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メルマガ新連載「ライル島の彼方」 第1回 「開発者に必要なザル英語」 ~転載(2014/09/29 配信分)

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この記事は、メルマガ「デジタル・クリエイターズ」に月1回連載中の記事の転載です。

新連載 「ライル島の彼方」 第1回 開発者に必要なザル英語

~新連載開始にあたって~

2010年12月より開始した連載「データ・デザインの地平」は、9月1日の第44回をもって、一時中断とした。 理由はふたつ。
ひとつは、タイトルに縛られて、データ・デザイン以外のテーマについて取り上げにくい、ということ。 もうひとつは、堅苦しい内容になりそうだったので、せめて柔らかい印象にしようと、敬体(です、ます調)で書き始めたものの、毎回筆が進まず、呻吟していたこと。

そこで、今回からは常体(だ、である)で書く。連載のタイトルは、「ライル島の彼方(Beyond Insula)」とした。
このタイトルなら、どんなテーマでも吸収できるはずである。
ライルの島。それは我々の脳の中にある。

英語版アプリ開発に、会話力は要らない

碁をたしなむ人にはおなじみの言葉「ザル碁」。
戦略も戦術もない打ち方のことである。それでも、碁には違いない。ザル碁打ち同士なら、その楽しさは以心伝心。

これをもじって「ザル英語」。それでも、英語には違いない。そして、英語を母語としない国のユーザー数は、圧倒的に多い。
ザル語使い同士なら、穴からこぼれる応酬でも、意図は通じようというものだ。

重要なのは、ザルであっても、一歩を踏み出すということだ。
英語が海外発信への障壁になっているとしたら、もったいないことである。......と、ザルの主が書いても説得力はないかもしれないが。

英語版アプリの開発には、ヒアリング力も会話力もビジネス英語の語彙も必要ない。
ユーザー数を考えれば、海外公開を躊躇すべきでない。世界のユーザーは、あなたのアプリを待っている(※1)。

開発環境を英語化して、英語に慣れる

筆者は 以前、記事やイベントのサンプル用に、英語版の Windows Phone アプリを開発した。現在も毎日数十本コンスタントにダウンロードされていて、累計は61か国約30,000本になっている。

アプリ開発において英語が必要な部分は、アプリのタイトル、アプリ内のテキスト、概要説明、操作手順、動作環境や禁止事項、の5つである。このうち、機能に直接かかわるものは、アプリ内のテキストだ。メニュー名やボタンの表面のテキスト、メッセージなどだ。

その程度なら機械翻訳を使うほうが手っ取り早いと思うかもしれない。実際、アプリの内容によっては、機械翻訳で事足りることもある。
だが、英語版のみを開発したり、英語版を先に公開する方法には、適しているとは言い難い。正確で翻訳しやすい日本語の原文を用意する、という一手間が必要になるからだ。加えて、機械頼みでは、何本開発しようと、英語が頭の中を素通りしてしまうのではなかろうか。

開発者が一日のうち最も長時間接する開発環境を英語化すれば、開発本数が増えるにつれ、英語に慣れてくるにちがいない(※2)。
また、開発ツールのメニュー名などは参考になる。
たとえば、Visual Studio は、気軽な日曜プログラミングから大規模な業務用システム開発まで、幅広く対応するツールであり、多くの有用な語彙を含んでいる。
メニュー名は、それが表す機能が同じであるならば、アプリが異なっても、むしろ同じほうがよい。たとえばファイルやコピーの機能に、 FILE や COPY 以外の単語を使ったら、ユーザーが戸惑ってしまうのだから。記憶した単語は、そのまま開発に役立てることができる。

しかしながら、OS まで英語版を使うとなると、トラブルが発生した時に、何かと面倒かもしれない。それなら、日本語版 OS の上に、英語版の開発ツールをインストールする方法がある。
プロジェクトに参加する場合は制約もあるだろうが、単独作業の場合はどのような環境を構築しようと問題ないだろう。

ちなみに筆者の環境は 3台、Windows 8.1 Pro 64bit(日)+ Visual Studio 2013 Ultimate(英)、Windows 8 Enterprise 64bit(日)+ Visual Studio 2012 Ultimate(英)、Windows 7 Professional 32bit(日)+ Visual Studio 2010 Ultimate(英)、である(※3)。Microsoft Expression も、ずっと英語版を使っている。
日本語版の Windows Phone アプリも、英語版の Visual Studio で開発した。ストアアプリについては、まだ開発に着手したばかりだが、まず問題はないだろう。

もっとも、読者が本稿を参考にした結果について、筆者は一切の責任を負うものではない。インストールは自己責任でお願いしたい。

さて、英語版のみの開発環境に移行してしまうと、ひとつだけ困ることがある。
技術解説記事を書く際の、画面キャプチャと、解説文中のメニュー名である。商用サイトに寄稿するとなると、画面キャプチャはまだしも(編集者に要相談)、メニュー名は日本語版の表記にする必要がある。

記事を寄稿している開発者は少なくないので、Visual Studio 2013 のメニュー名の日英対照表を、筆者の資材置き場ページにアップした。
csv ファイルなので、Excel で開いて適当に利用してください。

Visual Studio のメニュー名から学ぶ

Visual Studio 2013(以下、VSと略す)の日本語版と英語版のメニュー名を眺めると、いろいろと気付く点がある。大きくは次の3つである。

(1) 単数形と複数形を使い分ける

日本語と異なり、英語では単数形と複数形が厳密に使い分けられている。
「最近使ったファイル」や「最近使ったプロジェクトとソリューション」は、「Recent Files」や「Recent Projects and Solutions」のように複数形である。つまり、表示される候補は 1 個とは限らない。
「エラー一覧」は、複数のエラーがあった場合でも、ひとのリストとして表示されるから「Error List」である。
「MSDN フォーラム」は、多数のフォーラムがあるので、「MSDN Forums」だ。

(2) 品詞にはこだわらない

記事の見出しなどでは、体言止めにするか動詞を使うか、どちらか一方に揃えることは、統一感のために重要である。
が、アプリのメニューでは、あまりこだわらなくてもよいみたいである。
たとえば、Bookmarks(ブックマーク)と Enable Bookmark(ブックマークを有効にする)が混在している。

(3) 機能を表す言葉を選択する

類似の意味を持つ日本語も、英語版では異なる場合がある。
「前に戻る」は「Navigate Backward」、「次に進む」は「Navigate Forward」だが、「前のタスク」は「Previous Task」、「次のタスク」は「Next Task」だ。日本語では、同じ「前」「次」だが、何に対して前なのか次なのかによって、英語の表現は異なる。

「ジャンプ」は、英語版では「Go To」だ。Jump ではない。
「削除」は、慎重な使い分けを要する。VSのメニュー名では、Delete ではなく「Remove」である。「ヘルプの追加と削除」は、「Add and Remove Help Content」だ。
「変換」は、Translation ではなく「Convert」で、互換や転換といった意味合いが強い。「検索」は、Search ではなく「Find」、探索というよりも発見である。
「ソース管理」は「Source Control」、Management ではない。「ページ設定」は「Page Setup」、Settingsではない。一方、「デバッグ」の「オプションと 設定」は、「Options and Settings」だ。
「表示/ツールバー」の「標準」は、初期値を表す Default ではなく「Standard」。「ウィンドウ」の「非表示」は、Invisible ではなく「Hide」である。非表示という状態ではなく、開発者が隠すという主体的な動作だ。
「テスト」の「実行」は「Run」、プログラマーにはなじみのある言葉である。

また、前置詞を使ったものもある。「ツール」の「プロセスにアタッチ」や「データベースへの接続」の「~に」や「~への」は、「to」である。

なごみ系のメニュー名もある。「気に入った機能の報告」は、顔文字付きの「Send a Smile」で、「問題点、改善点の報告」は「Send a Frown」だ。
「Microsoft Visual Studioのバージョン情報」は、「About Microsoft Visual Studio」だが、開発ツールの全般的な情報よりもバージョンの表示が主機能であり、日本語メニュー名の方が狭義である。

以上からわかるように、メニュー名を考えるときは、機能から言葉を引き出す姿勢が重要になる。

ラフデザインの時点から、日英両方を意識する

アプリ開発に必要な英語は、プログラマーだけでなく、デザイナーも知っておいたほうがよい。なぜなら、英語版と日本語版の両方を開発する場合、言語が画面のデザインに関わってくるからだ。
英語と日本語では、テキストの長さが異なる。英語は書体によっても幅が大きく異なる。それらがレイアウトに影響するのである。
Windows 系のアプリ開発でいえば、画像作成だけでなく、各種コントロールのプロパティの設定や、XAML のコーディングにも影響が及ぶ。

英語を意識することなく先に日本語版を開発すると、英語化の際に、ボタンなどの領域にテキストが収まらず、回り込んでしまいかねない。かといって無理やり詰め込むと、ユーザーには不親切なフォントサイズになってしまいかねない。

逆に、日本語を意識することなく英語版を開発すると、日本語化の際に、空間が空きすぎて間抜けな印象になるおそれがある。一方、漢字の画数が多いメニュー名を読みやすくするために、フォントサイズの調整が必要になることもある。
デザインは、配置する対象ではなく空間を見て行うものであるから、ボタン内に占める文字以外の部分の割合、といった空間の面積が異なると、ビジュアルイメージが変わる可能性すらある。

だからといって、英語版と日本語版で異なるレイアウトにしてしまったら、ひとつのアプリとしての統一感に欠けることになる。

どの国のユーザーにとっても、より見やすく、より操作しやすく、より分かりやすい UI を実現するには、ラフの段階から、日本語と英語の両方を意識して、部品のレイアウトを考えるほうがよい(※4)。それはデザイナーの仕事だ。

だから本稿のタイトルは、「開発者のための」とした。
英語が必要なのは、プログラマーだけではない。いや、むしろデザイナーにこそ必要なのかもしれない。

※1「ITエンジニアに必要な英語力」(2013/05/27 配信)も参照。

※2 筆者は 30 年ほど前の数年間、サービスマニュアルの編集に従事していた。図面担当だったため翻訳には無縁だが、就業時間中は日本語を目にすることのない職場だった。その経験から、海外生活経験のない人が外国語に慣れるために必要なのは、「一定の期間、母語が目からも耳からも入ってこない環境」だと思う。

※3 Windows 8.1 は Surface Pro にインストールして、マイクロソフト純正 Mini DisplayPort - VGA アダプターで、21インチディスプレイに接続している。Surface の画面上端がちょうどディスプレイの下端になる。視線移動は上下で済む。

※4 英語版と日本語版のデザインの妥協点については、筆者アプリの英語版と日本語版の画面を見比べると参考になるかもしれない。ただし、動作環境がバージョンアップしているので、現バージョンは公開停止する可能性がある。その場合は、筆者資材置き場から、必要なアイテムをダウンロードしてください。

【英語版】Sensors Set Ver.0.8
【日本語版】センサー計測セット

【英語版】Visual Clinometer
【日本語版】ビジュアル傾斜計

【英語版】Sound Clinometer Ver.0.8
【解説記事】 インプレス"ThinkIT" 「Windows Phone アプリ制作からマーケットプレイス公開までを完全ガイド!」第11回、第12回

 

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