【2011年8月最新版】直近決算発表に基づくmixi、GREE、Mobage、Amebaの業績比較
国内4大ソーシャルアプリ・プラットフォーム、mixi、GREE、Mobage、Amebaを運営する4社の2011年4-6月期決算が出揃った。4サービスを取り巻く外部環境は、多機能携帯の成熟やスマートフォンの急成長、Facebookなど海外勢の急追で、まさに激変期にあると言えるだろう。さらに広告を中心に震災の影響も色濃くあらわれた。それらも踏まえ、業績比較やサービス比較などを多面的な考察してゆきたい。
なお,この分析レポートは,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告,および広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を主要な情報ソースとしている。また、ネットレイティングス社「Neilsen/NetRatings NetView」およびビデオリサーチインタラクティブ社「Mobile Media Mesurement」による視聴データ調査、さらに三菱UFJモルガンスタンレー証券リサーチ資料、ミログ社Android統計データも参考にさせていただいた。
当記事においては,それらの客観的な数値に基づき、できる限り公平な視点で、各社の業績やサービスを比較することを心がけている。
■ 各社の最新四半期(2011年4-6月期)、全社業績比較について
まず、各社の最新四半期決算資料に基づき、企業としての財務分析からはじめたい。
【2011年4-6月期 全社売上および利益の比較チャート】
この中で「前期比」とは2011年1-3月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。売上、利益ともDeNAがトップ。ただし成長率が最も高いのはGREEで、ライバルのモバゲーを急追している。mixiは売上・利益とも大幅にダウンした。売上下降は会計基準の変更(広告売上高をネット計上とした)が大きいが、旧基準で比較しても売上3,671(百万円)、前期比83%となり、二期連続で売上・利益ともダウンとなった。
四社からSNS関連事業のみを抽出し、その売上高を比較したのが次のグラフだ。
【2011年4-6月期 SNS事業売上の比較チャート】
震災の影響が大きい。課金売上は堅調だが、広告売上は明暗が分かれる結果となった。広告売上に関してディーツーコミュニケーションズ、本間広宣氏の見解をご紹介しておきたい。「震災以降、全体的に広告需要は減少した。3月分の広告掲載を止める広告主が相次ぐ中、mixi、Yahooはキャンセルを受け付けなかったのに対して、Mobage、GREE、Amebaはキャンセルを受け付け、同額の出稿を4-6月期にスライドさせた。これにより後者は4-6月期の需要減少を3月のスライド分で補えた。またMobage、GREEにおいては震災の影響が少ないゲームデベロッパーからの広告売上があるのも強みとなった。にも関わらずMobagaの売上が減少したのは、一般広告主のタイアップ(キャンペーン)比率が高かったためと思われる。」
課金売上は、内製ゲーム(自社開発)、提携ゲーム(共同開発)、オープンゲーム(サードパーティ開発)の三種類に分類できる。Mobageを例にとると「怪盗ロワイヤル」が内製、「ガンダムロワイヤル」(DeNA + バンダイナムコゲームス) が提携、「戦国コレクション」(コナミエンタテインメント)
がオープンとなる。Mobage、GREE課金売上のベースとなるコイン消費の内訳を推定したのが下記のグラフだ。上図はMobage、下図はGREE、それぞれ2011年1-3月期までの時系列変化を示している。
【Mobageコイン消費の時系列推移 by 三菱東京モルガンスタンレー証券】
【GREEコイン消費の時系列推移 by 三菱東京モルガンスタンレー証券】
情報元は三菱UFJモルガンスタンレー証券、荒木正人氏の分析だ。GREE、Mobageのオープン化は順調にすすんでおり、特にGREEは開始わずか9ヶ月でオープンゲーム比率41%にまで急成長させた。なお、mixiは100%オープンゲーム、Amebaは逆に100%内製ゲームとなっている。
個別ゲームの推移を見てみよう。Mobageは上位に変動なしだが、GMSがトップ20に複数食い込んでいるのが目立つ。GREEでは、男性向けに「ワル系」、女性向けに「きわどい恋愛系」がヒットしている。既存ゲームメーカーなど大手コンテンツ企業の強さも相変わらずだ。「ドラゴンコレクション(GREE)」「戦国コレクション(Mobage)」などを提供しているコナミは、当期4-6月期でソーシャルゲームが前年同期比3.5倍の78億円となり不調の家庭用ゲーム77億円を超えたと発表し、話題になった。
■ 各サービスのインターネット視聴率および会員属性について
各サービスのインターネット視聴率を多面的に分析したい。まず登録会員数から。
【2010年9月 - 2011年6月 登録会員数推移比較チャート】
会員数でモバゲーの伸びが著しいのはYahoo!Mobageの影響だ。ただしこれらは登録会員数で、実際にアクティブな利用者数ではない。4社の中で唯一公表しているmixiの場合、アクティブ会員数(月に1回以上ログインした会員数)は1535万人、アクティブ率62%だ。他サービスは60%未満と推測される。
続いてページビューだが、Mobageは2010年8月から、GREEは2011年1月からそれぞれ非公開としているため、比較は困難となった。ここでは参考データとして、ビデオリサーチインタラクティブ社の最新統計サマリーを掲載したい。対象はDocomo多機能携帯で、PCやスマートフォンは含まれていない。
【2011年6月 Docomo多機能携帯ベースの視聴データ分析】
【2010年10月 - 2011年6月 Docomo多機能携帯ベースのページビュー推移】
いずれも多機能携帯のページビューはスマートフォンに押されて頭打ち傾向にあり、Ameba以外は微減傾向に転じた。2011年6月時点の端末種別ページビューは次の通り。データを開示しているmixiとAmebaのみを対象とした。
【2011年6月期 端末種別ペーシビューの比較チャート】
依然として多機能携帯からのアクセスが大部分を占めているが、スマートフォン・アクセスは着実に増加、全アクセスの5%強を占めている。またAmebaは、この4社の中では最もPC比率が高いサービスであることがわかる。
さらにネットレイティングス社NetViewによるPCの最新視聴データも掲載しておきたい。分析対象としては、ゲーム系を中心に、mixi、Yahoo!モバゲー、Amebaビグ、ハンゲームをピックアップした。
【2011年6月 PCベースの視聴データ分析】
【2010年9月 - 2011年6月 PCベースの訪問者推移】
4サービスの中ではmixiがリーチ率で圧倒しているが、後発のYahoo!モバゲーも400万人を超え、堅調にユーザーを増加させていることがわかる。
また各社が発表している会員属性(性別、年齢別)も付記しておきたい。ここでは主力としている携帯サービスのみを対象とした。
携帯サービスに絞ると、若年層や女性が際立つ傾向にある。なお、国内主要SNSサービスのPCおよび携帯のインターネット視聴率については、当ブログにて毎月発表している。ご参考まで。
・ mixi, Twitter, Facebook, Google+ 2011年7月最新ニールセン調査 (2011/8)
・ Ameba, GREE, Mobage, mixi, 2011年6月最新VRI調査 (2011/8)
■ 各サービスのARPU比較について
さらに,各社のマネタイズ特性を探るために,会員あたりの月売上高(以下、ARPU: Average Revenue per Userと省略)を比較をしてみたい。
【2011年4-6月期 広告ARPU、課金ARPUの比較チャート】
この表は,各サービスが会員一人あたり月にどのくらいの売上をあげているかを示したものだ。例えばmixiでは、1登録会員につき、広告で27円/月(広告ARPU)、会員課金で10円/月(会員ARPU)、合計37円/月(総ARPU)の売上を上げたということを意味する。
広告ARPUで強いmixiとAmebaは、PCベースがしっかりしている点、女性会員が多い点で媒体価値が高い。ただし、広告ARPUの差異は小さく、業績に直結するのは課金ARPUの差だ。
【2010年3-12月 ARPU推移】
時系列でARPU推移を見ると、Mobageが350円前後で頭打ちとなっているのに対して、GREEがARPUを急伸させライバルMobageを急追した。mixiは広告売上げの会計基準見直しのため、ARPUが大幅に下落した。例えばMobageの誇る人気ゲーム「怪盗ロワイヤル」は、本体Mobage以外にmixiにも提供しているが、Mobage版のARPUはmixi版の約10倍とのこと。収益性の高いオープンゲームにおいては、mixiのようなリアル友人系より、MobageやGREEのようなバーチャル系SNSの方が強いことがわかる。
■ 各サービスのスマートフォン対応について
国内4サービスにとって最大の脅威は、現主戦場である多機能携帯電話が成熟化し、シェアの低下が予想されていること。多機能携帯にかわり最重要ゲーム端末になるのはスマートフォン、iPhoneとAndroidだ。5月10日に発表されたMM総研の調査(リリース)によると、2011年度の国内スマートフォン予想出荷台数は対前年比2.1倍にあたる1820万台。これは国内全携帯出荷台数の47%にもあたる。
このような急激な外部環境の変化を前に、各社ともスマートフォン対応を加速している。下記表に、国内の主要なソーシャルアプリ・プラットフォーマーの対応状況をまとめてみた。
【各社のマルチ・プラットフォーム化 対応状況】
GREE、Mobageの二社は、国内において多機能携帯利用者のスマートフォン誘導に成功しつつあり、現在の高収益基盤を確保しつつあるが、課題は両者とも海外展開だろう。それぞれ目も離せぬ勢いでラッシュを繰り広げているが、今後の見通しに先行き不透明感があるのは否めない。日本発、世界最大のゲームプラットフォームが現実化するか、期待をこめて注視したいところだ。
最後に、Androidアプリを開発するミログ社から提供されているAndroid端末利用実態調査から、SNS関連のAndroidアプリ利用状況を見てみたい。なお、ミログ社のAndroid利用実態調査の詳細は こちら をどうぞ。このデータは日本で利用されているAndroid数万台をベースに、7/16〜8/15までの直近一ヶ月間を対象としたものだ。キャリアはDocomo46%、au38%、Softbank16%と正規分布に近い。
ではまず、アプリの起動台数から。対象はmixi、GREE、Mobage、Ameba、Facebook、TwitterのAndroidアプリ。さらにゲームとして5種類、Mobageからは麻雀、GREEからは釣り★スタ、モンプラ、クリノッペ、ドリランド。Mobage Android版はゲームがMobageアプリ内に内包されているものが多いため、一種類のみのピックアップとなった。
【Androidアプリ 起動台数調査】
この図は、各種Androidアプリの起動状況をあらわしている。例えば、mixiは全端末の13.8%で起動された。言い換えると「mixiアプリの月次アクティブユーザーは、Andorid利用者の13.8%と推定される」ということだ。これを見ると、mixi、Twitter、Facebookが13%台で3トップ、続いてGREE、Mobage。Amebaは出遅れている。GREEやMobage連携ゲームはアプリから起動することもできるが、多くのユーザーはポータルであるGREEやMobageから各ゲームにうつる動線を取っている。現在スマホでゲームをしているユーザーの多くは多機能携帯からの乗り換え組、つまりGREEないしMobageの既存顧客であること、また広告の集中投下により想起率が向上したことなどが理由として考えられる。
つづいて、各アプリの利用頻度を見てみよう。
これは、月次アクティブユーザーが一ヶ月の間に何回起動しているか、平均利用頻度をあらわしたものだ。やはりmixi、Facebook、Twitterのソーシャルネットワーク系が強い。ゲームより友人交流の方が、リピートを促進する効果が強いようだ。またゲームの入り口としてはGREEやMobageというポータルを選ぶユーザーが多かったが、利用頻度を見てみるとポータル、ゲームアプリどちらからの流入でもそれほど変わらないことがわかった。
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【国内外SNS関連】
・ mixi, Twitter, Facebook, Google+ 2011年7月最新ニールセン調査 (2011/8)
・ Ameba, GREE, Mobage, mixi, 2011年6月最新VRI調査 (2011/8)
・ Facebook, Myspace, Linkedin, Twitter 米国最新ソーシャルネットワーク動向 (2011/6)
・ 主要SNSビジネスモデル比較 〜 mixi、GREE、Mobage、Facebook、Twitter (2011/4)
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