【2010年2月最新版】直近決算発表に基づくmixi,GREE,モバゲーの業績比較 ~ オープン化は三社業績にどのような影響を与えたか?
日本三大SNSサイトの2009年10-12月期の四半期決算発表が出揃った。
高品質なゲームコンテンツで独走を続けているGREE,アプリ・オープン化によりプラットフォーム色を強めたmixi,自社コンテンツとサードパーティ・コンテンツを混在させたハイブリッドモデルに踏みだしたモバゲータウン(以下,モバゲーと省略)と,3社は異なるビジョンに向かって歩みはじめている。
そしてこの四半期(2009年10-12月)は,その独自戦略が業績に反映された初めての決算期となった。このような背景から,今回調査では,3社のコンテンツ戦略,「オープン(mixi)」「クローズ(GREE)」「ハイブリッド(モバゲー)」という異なるモデルのマネタイズ特性に特にフォーカスし,その業績と戦略を分析してみたい。
なお,この分析レポートは,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を情報ソースとしている。また本年より当社ループスはDeNA社からコンサルティング業務を請け負っているが,そこで知りえた情報は当レポートには含めていない。また当レポートにおいては,できる限り公平な視点で3社を比較することを心がけていることをはじめにお伝えしておきたい。
■ 2009年10-12月,四半期決算の業績比較
まずは各社の財務データの分析からはじめたい。下記の表は,2009年10-12月期の全社損益比較と,SNS事業のみを対象(売上比でmixi社は96%,GREE社は100%,DeNA社は59%がSNS事業)とした売上比較である。表内で水色の部分,前期比は2009年7-9月決算と比べたものだ。
全社業績で見ると,絶好調のDeNA,堅調なGREE,伸び悩みのmixiという構図だ。SNS事業単体で見るとその傾向はさらに強まっており,モバゲーは前四半期比で売上が1.7倍という驚異的な成長を遂げた。特に伸びているのは,オープン化に先立ち発表した内製ソーシャルゲーム(怪盗ロワイヤルやホシツクなど,前5種いずれも大ヒット)で,広告売上(スポンサーからのB2B収入)は101%とほぼ横ばいながら,会員売上(会員からのB2C収入)が229%と急成長したことが大きい。会員売上比率(表内の一番右,会員比率)も73%と,79%の会員売上が売りのGREEビジネスモデルに近づきつつある。
このところ独走状態だったGREEの成長ドライバーも高品質な内製ソーシャルゲーム(釣りスタ,クリノッペなど)だったが,この四半期はモバゲーに押され気味で,前期比120%と好調ではあるののの成長スピードにやや鈍化が見られた。
またmixiは,前期比で売上が107%,粗利益94%,営業利益は71%と伸び悩んだ。利益の減少はオープン化に伴う外部デベロッパー(以降,SAP: Social Application Providerと略)への報酬302百万やシステムコスト増大によるものだ。急増しているアプリ・ページにおける広告収益がほとんど実現されておらず,コストが先行発生している点が大きい。
これは四半期売上の推移を表にしたものだ。表内の水色部分,会員売上が業績を左右するドライバーとなっていることがわかる。この点をもう少しわかりやすくグラフ化してみよう。
GREE(青色)のコンスタントな成長と,モバゲー(緑色)の当四半期の急速なV字回復が際立っている。そしてそのキーとなっているのが両社売上の70-80%を占める会員課金であることが見て取れる。
■ SNSサービスとしての比較
続いて,SNSとしてのサービスを比較してみたい。まずは基本情報となる会員数とページビューの推移を抑えておこう。
3社のページビューに注目したい。mixi,モバゲーともこの2ヶ月(10月,12月対比)で1.6倍弱と急激に伸ばしているのに対して,GREEは上場来はじめてのページビュー・ダウンとなった。GREEのソーシャルゲームは高品質だが品揃えに難があり,釣りスタやハコニワ,クリノッペに飽きたユーザーが,モバゲーのヒット作やmixiの多様なサードパーティ・アプリにシフトし始めていることが原因だろう。
他2社を尻目に内製ソーシャルゲームで一人勝ちを続けていたGREEにとって,このインパクトは大きく,今後の業績が注目される。突然発表されたオープン化施策の背景には,このページビュー・ダウンが影響しているのではないだろうか。
【参考記事】
・ GREEオープン化とは? コネクト技術詳細とmixi/モバゲー/Facebookとの比較 (1/13)
また参考まで,3サービスの会員属性は次のようになる。この四半期で大きな変化はない。
■ 会員あたり売上(ARPU)の分析
続いて,3社のマネタイズ特性を探るために,売上高とページビュー,会員数の比較をしてみたい。
この表の左側は,基礎データである売上高,会員数,およびPC/携帯からのページビューである。オープン化によりmixiの携帯比率はさらに高まっており,前四半期の72%から81%と9パーセントも増加しているのが目をひく。
右側3項目は分析指標で,それぞれ,会員あたりの平均ページビュー,ページビューあたりの売上,会員あたりの売上(ARPU: Average Revenue per User)をあらわしている。
会員あたりの平均ページビューでは,モバゲーが他社を圧倒している。ちなみに前四半期におけるモバゲーの平均PVは38.6回であり,この3ヶ月でなんと2.1倍だ。これは内製ソーシャルゲームの成果であり,ユーザーの熱中度合いをあらわしているものだ。
マネタイズをあらわす指標,ページビューあたりの売上,会員あたりの売上(ARPU)では,それぞれGREEがトップだ。参考まで,前四半期のARPUは,mixi,GREE,モバゲーはそれぞれ,57円,151円,89円であり,やはりこの指標でもモバゲーが前四半期比で1.6倍と大きく伸ばしている。対照的なものはmixiで,他2社と比較して40%程度に留まっており,マネタイズ・パワーで大きな格差がつく結果となった。これはFacebookにも通じるものだが,オープン化は規模拡大のためには最強の武器となる反面,収益性では(少なくとも短期的には)マイナス要素となる可能性がある点に注意しておきたい。
【参考記事】
・ Facebook ビジネスモデルを徹底分析 ~ mixi,モバゲー,GREEと比較 (1/31)
この会員あたりの売上,ARPUをもう少し深く分析してみよう。表の左側は売上高を3つに分類したものだ。この中で「オファー」となっているのは,日本ではアフィリエイト広告,米国ではオファー広告と呼ばれるもので,ゲームをするためのポイントを稼ぐ手段として提供される,クレジットカード会員や他社商品の購入をオファーする広告のことだ。なお,mixiはこのオファー広告の仕組みを自社では持っていない。またGREEは広告売上の内訳を公開していないので,モバゲーに準ずる比率と仮定して算出した。
これを見ると,実は純広告媒体としてはmixiが一番価値が高く,他社の2倍以上,会員あたり55円相当の売上をあげている。これはページ広告単価はPCの方が高いこと,ゲーム比率が低いこととともに,女性比率が高くF1層にリーチできる媒体であることなどが背景にあるだろう。反面,会員課金力は他の2社と比較すると著しく劣っており,収益向上のための大きな課題となっている。
■ 会員100万人のソーシャルゲームを,各プラットフォームでどうマネタイズされるか?
最後に,興味深いシミュレーションをしてみたい。
アクティブ会員100万人のソーシャルゲームを仮定し,mixi,GREE,モバゲーでそれぞれどう収益化されるのかの予想だ。mixiとモバゲーはそれぞれオープン化過程であり,現状と今後を分析している。
GREEはクローズ・モデルなのでシンプルだ。100万人会員のソーシャルゲームがあれば,毎月163百万円の収益をGREE本体があげることが可能となっている。
それに対してmixiはオープン・モデルなので全く事情が異なる。アプリ・ページに対する広告はまだ実験レベルで,会員課金も当四半期では小額に留まっているため,SAP(アプリ・デベロッパー)に対するmixiアドプログラム支払い分が持ち出しの形になっている。つまりmixi本体は▲21百万円と赤字となり,その21百万円がSAP売上としてたつという構図だ。これが2月5日に発表された業績下方修正の最大要因となっている。(今後のSAP配分率は,キャンペーン期間終了に伴い,幾分低下する可能性が高い。またSAP独自の会員課金なども開放しているため,SAPにはmixi以外の収益ルートもある)
ただし今後は徐々にマネタイズされていくはずだ。シミュレーションでは,最大効率となった場合には,mixi本体に49百万円,SAPに80百万円が配分されると予想する。ただしこれは以下の二つの条件を前提としている。
- アプリ部分のページビューも本体ページビューと同等レベルの広告収益を稼ぎ出す
- 会員課金がモバゲーと同等(アバターはないのでアバター関連売上を除外した)まで達する
現実的には1年程度かけてマネタイズ環境を整備し,現在と最大効率の中間点で落ち着くことになる可能性が高そうだ。
最後にハイブリットモデルのモバゲーだが,自社コンテンツとした場合は100万人会員で毎月145百万円の収益となり,オープン・モデルを前提とすると,モバゲーに65百万円,SAPに80百万円の分配となると予想する。mixiと比較すると,オファー広告や会員課金,アバター提供などすでに自社コンテンツを前提としたマネタイズ・プラットフォームが完備している点が大きく,そのためにプラットフォームの収益性も高くなるだろう。また広告収益は,固定報酬としているmixiと比較して,獲得広告売上の70%と変動型にしているため,持ち出しがなくリスクが少ないビジネス設計となっている点も特徴だ。
■ 業績分析のまとめ
1. mixi
オープン・モデルのmixiは,マネタイズ基盤が弱いため当面収益性に課題を持つだろう。強みは媒体価値の高さだ。また他2社と比較するとSNSとしての成熟度が高いため,会員のソーシャルグラフを生かしたアプリが強化されれば独自色が強まっていくだろう。ただし最大のライバルとも言えるFacebook日本上陸で,競争環境はより厳しくなることが予想される。
2. GREE
クローズ・モデルのGREEは,ここ1-2年,驚異的成長を示していたが,オープン化の波に押されてページビューが停滞しはじめた。今後はそれに伴い,成長曲線が鈍化する可能性が出てきている。オープン化は,まずConnect(外部サイトでGREEのIDやソーシャルグラフを活用できる仕組み)から開始されるが,アプリ・プラットフォームの開放タイミングは未定であり,今後の動向が注目される。
3. モバゲー
GREEの台頭により永らく低迷が続いていたモバゲーだが,内製ソーシャルゲームの大ヒットがトリガーとなり,急激なV字回復を実現した。世界でも初であろうハイブリッド・モデルを採用し,実際に1月からはサードベンターによるアプリが開始されている。この新しい仕組みが収益性にどれだけ貢献できるか注目したいところだ。
総論としては,オープン化による規模拡大の流れと,自社開発ソーシャルゲームによる収益貢献の流れがクロスする形となり,大きな変化をもたらした四半期となった。ただしFacebookにも言えることだが,SAPによるソーシャル・アプリはまだまだクオリティが低く,万人が楽しめるレベルまで到達していないのが現状だろう。専業ゲームメーカーの参入もはじまっているが,このソーシャル・アプリの品質向上が果たされるか否かが,SNS業界全体の成長曲線に大きく影響すると予想している。
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