【第五回】 企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 潜在顧客サービス 9事例
前エントリー「企業ツイッター総まとめ」の続き。「潜在顧客サービス系事例」として,対話・貢献(受動)型,探索・支援(能動)型,統合型のステップで国内外の9事例をご紹介したい。
■ 潜在顧客サービス - 対話・貢献型
主としてカスタマーサービス部門が担当する。利用者に自社商品サービスに関係するサービスを提供し,コミュニケーションツールとして活用する方法だ。
対象は自社顧客ないし将来的に自社顧客となりうる潜在顧客だ。まずは問い合わせに応対するパッシブ(受動的)サポートを紹介したい。
1.ダスキン DUSKIN OSOUJI
ダスキンは,大掃除週間となる2009年12月17日から12月28日にかけて,お掃除のことを何でも質問できる「ダスキンお掃除相談室」を,電話とツイッターを窓口として開設した。12日間の限定期間中の問い合わせ数は,電話が478件,ツイッターが54件だった。一日平均で行くと,電話が40件,ツイッターが4.5件だ。
ツイッターの応対体制は,4-5人でのローテーション。200の想定問答集を事前に準備することで効率的な対応を心がけたとのこと。ツイッター利用者は会社員が39%とトップで,ついで主婦24%。女性比率は61%だった。またツイッター利用者に限定すると,今後も電話ではなくツイッターで利用したいという利用者が87%となっており,時間を束縛されない緩いコミュニケーションを望むユーザー層が存在することを示唆した結果となった。
ただしこの無料相談室のビジネスへの成果はまだ明確ではなく,実験段階のようだ。さらに詳しくは次の記事へ。
・ ダスキン,ツイッター効果で年末の電話相談が過去最多に (日経ITpro)
2.H&R Block HRBlock
米国最大の納税申告代理サービス会社であるH&R Block社は,ツイッターによる無料税務相談サービスを開始した。その背景には,新興競合イントゥイット社などに若年層客を奪われており,自社顧客の老齢化に危機感を抱いていたからだ。
当初は,ブロードキャストな利用に留まっていたため反応がなかったが,利用者とオンラインで親密な関係を作るのにツイッターほど便利なツールはないことにH&R Block社は気づきはじめた。そこではじめたのが,双方向フォロー関係を前提としたDMによる無料税務相談だ。すでにH&R Block社では多くの若い納税者や小規模企業との会話を通じて長期的な顧客を獲得しはじめている。またこの事例は,B2Bを含む事例であることも注目したい点だ。
3.OnlineHandyman onlinehandyman
オンラインよろず修繕屋であるスコット・ベッカー氏によるツイッター・アカウント。ここでもベッカー氏は様々な分野修繕テクニックを無料相談することで顧客ベースを開拓している。
オンライン上での評判が高まるにしたがって,本来は地域に根付いたビジネスを展開している彼の元に世界中からDIYの相談を持ちかけられるようになっている。同様のスタイルで仕事をこなしている例として,米国内ではDIY系のDIYアンサーガイ(@DIYAnswerGuy)や建築請負業を経営するサル・ピズーロ(@SalPizzuro)がある。つまり米国ではすでにツイッターは先進ユーザーのものではなくメインストリーム(一般人)のもとに届いているのだ。
例えば電話帳やホームページでこれらの業種を探しても本当に信頼できる業者かどうか判断するのは実に難しく,そのため従来は知人からの紹介が最も頼りになるものだった。今後はツイッター上の活動からその業者の人間性から専門性,さらには利用者の評価まで閲覧することができるわけだ。ブランドの乏しい小企業や個人にとって,ツイッターやブログは最高に雄弁なプロフィールとなることを示唆している。
■ 潜在顧客サービス - 探索・支援型
先進的な企業が採用しはじめた,自らユーザーを検索し,話しかける手法。特にカスタマーサービスの一貫で,困っている顧客を探してヘルプするサービスは「アクティブ・サポート」と呼ばれ,航空業界などを中心に普及しはじめている。
4.ComcastCares comcastcares
顧客サービスがひどいとの悪名がとどろいていた米国大手ケーブルテレビ会社コムキャストは,ツィッター活用により極めて短期間に顧客満足度を9%も上昇させた事例としてつとに有名だ。主人公はツイッター・チームの責任者であるフランク・イライアソン氏だ。自ら率先して,ツイッター検索でコムキャスト製品のセットアップに困っているユーザーを探し出しては徹底した顧客サポートで解決に導いたのだ。
彼が助けた顧客は1年間でなんと2000人にも上り,その多くはその感動(彼は困ったユーザーを自ら発掘し,突然話しかけて解決するので,利用者の多くは感動する)をツイートした。偶然にもそのうちの一人がTechCrunchの編集長マイケル・アリントン氏だったことも有名な話だ。
コムキャストのツイッターチームは現在彼を含め11名,それぞれツイッター・アカウントを持ち,交代制で24時間困っている顧客をサーチしている。コムキャスト社によると,ツイッターによる顧客サポートはコールセンターと比較して遥かに顧客満足度が高いとのこと。
イライアソン氏が主導したボトムアップのサービス改革は,全社の顧客満足度を大きく高めることになった。2009年10月のWeb2.0サミットで,コムキャストCEOブライアン・ロバーツが語った言葉がそれを象徴している。「ツイッターでコムキャストの企業文化が変わった。顧客の苦情を聞き,顧客と人間的に関わるためにツイッターを利用している」
5.JetBlue JetBlue
6.SouthWest SouthWestAir
7.VirginAmerica VirginAmerica
航空機は天候によって大きく運行が左右され,トラブルは大きな事故に結びつく。また機内で飲酒を許しているため,問題が発生することもある。そのため乗客のクレームに常に悩まされ,対応が問われている。
この分野におけるツイッター活用の三大巨頭は,新興のジェットブルー航空,サウスウェスト航空,バージンアメリカ航空で,それぞれ「アクティブ・サポート」をフル活用している。ここではそれぞれの活用事例を紹介しよう。
・ジェットブルー航空 空港内案内事例
ダニエル・ウィリー氏は空港で仕事をしていたが,バックグラウンド音楽がうるさいため電話ができないと怒りをこめてツイートした。するとすぐさまジェットブルーのツイートが届いた。「北コンコースT5はいかがでしょう?」 ウィリー氏は移動したのちに,その感動体験を思わずツイートした。
・サウスウェスト航空 即時埋め合わせ事例
空港にいたポール・コリガン氏は,サウスウェストのフライトを勝手にキャ
ンセルされ後の便にされたことを怒り,ツイートして不満をぶちまけた。コリガン氏が目的地につくと「埋め合わせのために次回のフライトを無料にする」とのサウスウェストからのツイートが届いていた。コリガン氏は感銘を受け,2500人のフォロワーに事の顛末をツイートした。
・バージンアメリカ航空 即時チェック事例
トニー・ヘイル氏は機体が滑走路に向かって走行中に,機内エンターテイン
メントが貧弱だとツイートした。すると4分もたたないうちにバージンアメリカからメールが届いた。機会のエンターテインメントシステムをチェックし,さらにヘイル氏のメールアドレスを調べた上で,機内エンターテインメント番組の現状と改善計画について言及した内容だった。この4分間のマジックに彼は感動
し.バージンアメリカの手際の良さをツイートした。バージンはロイヤル・カスタマーを一人増やす結果となった。
米国航空会社は実に参考になる事例が多い。活用事例や炎上事例など,ぜひ次の記事を参考にしてほしい。
・ ツイッター利用が活発な航空業界における炎上事例と未然防止事例。得られた教訓を総まとめ (3/16)
■ 潜在顧客サービス - 統合型
さらに本格的なツイッター利用のために,TwitterAPIを利用した独自サイト等を構築するなどの高度なアプローチがこのカテゴリーだ。
8.Q&Aなう qanow
QAコミュニティといえばOKWaveやYahoo知恵蔵,教えて!Gooなどが著名だが,それらはすべて独自コミュニティとして運営されているため,企業導入においてはシステム構築やサーバー運用にかかる高コストが課題点だった。このQ&AなうはtwitterをベースにしたQAコミュニティを実現している点で注目される。
機能はシンプルだ。QAなうサイトから質問者が問いかけると,参加者(QAなうアカウントのフォロワー)にツイートされる。回答があるとQAなうサイトに反映され,質問者はそこで複数人の回答をリアルタイムに閲覧することができる仕組みだ。
純粋な自社サービス以外に,プラットフォームとして企業向けASP提供もしており,日刊スポーツが自社QAコミュニティとして採用している。
9.ループス LooopsCom
最後に自社事例で恐縮だが,ループスのツイッター活用をご案内したい。まず当社では管理系を除く全社員がツイッターを活用しており,それぞれが独自の専門分野を持ち,その最新ニュースをGoogle Reader,Reader2Twitter経由でツイートしている。これにより,その最新ニュースは社内にナレッジとして蓄積され,いつでも検索でき,提案やコンサルティングに活用できるような仕組みとなっている。
これをα版として実験的に公開しているのがLooops Trendsだ。このサイトでは当社社員がツイートしている(専門家の目でソーシャル・フィルタリングされている)最新ニュースをいつでも検索できるほか,各社員のセルフ・ブランディングとしての意味も持たせている。
社員によるツイート,Looops Trendsによる情報検索は,いずれも当社の潜在顧客(ソーシャルメディア系のアーリーアダプター)に対するフリー・サービスを目指したものだ。そしてこれはB2Bのフリーミアム・モデルとなり,実際に当社業績に大いに貢献している。
さらに詳しい情報については,以下の記事をどうぞ。
・ LooopsTrendsアルファ版を公開しました (3/29)
・ ループスのB2Bフリーミアム・モデル ~ 自社ソーシャルメディア活用とその効果を公開します (4/1)
以上,「潜在顧客サービス」のカテゴリーに属する9つの国内外事例を紹介した。
次回は「コラボレーション」にツイッターを活用している事例を,数字も交えて取り上げたい。
なお,これらの事例はすべて下記のツイッターリストにまとめてある。常に事例は更新・追加しており,フォローいただければ最新の活用事例ツイートを閲覧できる。
・ @toru_saito/twitter-best-practice
【企業ツイッター,国内外の成功事例を総まとめシリーズ】
・ 第一回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ」 (3/24)
・ 第二回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 対話エンゲージメント13事例」 (3/26)
・ 第三回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション前編 11事例」 (4/2)
・ 第四回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション後編 6事例」 (4/3)
・ 第五回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 潜在顧客サービス 9事例」 (4/8)
・ 第六回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - コラボーレーション 7事例」 (4/9)
・ 最終回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 資料ダウンロードのご案内」 (4/12)
【追記】
この表内では漏れている素晴らしい事例があれば,私のツイッター・アカウント(@toru_saito)あてにツイートしていただければ幸いです。個別に検討し,特徴のある活用事例は適時スライドに追加させていただきたく思います。また当シリーズ最終回では,SlideshareおよびPDFにて事例集を配布する予定です。
【関連記事】
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【参考カテゴリー】
・ 「Twitter」 カテゴリー記事集
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