き)勤務先では、その後、一人部署の企画室に配属となり、新素材用途開発プロジェクトに出向。助成期間の終了にともない退職、デザイン事務所に転職した。設立されたばかりの、ベンチャーのソフトウェアベンダーの担当となり、広告宣伝業務を一手に担っていたところ、音楽に向き合う機会が巡ってきた。
企業紹介のローカル番組のシナリオを執筆、その流れで、ローカルCMをプロデュース。CMソングを作り、絵コンテとスコアを渡して、音源制作を外注した。
ところが、イメージとは異なる仕上がりとなった。音のイメージの伝達が課題として残った。
ある日、開店したばかりの書店へ行ってみた。「DTMマガジン」が目にとまった。最新号とバックナンバーの2冊を買った。
その中で、シンガーソングライターの石川優子氏が、作曲者自身がラフに打ち込んで渡せばよい、と述べていた。
それならイメージは伝わりやすい。良い助言だなあ、と何度も頷き、DTMに取り組むことにした。
2冊を頼りに、購入機材の候補を絞り込んだ。
YAMAHA XGと、Roland SGという2つの規格があることを知った。筆者は、YAMAHAに可能性を感じ、XGを選択した。
翌日、YAMAHAの支店に電話した。なにしろ実物を見たことがないのだ。DTMの機材があるなら見学したいと頼んでみた。答えはノーだった。支店に見学できる設備がない。リアルで見て触れられる情報は何もなかった。
1990年代半ば。全国でインターネットの回線敷設が急ピッチで進み、プロバイダが次々と産声をあげ始めたころ。ネットといえば、パソコン通信とNetwareなどを使用したイントラネットの時代。検索して情報を得るという現代の方法は使えなかった。
自分でやるしかない。
始めよう。問題ない。AV機器の回路図や実配図は見慣れている。信号の流れる方向さえ間違えなければ動く。INとOUTはマニュアルに記載されているかもしれない。
幸運なことに、仕事で担当していたクライアントが、ハードウェアの販売業務も手掛けていた。最低限のシステム構成で発注した。
パソコンは、ボードやメモリを増設できる拡張性の高さから、FMV SE 133MHz。Windows 95(32bit)、IE2.0。Sound Blaster搭載。スピーカーが付属。そして、MIDIキーボードとして、シンゼサイザーYAMAHA CS1X(写真)。Cubase le(16bit for Windows 3.1)バンドル。
納品されたものを開封して初めて、DTMの機材を目にすることになった。CS1Xには、比較的詳しいマニュアルが付いていた。まずは、CS1Xを接続して、リアルタイム入力を試みた。1週間後には、小学生のとき初めて作曲した「春」ほか2曲をラフ入力できた。単にトラックを作成して、CS1Xで弾いただけだが、最低限の操作方法は把握した。
1995年、全国にインターネット網が拡大。遅いながらも接続可能となった。
MIDIのプラグインである、YAMAHA Midplug が、Microsoft Active X コントロールに対応した。これにより、YAMAHA XGの規格で制作した楽曲を、ウェブに掲載しやすくなった。
筆者は勤務先でウェブプロデュース事業を開始していた。手掛けた商用サイトのBGMなどの音源を、購入した機材で制作した。
作業時に苦労したのは、音楽には関係のない問題だった。シリアルポートの競合。CS1Xでも、インターネット接続でも使う。これがしばしば、トラブルの元となった。
1998年2月。筆者が関心を寄せていた仕様「XML」がW3C勧告となった。仕事と看護の両立が限界に近づいていたこともあり、勤務先にフレックス制や在宅勤務を掛け合ったが、理解を得られず、退職、開業。XMLエンジニアとして情報基盤構築に従事するかたわら、技術普及と人材育成のため、技術解説書や記事を執筆。
それらの中で使ったサンプル音源も、同じ機材で制作した。
ちなみに、後年、Cubase le を、Windows XP ProfessionalのNEC Lavieにインストールしてみたところ、問題なく動作することを確認した。また、現在ダウンロードできる「Cubase le」は、Windows 10、11に対応しており(筆者は未使用)、ライセンス認証は、Soft-eLicenser になっている。
シリアルポート標準搭載のPCなら、DTMのリアルタイム入力用に、YAMAHA CS1Xを使える可能性もある。シリアルポートのないPCでは、MIDIインタフェースがあれば、USBポートに接続できる。ただし、レイテンシの問題が発生する場合がある。演奏と保存のタイミングがズレると、リアルタイム入力は厳しい。
筆者はWindows XP までしか試していないが、「YAMAHA USB-MIDIインターフェース UX-16」は、Windows 10に対応しているようだ。シンセとしてのCS1Xの音はユニーク。音源としての使用はありかもしれない。
「初音ミク」と「Silverlight」、同時期にリリースされた2つの技術
家事と仕事に忙殺される日々。音楽に振り向ける時間はなくなっていった。それでも、アルディメオラの新盤が出れば買い、BGMとして聴いた。2005年には、2代目のギターも買った。
そのような状況のなか、2007年、「初音ミク」が登場。
筆者に、歌作りへの期待をもたらした。なにしろボーカルには適性がない。が、歌い手を探すも出会えない。そのためにソロでのライブ活動を諦めたのだ。「初音ミク」は日本語のみ対応だが、ライターとして経験を積んだ今なら、作詞はできる。
ソングライターとしては、期待しかない。一方、テクニカルライターとしては、忸怩たるおもいを抱えることになった。
「初音ミク」の急激な人気の高まりのために、解説記事の供給が追い付かない。作曲にも演奏にもDTMにも無縁のライターたちが奮闘。リスナー視点やエンジニア視点の記事は充実したが、ソングライター視点の記事が不足していた。
だが、筆者はといえば、すぐにでも取り組みたい気持ちを抑えるしかなかった。
同時期に、Microsoft SilverlightのCandidate版、リリース。Silverlightの解説記事を書き始めた頃、「初音ミク」が登場したのだ。
連載に使うサンプルプログラムは、協業のプログラマーが担当する予定だった。だが、Visual Studio(開発ツール)に、Silverlight用のコントロール(純色のカラーピッカ―)が搭載されていないという理由で「NO」。筆者が大半のプログラムを書くことになった。Silverlightとボカロの両方は、時間的に不可能だった。
Windows 7(32bit)、「Cuabse 5 Essential」+「巡音ルカ」で入力
「初音ミク」を使って作られた楽曲の公開プラットフォームとして、ニコニコ動画が快進撃を続けていた。筆者が「日経ソフトウエア」に連載を書いていたとき、ちょうどニコニコ動画が登場し、誌面に紹介記事が躍った。それを読み、大きな期待感を抱いた。その媒体に、ボカロ曲の投稿とは、正しいネットの使い方の見本ではないか。
だが、筆者は、ニコ動を視聴する時間さえ捻出できなかった。
それから2年。2009年、英語を歌えるボーカロイド「巡音ルカ」が登場した。探していた歌手が目の前に現れた。巡り合ったのだ。
Windows 7(32bit)になり、OSは、32 bit から 64 bitへと切り替わろうとしていた。もはや、16bit版のCubase ltを使う時代ではない。Cubaseでカラオケを作り、巡音ルカのボーカルを重ねよう。
2010年、制作環境を構築した。
Windows 7(32bit)デスクトップPCに、「Cuabse 5 Essential」+「巡音ルカ(VOCALOID 2 Editor)」。
晩夏から入力を始めた。今年中に入力して、アルバムを出そう。収録するのは、1980年代半ばに書いた歌。もうひとつ、1980年頃に書いた曲に、新たに詩を付ける。
2010年10月。5曲のラフ入力ができた。7曲すべてを入力できたら、修正して、音圧を確保しなければならない。
この時点で、「Cuabse 5 Essential」には、マキシマイザーやリミッターが搭載されていないことに気付いた。入力しただけでは、試聴したリスナーが首をかしげることになってしまうというのに。
Windows 8(64bit)、「Cuabse 5」で、マキシマイズ
2011年の正月明け、「Cubase 5 64bit版、VST SOUND COLLECTION」を購入。このとき、今すぐ使う予定はないものの、「初音ミク(+VOCALOID 2 Editor)」も購入した。
Windows 7 Home Premium 64bitの14インチのノートPCに、Windows 8 Enterprise をインストール。これに、「Cubase 5 64bit版」をインストールした(「HALION SYNPHONIC ORCHESTRA Disk 1,2 16bit版」は未インストール)。14インチの画面では狭すぎる。外部ディスプレイを接続。
Windows 7 のPCで、「Cuabse 5 Essential」と「巡音ルカ(VOCALOID 2 Editor)」を使って作成したファイルを、Windows 8 の「Cubase 5」に読み込んで、ミキシング、マスタリングを進めようと考えた。
その頃、「初音ミク」や「巡音ルカ」の生みの親、クリプトン・フューチャー・メディア(株)が、独立ミュージシャン向けサービス「RouteR」を始動。ボーカロイドを使用するうえで避けて通れない、商標問題に風穴を空けた。ピアプロリンクというしくみを使えば、ボーカロイド使用の楽曲を販売できるという。
2005年に個人事業所の屋号を変更した際、コンテンツ配信を業務内容に含めておいた。個人レーベルを開設した。
これらの一連の作業により、2011年の1月か2月には、7曲入りアルバムを発売する予定だった。
ところが、その計画は、アクシデントで頓挫した。
突発性難聴、作業続行不可能。耳を使わず2曲書下ろしへ方針転換
2010年末に、突発性難聴になった。左耳の聴力が3割まで落ち込んだ。原因はわかっている。睡眠妨害による睡眠負債の蓄積だ(これについては、別途書く)。年明けになっても、聴力が戻らない。
6曲ぶんのラフ入力の音源はある。個人レーベルも開設済み。だが、それから先の作業ができない。
そこで、ラフ入力版をウェブで先行公開することにした。その方法として、Silverlightを採用。 再生機能付きのウェブページを自動生成する、Silverlight Webプレイヤーを開発した。
歌詞やアートワークのファイル名を変更するだけで、シングルにもEPにもアルバムにも対応。収録曲数や楽曲の長さを考慮する必要のない、汎用的なプレイヤーだ。
それにしても、聴力がなかなか戻らない。音源制作の作業に着手できない。
「RouteR」には、レーベル登録後半年以内に楽曲を出さなければ、レーベル登録がキャンセルになるという規定があった(現在の規定は未確認)。
半年以内に、1枚目を出さねばならない。聴力をできるだけ使わずに、クリアする方法があるはずだ。しばし考え、アルバムは保留として、2曲を書き下ろしてシングルを出す方向に転換した。
突発性難聴の症状は、思いのほか重かった。日赤病院を受診することになった。耳鼻科の待合で、ノートにペンを走らせた。頭の中に流れてくる楽曲を書きとめるという作曲方法のため、耳や楽器を使わなくても、歌を作ることは可能だ。
とはいえ、聴力ではなく視覚を頼りに入力するのは、難しい。入力ミスがあっても、気付きにくいのだ。そこで、トラック数を最小限に絞り込み、最低限のアレンジにして、ミスの可能性の低減をはかった。
聴こえる側の右耳だけにイヤフォンをして、これ以上の負担がかからないよう、音量をしぼり、入力ミスがないかを耳でチェック。
そして、「Cubase 5」のメーターを注視しながら、視覚頼みで、ミキシング。楽曲の聴き比べは不可能なので、マスタリングは省略した。
この、できるだけ聴力に頼らない制作方法で、レーベル開設から半年以内に、2曲入りシングル「Change The Brain」を発売。Appleストア向けには、昨年入力済みだった歌を付けて3曲入りEPとした。
聴力が安定しないなか、アルバムの作業も再開した。こちらも、「Cubase 5」のメーターを注視して、視覚頼みで、ミキシング。マスタリングは省略。それぞれの曲の音量がバラバラで、アルバムとしてのまとまりはないが、やむをえない。
2012年9月、7曲入りアルバム「Out of Imagery feat.Megurine Luka (邦題:イメジェリの地平 feat.巡音ルカ)」を発売した。
80年代、筆者が20代の頃に書いた、まだ表現の拙い歌詞。だが、「巡音ルカ」を使った英語アルバムとしては、初になる。アルバムの購入者は、その珍しさと、チャレンジ精神を評価してくれたのだろうとおもっている。
YouTubeでは、小さな紹介動画を公開。動画制作ソフトは使わず、プログラミングで制作した。Visual Studioで、Silvelrightアプリを開発、動作させた画面をキャプチャするという方法だ。
アルバム発売後、ようやく「初音ミク」を使う時間を捻出できた。
そこで、「初音ミク」と「巡音ルカ」を使った歌を書きおろしてみた。今度は、Windows 8 のPCで、「Cubase 5」を使って、音源を制作した。この詳細については、次回にゆずる。
Windows 10のPCで、Cubase 11 Pro にアップグレード
Cubaseはバージョンアップを繰り返し、多機能化していった。バージョンアップ案内が着信すると、心が動く。だが、家事と介護に忙殺され、音楽どころか、仕事をする時間すら捻出できない。
それでも、音楽へのおもいは強く、2016年に、[Cubase Pro 8.5 Update from Cubase 4 / 5」を購入。ところが、インストールの時間を捻出できない。ダウンロード期限をはるかに過ぎても、だ。そのうえ、「Cubase Pro 11 Update from Cubase 8.5」のアップグレードキャンペーンの案内が届いたものの、この期限にも間に合わなかった。
2021年の夏。介護中の親を、二泊三日のショートステイに送り出した。その間に、自宅へ戻り、作業に集中。
「Cubase 11 Pro」と「Piapro Studio」の環境を構築した。
まず、「Cubase 11 Pro アップグレード版」は、「required」と「recommended」のみダウンロードしてインストール(optionは、未インストール)。
Windows 8 のノートPCで使っていた「Cubase 5」のライセンスが登録されている「eLicencer(USBコネクタに挿して使うプロテクター、ドングル)」を、「Cubase 11」をインストールする、14インチノートPC(Windows 10 20H2、Corei7 8550U)に挿して、登録。
「初音ミクV3(Englishバンドル)」、次に、「巡音ルカV4X」をインストール。「Cubase 11」から「Piapro Studio」を使うため、今回「Studio One」はスキップした。(下画像:「Cubase 11」から「Piapro Studio」を起動した画面)
オーディオインタフェースなし、シンプルなYAMAHAのヘッドフォン(HPH-50B)という、最小の構成だ。
リアルタイム入力用には、KORGのUSB MIDIキーボード(microKEY-25)を購入した。
ワンオペ介護とインストールの難しい問題。それでも音楽を続けよう。
この国には、「介護と在宅業務は両立できる」という迷信が蔓延している。
両立できなくはない。ただし、前提条件がある。
ひとつは、介護者の交代要員がいること。または、パソコンのメンテナンスを依頼できる同居親族がいること。
ワンオペの場合は、介護サービスを利用して、オンコールのない日を、毎週三日以上確保できること、且つ、仕事用のPCに常時アクセスできる距離にいること。
これらの前提条件をクリアできなければ、作業以前に、環境構築とメンテナンスで躓いてしまう。
365日24時間ワンオペでオンコールにスタンバイしている状況では、Windows updateが精一杯だ。時間のかかるアプリのダウンロードや、途中で止められないインストールは、非常に厳しい。厳しいというよりも、不可能といったほうがいい。
また、自宅や事務所に仕事道具があり、実家で介護をしている場合も、不可能だ。
筆者の環境構築は、親を説得してショートステイに送り出すことから始まった。本人の拒否が強く、予定日前の三日三晩は大騒動。そのうえ、ショートステイに送り出した後は、親宅の掃除洗濯、自宅での炊事と掃除が待っている。さらに、同業の家族からの業務依頼に協力せざるをえなくなり、大幅に時間をロス。
それらを片付けた後、夜を徹して、購入とインストールを実行した。
「Cubase 11 Pro」には、ダウンロード版の「Cubase 8.5」からではなく、パッケージ版の「Cubase 5」からアップグレードしている。万が一のトラブルが生じた場合、「8.5」と「11」の両方がダウンロード版では、立ち行かなくなるからだ。
最低限の作業は、親がショートステイから帰宅する時間までに、間一髪で間に合った。だが、問題が発生。
当初は、スタンドアロンの Windows 8 のPCに、既存のeLicencerを挿して、「Cubase 5」を使い、Windows 10 のPCに、新しいeLicencerを挿して、「Cubase 11」を使う考えだった。そこで、新しいeLicencerを用意したうえで作業を開始。
ところが、ライセンスの転送作業の余裕がなく、省略するしかなかった。既存の eLicencerを使ったからであろう、「Cubase 5」のライセンスはあと24時間、というメッセージが表示される事態に。そこで、制限時間内に、トラック別のwavファイルの全バックアップをとろうとしたが、親の帰宅時間が迫り、断念。
解決策を検討していたが、そうこうするうち、先日、肝心の「Cibase 5」をインストールしている Windows 8 のPCが不安定に。
「Cubase 5 」プロジェクトとmidiファイルは、バックアップ保存している。「Cubase 11」に読み込んで編集するしかなさそうだ。「Cubase 11」と「ボーカロイド3、4」は、どちらもまだ、1フレーズをテスト入力しただけにすぎないが、多機能になっても、基本操作は大きくは変わっていないという印象だ。
眠っている詩や曲が多数ある。また、新しく書き下ろしたいテーマもある。時間を確保して、入力していきたい。