【第三回】 企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション前編 11事例
「企業ツイッター総まとめ」の続き記事。今回は「販促プロモーション系事例」だ。この分野は17事例あるので2回にわけて,対話・貢献(受動)型の8事例および探索・支援(能動)型の3事例を当記事で,統合型の6事例を次回記事で紹介したい。
■ 販促プロモーション - 対話・貢献型
主として営業,営業推進,マーケティング部門が担当する。顧客に自社商品やイベントなどを案内し,セールス誘引ツールとして活用する方法だ。このタイプの主目的は,来店,集客,商品サービスの販売だ。ただし単純な告知ツールとしての活用は失敗に終わることが多い。では順に事例を紹介していこう。
1.無印良品 muji_net
最近の販促プロモーション活用事例として,まず無印良品の「フォロワー15000人記念セール」をあげたい。午前11時から15時までのわずか4時間で,600人が限定セール商品を購入し,フォロワーも1000人以上増加する大きな成果となったものだ。
その時にツイート状況を下記チャートにまとめた。(左下から右上にタイムラインは流れている)出品した商品は5品プラス福袋。価格は通常アウトレット価格の2割引程度での放出となっている。
原価ギリギリといったところではないかと予想するが,この特売効果は二つの点で特筆に価する。
一つはこのタイムセールがわずか4時間にもかかわらず,15000人フォロワーが,延べ6400クリックし,600人が購入したというコンバージョン率だ。これはリスティング広告や行動ターゲティング広告など,他の有料広告と比較しても極めて高い数値と言えよう。
さらにもう一つは副次的な効果だが,1日で1000人以上フォロワーが増加したこと。ツイッターの広告バナーによるフォロワー獲得コストは一人あたり平均1000-2000円と予想されるので,単純換算すると100-200万円の広告効果となる。しかも今回のコンバージョン率でわかるとおり,無印良品に対する購買意欲満点のお客様だ。フォロワー獲得の手段として,広告バナーより良質なキャンペーンの方がコストパフォーマンスが圧倒的に良いということを証明した典型事例と言えるだろう。
ただしこれらの成果の背景には,もともと無印良品は顧客ロイヤリティーが高いブランドであること,ツイッターでもフォロワーとしっかり対話交流してきたことなどが背景にあるため,単純に手法を真似るだけではこのような効果は期待できない点に注意したい。さらに詳しくは以下の記事をご参考に。
・ 「タイムセールなう」 = 無印良品がtwitterで大成功を (TechWave, 3/9)
2.フジヤカメラ fujiyacamera
中古商品を扱うショップは,商材がすべて限定一品のため,ツイッターとの相性は抜群だ。ブジヤカメラの場合も,他の成功事例と同様に顧客との個別交流を大切にしながら,商品紹介には「中古誘引ビィーム)))」などとファンキーな表現を用いて心憎い演出をしている。
ワールドビジネスサテライトに紹介され,その動画がYouTubeにアップされたために一気にフォロワーが増えたとのこと。店頭販売員,仕入れ担当,営業部の社員がそれぞれ自分の得意分野を担当し,1時間に1件ぐらいわ目処にツイートしているとのことだ。
3.豚組 butagumi
国内の飲食店関係で最も有名なツイッター事例の一つが,港区の豚肉料理店「豚組」だ。オーナー@hitoshiご本人が自ら率先し,表玄関(@butagumi)と勝手口(@hitoshi)を巧みに使い分けるなど先進的なツイッター活用法を開拓している。
さらにその蓄積されたノウハウをセミナーなどで公開されている点も凄い。
・ 「豚組」が培ったツイッターの飲食店向けノウハウを@hitoshiが惜しげもなく公開してた!(NETAFULL, 2/24)
フォロワーごとの「顔」を大切にし,実際にあった時にどうするかを常に考えておく姿勢,そしてオン(ツイッター)とオフ(お店)の会話の連続性など,接客業の達人ならではの心のこもったノウハウが満載だ。勉強になった点をいくつかピックアップするが,ぜひ詳細は元記事を参照してほしい。
・来店の10%がツイッター経由。予約無しでツイッターユーザが一番多かった日は110名のうち46名
・店舗アカウント@butagumiは表玄関。社長アカウント@hitoshiは勝手口という位置づけ
・表玄関は,お店の案内,キャンペーン,公式情報,一般予約窓口
・勝手口は.趣味/冗談雑談,調査/アンケート,裏情報,VIP予約
・社長アカウントはお店と関係ないことをツイート。アンケート活用(社内でブレストするより早い)。予約も受付
・フォローしたいと思ってもらう。豚組の場合は社長がキャラ。裏表なく一日40ツイートで自分をさらしている
・オンとオフの会話の連続性が一番大切。関係はツイッターで完結しない。会った時どうするを常に考えておく
・ネット→お店→ネット→お店と関係性を強めていく。相手の「顔」を大切にする
・VIP→来店→常連。ツイッターにより「来店で関係が始まる」から「来店で関係が完成する」へ
・ツイッターはクチコミ増幅装置。RTから二次,三次のつながりへ,波状効果が高い
・会話を見ている人の巻き込み効果も。飲食店はもともとクチコミで広がるものなのでツイッター親和性が高い
・今までは,認知はメディア(テレビ/雑誌,チラシ,DM,クチコミ)で。来店は「電話・接客」で,推薦は「手紙」で
・今はツイッターだけ。認知→興味→欲望(豚組なう、リプライ、RT)→来店→推薦(お礼)。全てができる
・リーチではなく繋がり。広く浅くのマスメディアは対極で,ツイッターは「狭く深く刺さるメディア」
・× 「今週」「今日」「来週」「誰でも」(常設型/能動型プロモーション)
・○ 「今だけ」「一組だけ」「思いついた」「先着/あなた」(臨時型/ゲリラ型プロモーション)
4.DELL DellOutlet
最も有名なツイッター活用事例,DELLのアウトレットPC販売だ。当初は一方的な販促リンクを流していたが,ユーザーが交流を求めていることがわかり,コミュニケーションも並行して行なうようになった。ただしツイートは日に2回程度。実名顔出しのマネージャー社員,ステファニー・ネルソン氏が1人で運用している。このアカウントでリフォローはしていないが,DMでのやり取りを希望するユーザーは,ステファニー・ネルソン氏のアカウント(@StefanieatDell)での交流が可能となっている。
販売しているのは旧モデルの在庫品など。通販サイトで利用しているディスカウントコードを流用し,ある場合は先着10名に,ある場合は個別客にDMで告知等,様々な販売方法が実験されているようだ。結果として,2007年5月にアカウント運用が開始されてから約2.5年で,このアカウントを通じたアウトレットPCの総売上が650万ドルに達したと発表されている。さらに詳しくは Twitter101 を。
5.WineLibrary WineLibrary
オーナーのギャリー氏は,店員10名の酒屋を10年足らずで100名,年商10万ドルのビジネスに成長させた凄腕実業家だ。オンライン販売開始をはじめたのも1997年と早かったが,ギャリー氏が気がかりだったのは,店舗での常連さんとの良い人間関係がネットでは構築できていない点だ。そこで彼が2006年からはじめたのが,自らが制作し,主演するPodcast番組WineLIbraryTVだ。大変な労力だったが,次第にその独自の語り口やワイン・ウンチクに人気が集まり,1年後には日15000回も閲覧されるという超人気番組にまで成長した。そのクチコミ装置としてメインに活用しているのがツイッターだ。
彼が目指しているのは「ワイン好きが集まるコミュニティ」だ。そして実店舗の常連客が味わうエクスペリエンスをオンラインでそっくり再現したいと日々努力をしている。この熱い思いが,年35%で拡大している彼のビジネスを支えている。
6.CoffeeGroundz CoffeeGroundz
CoffeeGroundzはヒューストンの小さな人気コーヒーショップで,ツイッターを使い始めたのは2008年10月から。彼等の特徴は,ある顧客のニーズから始めたツイッターDMによるテイクアウト注文だ。今では持ち帰り商品だけでなく,テーブルやブース予約,イベント貸切りまでツイッターで行なえる。
例えば犬を連れたお客さんが,ショップのテラス席からコーヒーと犬用の水まで注文できる。その結果,自然とツイッター利用者が集まるようになり,オフ会などの会場になることも多くなった。さらに詳しくは Twitter101 を。
7.NakedPizza NakedPizza
ニューオーリンズで2006年末に開店したビザハウスのNakedPizzaは,商圏5kmの地元密着店だ。ピザ業界の常套手段であるダイレクトメールのコスト高(年間2000-3000ドル)と開封率低下(ヒトケタ台)に悩み,2009年3月から実験的にツイッター利用を開始した。
彼等はツイッター投稿ごとに個別のクーポンコードを張ることで販売効果をトラッキング。さらに店舗内にツイッターコーナーを作り,顧客の新規登録も促進するなど,積極的にツイッター活用を推進した。その結果,開始から約2ヵ月後には店舗最大の売上を記録したが,実にその69%がツイッター経由だった。
最も効果的なのは,消費期限に近いピザの割引販売のようなリアルタイムでお徳な情報だ。ただしセール情報だけ流してはだめで,地域ニュースやトリビア,役立つ話などを交え,ユーザーと会話することが大切であるとコメントしている。
さらに詳しい情報は 当ブログ記事 をどうぞ。
8.RedCross RedCross
天災発生時にツイッターの果たす役割は年々大きくなっている。2010年1月12日のハイチ大地震の際には,12日から14日の3日間で「Haiti(ハイチ)」ないし「RedCross(赤十字)」を含むツイートが230万件もあり,しかもそのうち59%がリツイートだった。その事実でもわかる通り,寄付面で最大の貢献をしたのがRedCross,赤十字だ。
米国では携帯から指定アドレスに「HAITI to 90999」とSMSを送信するだけで,10ドルを赤十字に寄付(請求は電話料金に加算)できる。この「90999」を含んだツイートだけで約19万件ほどあったとのこと,いかにツイッターが善意のクチコミとして機能したかがわかる。販促プロモーションの活用ではないが,巨大な寄付金を集めたクチコミ効果に注目し,この分野に含めてみた。この一例はソーシャルメディア活用において,いかにウッフィー(貢献やそれに基づく信頼)がクチコミのキーファクターとなるかを示唆している。さらに詳しくは以下の記事をご参考に。
・ ソーシャルマーケティングのキーワードは「社会貢献」 (日経ビジネス,2010/2/1)
■ 販促プロモーション - 探索・支援型
販促プロモーションでの対話利用をさらに一歩進め,みずから能動的に利用者にコンタクトする手法をとっている事例を3つ紹介したい。
9.TastiD-lite tastidlite
Tasti D-liteは,ニューヨークを中心に50店舗以上を展開している大手デザート・フランチャイズだ。ツイッターを担当するB・J氏は,ビギナー企業がツイッターを始めるにあたって,3つのM,「モニター(観察)」「ミングル(交流)」「メジャー(測定)」を実行することをすすめている。
実際,彼らもそのステップに従った。まずはツイッターで,生活者が自社や競合製品について何を話しているかに耳を傾けた。やがて「自社ブランドについて話している人たち」や「ニューヨークのデザートニーズに関して話している人たち」と意見を交わしたくなったB・J氏は,彼らをフォローし,DM(リフォローされた場合)やリプライで積極的に話しかけるようになった。
例えば,エンパイアステートビル内で働いている利用者の声から,Tasti D-liteのビル内デリバリーが十分認知されていないことを知ると,すぐに店舗内に看板を置いた。そして顧客の声を次々とサービスに反映することで売上が確実に増加することがわかったのだ。
またツイッター限定クーポンつきの投稿し,それを印刷して店舗で商品と引き換える実験を行い,クーポンの交換率や売上高を追跡した。これらの効果測定を緻密に行なうことで,ツイッターは無料であるにもかかわらず有料広告を上回る数字を挙げられるという結論に達したという。まさに3つのMを忠実に実行し,大きな成果をあげている良事例だ。さらに詳しくは Twitter101 を。
10.TeusnerWine Teusner Wines
社員わずか3人,オーストラリアの小さなワイナリーTeusnerWineでも,ツイッターを能動的に活用している。彼等はまず手始めにワイン関係の用語でツイートを検索し,ワイン業界に関して話している人物や影響力のあるインフルエンサーを見つけてはフォローし,彼らと交流を深めることから始めた。
続いて自社ワインの話している人たちにフレンドリーなメッセージを送り始めた。突然ワイナリーからメッセージが届いた利用者は驚くが,その後ファンになった。そして,その対話を通じて生活者の嗜好に直接耳を傾け,ワイン製造に生かしていく。
さらに利用者のみならずワイン販売店にまで対話の窓口を広げた結果,10を超える小売店が新しく彼等のワインを取り扱うことになったのだ。彼等のマーケティング予算は微々たるものだ。無料のツイッターが小規模企業にとっていかに貴重かがわかる事例だ。さらに詳しくは Twitter101 を。
11.CrowdSPRING crowdSPRING
5万人を超えるデザイナーが世界中から参加し,コンペ形式でクライアントのデザインを作成するクラウドソーシングサイトがcrowdSPRINGだ。この仕組みは実にユニークなので,詳しくは 筆者記事 を参考にしていただきたい。ビジネスとして成立している貴重なクラウドソーシング事例でもある。
当社も以前,このcrowdSPRINGを利用し賞金3万円でロゴを募集した。約70件ほどのデザインが集まった末,エジプトのデザイン会社を採用した新鮮な経験がある。ちなみにcrowdSPRINGの取り分は賞金の15%だ。
彼等は小規模なベンチャー企業で,広告宣伝費はゼロ。そこで共同経営者の2人がツイッターで積極的に集客に活用しているのだ。彼らによると,世界中で毎日何百人もの人が「ウチの新製品のロゴを考えなくちゃ」とツイートとしているとのこと。そのような見込み客を見つけると即座に話しかけ,自社サービスを紹介する。過去数千人と会話し,それで数百人(数百社に相当する)が顧客になったという。しかもその後の受注等もツイッター経由の方が迅速に行なわれて実に効率的とのことだ。
B2Bの分野で,コスト・ゼロで数百社を顧客にできる。小規模企業から見ると夢のような話だが,ツイッターの世界ではそれが既に現実のものとなっている。そして副次効果として「ネットで完結した商売のため,実際よりずっと大きな信頼できる会社に思ってもらえる」と,創業者のキンバロフスキ氏は語っている。
以上,「販促プロモーション」のカテゴリーに属する11の国内外事例を紹介した。
次回も引き続き,「販促プロモーション後編」として,さらに高度な活用をしている6事例をご紹介したい。
なお,これらの事例はすべて下記のツイッターリストにまとめてある。常に事例は更新・追加しており,フォローいただければ最新の活用事例ツイートを閲覧できる。
・ @toru_saito/twitter-best-practice
【企業ツイッター,国内外の成功事例を総まとめシリーズ】
・ 第一回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ」 (3/24)
・ 第二回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 対話エンゲージメント13事例」 (3/26)
・ 第三回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション前編 11事例」 (4/2)
・ 第四回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 販促プロモーション後編 6事例」 (4/3)
・ 第五回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 潜在顧客サービス 9事例」 (4/8)
・ 第六回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - コラボーレーション 7事例」 (4/9)
・ 最終回 「企業ツイッター,国内外の活用事例を総まとめ - 資料ダウンロードのご案内」 (4/12)
【追記】
この表内では漏れている素晴らしい事例があれば,私のツイッター・アカウント(@toru_saito)あてにツイートしていただければ幸いです。個別に検討し,特徴のある活用事例は適時スライドに追加させていただきたく思います。また当シリーズ最終回では,SlideshareおよびPDFにて事例集を配布する予定です。
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【参考カテゴリー】
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