ツイッター利用が活発な航空業界における炎上事例と未然防止事例。得られた教訓を総まとめ
航空機は天候によって大きく運行が左右され,トラブルは大きな事故に結びつく。また機内で飲酒を許しているため,問題が発生することもある。そのため乗客のクレームに常に悩まされ,対応が問われている。こんな業界事情もあるのだろう。航空業界のツイッター活用は何かと注目されることが多い。
この分野におけるツイッター活用の二大巨頭は,ジェットブルー航空(フォロワー160万人)とサウスウェスト航空(フォロワー103万人)という新興格安エアラインだ。そもそもジェットブルーの創業者はサウスウェスト出身であり,顧客をハッピーにするという共通のサービスポリシーを持っている。そしてこの巨頭に加え,やはり新興のバージンアメリカ航空も積極的なツイッター活用で知られている。
・ 企業Twitterの成功事例を探る~お客様に感動をお届けする@JetBlueと@Teusnerwine (2009/9/17)
それに対していわゆる大手航空会社であるデルタ航空,アメリカン航空,ユナイテッド航空,コンチネンタル航空などは(今でこそツイッターを開設しているが),ツイッターでの顧客コミュニケーションに消極的であり,前述三社と実に対照的だった。新しいテクノロジーを勇気を持って積極的に採用する新興企業と,リスクを恐れ採用に踏み切れない保守的な企業,どこの業界でもある構図だろう。
保守的な企業が恐れたのは「顧客との直接対話」であり,それによる炎上被害だった。一方,ジェットブルーとサウスウェストらは,「顧客のトラブルを自らツイッターで検索し,企業サイドから積極的に困っている顧客に話しかける」という画期的なアプローチを開発し,能動的に顧客とのコミュニケーションを試みた。リスクを承知で,新たな顧客サービスに踏み出したのだ。
さて,では炎上したのはどちらの企業だろうか。
当記事では,航空業界を例にとり,炎上はなぜ発生するのか,そして炎上を防ぐにはどうすればよいのかを考察していきたい。なお今回の事例はすべて2008年以降に発生した最近のものであり,昨日ブログで書評した「ビジネス・ツイッター」,および筆者も共著で参加している「Twitterマーケティング」から抜粋させていただいた。
■ 米国航空業界の炎上事例
その1.デルタ航空,13時間待たされ事例
著名なクリエイティブ・ディレクターであるアンディ・アズラ氏は,デルタ航空の飛行機遅延のため空港で13時間の立ち往生をくらった。憤慨したアズラ氏は,ミーティングや家族団らんの時間を奪われ,埋め合わせもなかったとのメールをデルタ航空に送った。さらに気のすまない同氏は,自らのブログ掲載するとともにツイッターで不満をぶちまけた。このツイートは多くのリツイート(クチコミの伝播)により瞬く間に広まった。
リツイートの際に付け加えられたコメントは「デルタ航空ってこういうとこあるよね。直さないとヤバイよ」「これに対応できないとデルタ航空はマズイことになるぞ」といったものだったが,デルタ航空はこの件について一切返事をしなかったため,炎上状態に陥った。
その2.コンチネンタル航空,離陸失敗事例
コンチネンタル航空がデンバー空港で離陸に失敗し,滑走路をオーバーランするという事故が起きた。乗客のマイク・ウィルソン氏は機内からツイッターで実況中継したところ,またたく間にリツイートされ数千人がそのメッセージをリアルタイムで読むことになった。さらにウィルソン氏は画像を添付し,生々しい事故写真を発信した。これを見たメディアは,コンチネンタル航空が正式発表する遥か前に,ウィルソン氏のツイートと写真をもとに報道をはじめた。
コンチネンタル航空は自身の公式発表が唯一の事故情報源と考えていたために,メディアから多面的な説明を求められ,立ち往生する羽目に陥った。ツイッターの情報は一切無視していたのだ。結局,メディアは,コンチネンタル航空の自分たちに都合の良い公式説明ではなく,ウィルソン氏の生々しいコメントや写真を盛んに引用する結果となった。
その3.アメリカン航空,7時間機内缶詰事例
クリスマスシーズンの真っ最中に米国全土をひどい悪天候が襲った。その結果,多数の乗客が空港で足止めされることとなった。アメリカン航空に機上していたライターのジーン・アン・クレベレン氏と夫,子供2人もその被害者だった。「天候回復の合間に離陸するので着席してほしい」といのアナウンスがあったため,彼女は暇つぶしにツイッターをはじめた。最初はユーモラスなツイートだったが,食事もなく,紙コップ一杯の水で我慢していた彼女は,次第に苛立ちをツイートで表現しはじめた。
2時間30分の足止め後,一端空港に戻ったが,また10分後に機内に戻されたため食事を取る暇もなかった。そしてさらに飲まず食わずで2時間30分待たされたのだ。ツイートがさらに怒りを増していく。その時,クレンベン氏のツイートを見て心配していた友人のブラウン氏は,彼女のメッセージをせっせとリツイートするとともに,友人を助けるためにテレビ局にかたっぱしから電話しはじめた。ブラウン氏はプロのPRエージェントだったのだ。
テレビ局はさっそく取材チームを空港に送り,航空会社はメディアの質問攻めを受けることになった。「なぜこんなに長い時間,乗客を監禁するのか?」その問いにつまった彼等は再度乗客を空港で解放した。クレンベン氏が機外に出ると,乗客開放のきっかけとなった女性としてマスコミがインタビューに殺到した。さてそれからさらに2時間待たされた後,ついにフライトは離陸した。
ポーランド空港の出来事だが,悪天候はその後も続き,断続的に閉鎖と再開を繰り返した。一般メディアとツイッターは相互に補完的な役割が果たせることが認識された。そしてその後数ヶ月の間に,さらにツイッターとツイットピック(写真投稿)が活躍する飛行機関連の事件が起きており,メディアとツイッターの見事なチームワークで,生々しい報道が続く結果となった。
■ 米国航空業界における炎上未然防止事例
その1.サウスウェスト航空 即時埋め合わせ事例
空港にいたポール・コリガン氏は,サウスウェストのフライトを勝手にキャンセルされ後の便にされたことを怒り,ツイートして不満をぶちまけた。コリガン氏が目的地につくと「埋め合わせのために次回のフライトを無料にする」とのサウスウェストからのツイートが届いていた。コリガン氏は感銘を受け,2500人のフォロワーに事の顛末をツイートした。
その2.ジェットブルー航空 空港内案内事例
ダニエル・ウィリー氏は空港で仕事をしていたが,バックグラウンド音楽がうるさいため電話ができないと怒りをこめてツイートした。するとすぐさまジェットブルーのツイートが届いた。「北コンコースT5はいかがでしょう?」 ウィリー氏は移動したのちに,その感動体験を思わずツイートした。
その3.バージンアメリカ航空 即時チェック事例
トニー・ヘイル氏は機体が滑走路に向かって走行中に,機内エンターテインメントが貧弱だとツイートした。すると4分もたたないうちにバージンアメリカからメールが届いた。機会のエンターテインメントシステムをチェックし,さらにヘイル氏のメールアドレスを調べた上で,機内エンターテインメント番組の現状と改善計画について言及した内容だった。この4分間のマジックに彼は感動し.バージンアメリカの手際の良さをツイートした。バージンはロイヤル・カスタマーを一人増やす結果となった。
その4.サウスウェスト航空 機体損傷事例
サウスウェスト航空のフライト時に,機体にバスケットボール大の穴が開いているのが発見された。緊急着陸すると同時に乗客たちは一斉にツイートし,さらには穴の様子を写真や動画(YouTube)で投稿しはじめた。航空会社にとって信頼性を揺るがす危機的な事態だ。その報に接したサウスウェストのツイッター責任者クリスティ・デイ氏は,直ちに企業プレスリリースへのリンクをツイートした。当時のフォロワーは3万人弱だ。そして企業メッセージの内容は,謝罪とともに,すべての飛行機を今晩中に検査すること,すべての乗客の運賃を返還することが宣言されていた。デイ氏の機転により,人々が朝のニュースを見る前に事実に基づいた情報を流すことができ,マスメディアの報道も最小限に抑えることができた。
【機体にあいたバスケットボール大の穴】
■ 事例が示唆する教訓
炎上事例,未然防止事例,これらが示唆する教訓はとても深い。発端となるトラブルはたまたまではなく,いつ発生してもおかしくないものだ。またトラブル時にツイッターやYouTubeが主役になることは必然になった。発信者は普通の人だが,多くの人が回覧するためマスメディアまで伝播することも当たり前の時代になっている。そしてトラブル対応に要する時間は旧来の常識とはケタが違うほど短い。隠蔽工作は往々にして失敗となり,さらなる炎上を招く要因となる。これらを箇条書きにまとめてみよう。
- 企業が好むと好まざるとにかかわらず,生活者は絶えずネット上で企業やブランドの噂話をしている
- 企業がうまくソーシャルメディアを活用すると,ピンチを最小限にし,チャンスに転じることさえ可能だ
- 企業がソーシャルメディアを無視し,交流窓口を持っていないと,炎上は鎮火せず,拡大していく
- 緊急時の意思決定速度と対応力はマスメディア時代とケタ違い。せいぜい2,3時間の猶予しかない
- 旧来型の広報手法や隠蔽する技術は通用せず,油に火を注ぐ最悪の事態を招く可能性が高い
- 顧客対話を恐れず,意思決定は現場に委譲する。また組織横断的なチームが主導する必要がある
- これらの問題発生を企業が避けることはできない。最悪に備え,万全の体制を組むことが肝要だ
さらにトラブル時だけではなく,普段から顧客の声を傾聴する姿勢もかかせない。ダイヤモンド・オンライン記事「フォロワー160万人超の顧客感動創造術!“型破り”米航空会社ジェットブルーは、ツイッターでも先を行く」より,ジェットブルー航空のコミュニケーション・マネージャーであるジョンストン氏の言葉を抜粋して紹介したい。
ジェットブルーのコーポレート・コミュニケーション・マネジャーのモルガン・ジョンストン氏は、マーケティングに限ることなく、顧客コミュニケーションのためにツイッターを活用していると語っている。従来の手法よりもカジュアルに対話でき、非常にすばやく対応できる点を重視している。
ジョンストン氏は、モニターする(monitoring)、エンゲージメントを高める(engaging)、知らせる(informing)、人間性を示す(humanizing)が大切だと言う。ジェットブルーのツイッター・チームは常時ツイッターでの同社に関するツイートをモニターしている。そして何かをみつけると率先して顧客をフォローし顧客に語りかける。つまり、顧客とつながり、顧客の問題にリアルタイムで対応するために、ツイッターでのコミュニケーションに取り組んでいるのだ。そして、顧客をケアし、顧客の声を聞くことがコア(中核的な仕事)と考え、名前の見える人による対話により人間性が感じられる(心が伝わる)ように努めている。
■ 米国航空業界,その後
これらの事例は米国の航空業界に大きなインパクトをあたえた。今ではツイッターの計り知れない影響力を知った古い航空会社も,右に倣えでツイッター活用をはじめている。参考まで,世界のトップ7(デルタ航空からサウスウエスト航空まで)と,新興であるジェットブルー,バージンアメリカを加えて,計9社のツイッター活用状況を表にまとめてみた。
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2~6位までの大手空港会社はそろって昨年春から夏にかけてツイッターを開設した。デルタ航空の開設は古いが,本格的に活用しはじめたのはやはり同時期だ。規模では先行者ジェットブルーとサウスウェストが圧倒している。一週間(2010/3/9-2010/3/16)のツイート数と個別応対率(@で個人に応対しているツイート比率)もあわせて調査した。
デルタ航空,アメリカン航空,コンチネンタル航空と,上記炎上例であげた三者はいずれもしっかり個人応対までしている。熱いヤカンから学んだ教訓を活かしているようだ。なお,エールフランスとルフトハンザは国別に数多くのツイッター・アカウントを活用している。
アクティブさでは週115件(個別応対率82%)のジェットブルーが圧倒的だが,それに続くのが週82件(個別応対率77%)とアメリカン航空である点が大いに注目したいところだ。
最後にひとつ。ソーシャルメディアを活用すればすべて解決するか。決してそんなことはない。あくまでツイッターは便利なコミュニーションツールであるが,主役は人間だ。その点を理解するために,最近サウスウェスト航空で起きた炎上事件を紹介しておきたい。映画監督や脚本家でもあり,ダイハード4出演の俳優でもあるケビンスミス氏によるものだ。ループス社副社長である福田が詳しく調査しているので,ぜひ記事を読んでいただきたい。
・ 個人の発言力を強めるソーシャルメディア ~ サウスウエスト航空で炎上事件勃発 (2009/02/16)
サウスウェストは最善とも思えるフォローをしているが,ケビンスミス氏のような超大物(フォロワーが166万人!,アカウントは@ThatKevinSmith)が登場すると,さすがのサウスウェストでも単純には解決できない。いわばフォロワー100万超,天井対決の様相を示している。しかしこれが他の航空会社だったらどうだろう。きっと同業他社は他人事とは思えず,冷や汗をかいていることだろう。
ソーシャルメディアとハサミは使いようだ。うまく使えばピンチをチャンスに変える魔法のツールにもなるが,失敗すれば火に油を注ぎかねない。ただし忘れていけないのは生活者がソーシャルメディアを手放すことはないということ。企業が好む,好まないはこの際関係ない。そしてソーシャルメディアを活用している人の93%は,企業も参加すべきと答えている。
参加の方法は企業事情によって千差万別で考えるべきだろう。まずはしっかり自社ブランドの風評をモニターすることからはじめ,徐々に会話に参加するのも一つの選択肢だ。競合他社に先駆けて積極果敢に参戦するものありだろう。ハイバリューなブランドは,あえて顧客と距離を保つことでブランド価値を維持できるという視点もある。
タイミングはともかく,企業はソーシャルメディアから目を離せない時代になったことは間違いない。まずは自分自身がツイッターを活用し,生活者の視点をもつこと。これがあらゆる企業担当者に共通する出発点と言えるかも知れない。
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