【第二回】 企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 対話エンゲージメント13事例
前回エントリー,「企業ツイッター総まとめ」の続きで,活用目的によって個別事例に紹介する第一弾。初回は「対話エンゲージメント系事例」を,対話・貢献(受動)型,探索・支援(能動)型,統合型のステップで説明したい。
■ 対話エンゲージメント - 対話・貢献型
主として広報部門が担当する,顧客との対話交流に主眼をおくブランディングツールとしての活用法。主目的は,顧客とのエンゲージメントを深めることにあり,企業ツイッター活用では最もポピュラーなものだろう。では順に事例を紹介していこう。
1.カトキチ KATOKICHIcoltd
48歳,末広部長による「おそれいりだこし」など独特のツイートで話題になり,「軟式ツイート」(軟式ツイートの詳細は名づけ親,Hyo Yoshikawa氏の「Twitterの「軟式企業アカウント」のツワモノたち」まで)の象徴ともなったカトキチ・アカウント。現在は社名がテー
ブルマークに変更になっている。昨年末の紅白で大ヒット曲「粉雪」のさびにあわせて「かとぉぉぉぉぉきちぃぃぃぃ」とツイート,凄いアクセスを呼んだことでも有名。地味な企業でも工夫次第で人気を呼ぶことができるという典型的な事例だ。
2.NHK NHK_PR
新進気鋭の軟式ツイートで話題。やはりお堅いイメージのあるNHKがこんなツイートを!というサプライズ効果で高い人気を誇っている。仮に単純な番組宣伝ツイートだけ流していたとしたら,おそらくユーザーに見向きもされかっただろう。その意味で企業広報系はぜひ参考にすべきアカウントだ。
3.アフラック manekinekoduck
こちらはキャラ・ツイートの典型事例。大人気CMキャラ「まねきねこダック」にあやかり,あたかもキャラが話しているようなツイートをしている。同様の事例としては,元祖キャラ・アカウントであり45万フォロワーを誇る GachapinBlog や,やはりCMの超人気キャラ,白土家のお父さん WhiteFamily0103 などがある。
4.ポーケンジャパン PokenJapan
デジタル名刺ガジェットを扱うポーケンジャパンのアカウント。製品の特性上,Meetupといわれるリアルイベントを積極的に支援しているのが特徴だ。ベルギー国営テレビの取材要請で,急遽その日の夜のイベント応募をかけたところ30分で20名強が集まったという。
5.Etsy Etsy
ハンドメイドの手芸品に特化した個人売買サイトで,作品を売っているユーザーは25万件にものぼる。フォロワー120万人を超える大規模ツイッターアカウントを運用している。ツイートで特徴的なのは,個人売買されている作品から独創的なものをリツイートすることで,ユーザーをバックアップしていることだ。
ツイッターの販売成功事例としてはDELLのようなアカウントが著名だが,実はオークションや個人売買で,各ユーザーが自由にツイート・プロモーションしているサイトの方が遥かにツイッターパワーの恩恵を受けている。
下記はCompeteが発表したコマース系サイトにおけるツイッターからの流入量をランキングしたものだが,Etsyは31位に入っている。Dell.comと比較すると,訪問者は約1/3であるにもかかわらず,ツイッターからの流入量は8倍と,圧倒的に多いことがわかる。企業発信より個々のユーザー発信の方がはるかに強力になりうるという典型的な事例だ。さらに詳しくはTwitter101をどうぞ。
なお,このアカウントのようにPRと販促をかねているアカウントは多いが,どちらの比重が高いかによって,「対話エンゲージメント」と「販促プロモーション」のいずれかに振り分けている。
6.NY Knicks thenyknicks
米国メジャーバスケットボールチームであるNew York Knicksは,ツイッターユーザーを取り込むための特別企画Tweep Zoneを実施した。
ツイッターユーザー向け特典付きチケット(40ドル)で,ツイッター創業者などによる試合前のパネルディスカッションに参加できるほか,試合後にはなんと選手と会話もできるなどいたれりつくせりだ。ツイッターユーザーがツイートすることによる広報効果を狙った画期的なプロモーション企画と言えよう。
【特別席Tweep Zone,写真は日経BP記事より】
7.SutterHealth SutterEdenMed
SutterHealth
は,米国病院チェーン。新しい病院をつくる前に,現地住民と対話するためにツイッターアカウントを開設,問題になりそうなことなどをツイッターを通じて
しっかり事前に議論した。それに加えて環境への影響や広報プログラム,さらには関連する公聴会や記事の紹介なども欠かさなかった。これにより多くの現地市
民から感謝の声が届き,病院新設への反対意見はほとんどなく無事起工された。ツイッター運用を担当したのは現地PR代理店だ。
8.WholeFoods WholeFoods
米国小売大手WholeFoodsは,店舗連動キャンペーンにより,フォロワーを1年間で100万人にしたことで有名なアカウントだ。販促情報もあるが,
基本的には顧客との対話コミュニーションを大切にし,ニュース以外に顧客からの質問などに丁寧に返答している。また本社アカウント以外に,12の都市
部,200超の店舗でそれぞれアカウントが開設(アカウン・トリスト)されている。
ちなみに100万人を獲得したキャンペーンの一部は次のようなものだ。
- 週一度,お店・時間・秘密の言葉をツイート。先着5名に$25ギフト券
- 毎日,最も面白いホールフーズに関する1ツイートを選び$25ギフト券
- 5ワードで食物に関する哲学をツイート。優秀賞10名に$50ギフト券
- 100万人目のフォロワーに,いっぱいのキノア(穀物)と$50ギフト券
■ 対話エンゲージメント - 探索・支援型
先進的な企業が採用しはじめた,自らユーザーを検索し,話しかける手法。困っている顧客を探してヘルプするサービスが一般的で,アクティブサポートと呼ばれはじめているが,最近は対話ブランディングにもこの手法が用いられている。
9.ネイバー naver_jp
検索サイト「ネイバー」のツイッター・アカウント。担当する金子さんは,ネイバー関係のツイートを積極的に検索し,レスすることで有名になった。(参考記事:NAVER関連のコメントにレスしてまわる「金子さん」って?) 対象はツイッターのみならず,ブログやmixiまで。一日18時間をソーシャルメディア上での対話に費やし,日40-50件のツイートをこなす達人だ。
10.Rubbermaid rubbermaid
食器の水切りカゴなど,どちらかというと地味な生活雑貨を幅広く扱っている創業70年の老舗企業。従来より,商品の大半は量販店などで販売されるため,生活者と直接の接点はすくなかった。そこでマーケティング担当者が考えたのは,このような台所まわりの整理専門家をツイッターでリスト化すること。
・ http://twitter.com/rubbermaid/professional-organizers
現在195人が名を連ね,それを43人がフォローしている。目立たない分野だけに,登録された専門家は感謝の念がわき,自分の知り合いをさらに紹介するようになる。Rubbermaidにとっては,これら整理専門家は自社製品の最高のインフルエンサーであり,彼女たちの直接コンタクトできることはマーケティング上,多くのメリットがある。
またソーシャルメディアで最大の影響力を持つのは,声の大きい企業(広告投資の大きい企業)ではなく,最高の貢献をした企業(最大の信頼,ウッフィーを得た企業)である。このようなリストが定着すると,ライバル企業はより大きな貢献をする必要があり,高い参入障壁となりうる。その意味で先行メリットは大きい。
■ 対話エンゲージメント - 統合型
さらに本格的なツイッター利用のために,TwitterAPIを利用し集約したサイト等を構築するなどの高度なアプローチがこのカテゴリーだ。特にハッシュタグ等でツイートをフィルタリングし,特化した情報を提供する手法が増えてきた。なかでも人の目によるフィルタリングは「ソーシャル・フィルタリング」と呼ばれ,注目されはじめている。
11.ソフトバンク SoftBankCorp
孫社長がツイッターをはじめたのは去年のクリスマスイブ(2009年12月24日)。その可能性に心酔すると,直ちに全社員2万人にツイッターを活用するよう指示したことはつとに有名だ。その直後,2010年2月2日の決算報告会では,ツイッターのみならず,UstreamやBBブロードキャスト,携帯電話でライブ動画を配信し,孫社長のプレゼンスを大いに高めることとなった。
その時にライブ動画も紹介しよう。(音声なし)
Ustreamの横にあるツイッターのタイムラインの流れのスピードの高速さが,いかにこの決算発表会が注目されたかを物語っている。また発表会直後のコメントで,孫社長の素晴らしいプレゼンテーションを褒め称えるツイートが広くバイラルし,同社のブランドバリュー向上に大きく貢献した。
12.Current current
米国メディア企業Currentは,大統領選で候補者たちがスピーチをすると、その途端にツイッター上でコメントが押し寄せることに注目。同社のニュース配信に,ツイートを複合(日本のニコ動のように)しようと考えた。
フィルタリングは二段階。まず10人ほどがツィッターでの討論会関連用語で検索し,問題を含まない発言にタグをつけていく「トリアージ」(内容に応じた優先的な判断)を実行。続いて3,4人がそのリストを見てどれを放送に流すかを決定する「肯定的判断」を行なった。
動画を見たほうが早いだろう。その時の番組紹介CMを紹介したい。
結果としてCurrentは,選挙シーズンの間,従来の放送形式配信ではとても望めないほどの注目を集め,またこのプロジェクトに対する多くのフィードバックも受け取った。この壮大な実験のさらなる詳細は,twitter101にてどうぞ。
13.Zappos twitter.zappos.com
シューズなどファッション商品のオンライン小売,ザッポスは,極めて高い顧客満足を実現した革新的な経営で知られている。また創業者のトニー・シェイ氏はフォロワー氏がツイートするザ@zapposはフォロワー160万人を超えるビジネス界有数のでアカウントだ。
トニーが注目したのは「顧客とのパーソナルかつエモーショナルなつながりを築く貴重なツール」としてのTwitterの可能性だ。そして彼は社員にもツイートするよう社内で推奨し,社員のツイートを集約したポータルも公開した。
ザッポスがツイッターを通じて実践していることは「社員によるピープル・ブランディング」だ。一般常識のブランディングは商品やサービス,利用シーンなどに対して価値やイメージを創りこむものだが,そのような商品と乖離したブランディングは直ちにツイートされて逆効果になりかねない時代だ。
正直に,オープンに,会社と社員とブランドが三位一体になるようなカルチャーこそ,一般生活者が求めているものであり,ザッポスがソーシャルメディアで社員を通じてプレゼンテーションしたいものなのだ。
そしてそれができるのは,ザッポスの理念,社員ひとりひとりの行動や考え方,サイトデザイン,顧客との応対,それによる顧客体験,さらに社内での社員間の交流,トップの立ち振る舞いなど,企業活動すべてにおいて裏表なく一貫したポリシーがつらぬかれているからに他ならない。
さらに詳細は,当ブログにて4回連載で特集したザッポスの奇跡シリーズをぜひ閲覧いただきたい。
・ 米国ザッポス「顧客にWOW!をお届けする」奇跡の経営,その本質を探る
以上,「対話エンゲージメント」のカテゴリーに属する13の国内外事例を紹介した。
次回は「販促プロモーション」にツイッターを活用している事例を,数字も交えて取り上げたい。
なお,これらの事例はすべて下記のツイッターリストにまとめてある。常に事例は更新・追加しており,フォローいただければ最新の活用事例ツイートを閲覧できる。
・ @toru_saito/twitter-best-practice
【企業ツイッター,国内外の成功事例を総まとめシリーズ】
・ 第一回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ」 (3/24)
・ 第二回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 対話エンゲージメント13事例」 (3/26)
・ 第三回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション前編 11事例」 (4/2)
・ 第四回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション後編 6事例」 (4/3)
・ 第五回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 潜在顧客サービス 9事例」 (4/8)
・ 第六回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - コラボーレーション 7事例」 (4/9)
・ 最終回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 資料ダウンロードのご案内」 (4/12)
【追記】
この表内では漏れている素晴らしい事例があれば,私のツイッター・アカウント(@toru_saito)あてにツイートしていただければ幸いです。個別に検討し,特徴のある活用事例は適時スライドに追加させていただきたく思います。また当シリーズ最終回では,SlideshareおよびPDFにて事例集を配布する予定です。
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【参考カテゴリー】
・ 「Twitter」 カテゴリー記事集
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