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米国Hondaやサントリー角ハイボールに学ぶ,ソーシャルメディア活用の秘訣

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FacebookやTwitterの驚異的な成長にともない,プロモーションにおけるソーシャルメディア活用の必要性が日増しに高まっている。

しかしながら,ソーシャルメディアは従来のペイドメディアや自社メディアと比較してアンコントローラブルな媒体であり,予算を大量投入すれば成功するという単純なものではない。また失敗するとブランド価値を大きく損なう危険性もはらむ諸刃の剣だ。

そこで重要になってくるのは,ペイドメディア(マスメディア),ソーシャルメディア,オウンドメディア(自社メディア)が相乗効果を醸し出すためのクロスメディア戦略だ。今回は二つの成功事例をピックアップしながら,最高のコストパフォーマンスを生みだすためのクロス作戦を考察してゆきたい。


■成功事例その1 米国Honda 「Who loves a Honda」

2009年8月,FacebookのHONDA公式ファンサイトで "Who Loves a Honda"(ホンダファンは誰だ)は大きな告知なく静かにスタートした。自分自身を始点として,HONDAファンの輪を広げていく,HONDA愛のソーシャルグラフを創るという企画だ。

Honda2

当初想定よりはるかに大きな反響を得たことで,このサイトと連動した短期集中型の大規模キャンペーンを実施することになった。

着火装置はテレビ,ゴールデンタイムに,この"Who Loves a Honda"に参加した実際のユーザー20名強とその繋がりが印象的なCMを流した。

続く中継ぎはCNNやYahooなどWebパナー広告で,そこから"Who Loves a Honda"があるFacebookファン・ページに誘導したのだ。

そしてこの効果は連係は絵に描いたようなバイラルを生んだ。最初のMTV番組CMでは数百人程度に過ぎなかった登録者が,NFLが終わったころには5万人に達し,バトンを受け継いだアンカー走者のFacebookが,ごく短期間で100万人超をバイラル集客したのだ。(その後もバイラルされ続け,現在は200万人を遥かに超える人々がHONDA愛の輪に参加している)

Honda

さらにこの成果を受け,HONDAでは自社サイト"love.honda.com"を立ち上げ,単発イベントではなく継続性をもった顧客エンゲージメントを築こうとしている。ただし責任者のPeyton氏は 「このサイトでファンの個人情報を集める古いアプローチをするつもりはない。我々はこの種のアプローチで何が許されるか学んでいるからだ」 と発言している。

【参考記事】
「200万人を繋いだ!HONDAのソーシャルメディア・プロモーション」

 
■成功事例その2 サントリー 「角ハイボール」

国内でクロスメディアを絶妙につなげることで大成功した典型的な事例が,サントリーの「角ハイボール」だ。

2008年4月に小雪をCMキャラクターに起用,「ウイスキーはお好きでしょ」で角ハイボールを告知しはじめたサントリーは,居酒屋をターゲットとした大規模なリアル店舗展開と,並行したクロスメディア戦略で,低調だったウィスキーを若者への訴求に成功し,新しい需要を創造した。

このケースでは,クロスメディア戦略に加え,大規模なリアル店舗への営業展開で,相乗効果をさらに加速させている。

Suntory

ネット上では,テレビCMで認知を高めた後に,Yahooやリスティング広告で自社サイトに誘引,さらにYouTubeやブログで大規模なバイラル化に成功している。それと同時に,営業が開拓したリアル店舗を自社サイトで公開して誘導,リアル店舗での体験がさらにソーシャルメディアでクチコミされているという見事がクチコミの動線が設計されている。

バイラル化のためにはキラーコンテンツが必要だが,その役目を果たしたのが小雪の「おいしいハイボールのつくり方」だ。

この動画は,YouTubeだけで120万回以上も再生されたバイラルムービーだ。

さらに隠れたキラーコンテンツは,リアル店内でのPOP展開だ。シズル感あふれるポスター,角ハイボールを絶妙に仕上げる専用マシン,角ハイボール・ジョッキグラスなど。これによって店舗メニューも「ハイボール」ではなく「角ハイボール」と限定されたイメージで普及がすすんだのだ。

Suntory2

そして自社メディアでは,「おいしい角ハイボールのつくり方」,「角ハイボールにあう料理(ベーシック編,季節編)」,さらにはユーザー参加型の「みんなで作る角ハイボールマップ」など,新しい試みを次々と展開している。

結果として,2008年9月時点で6200店だった取扱店舗数は,2009年11月時点で5万8000店と約9倍近い驚異的な伸びを見せ,角瓶の売り上げも2009年1月から11月で前年同期比24%増を記録。昨年10月からコンビニエンスストア限定で発売開始した「角ハイボール」も絶好調だ。この1月26日からはコンビニエンスストアだけでなく,スーパー,酒量販店など全チャンネルに拡大し,発売当初の目標は56万ケースに対して,約3.6倍,200万ケースに計画の上方修正がされている。さらに角瓶に牽引される形でウイスキー市場全体も伸び,同期間で市場は前年同期比9%増と,約25年にわたって縮小を続けていたウイスキー市場にとってV字回復のトリガーとなる勢いだ。

【参考記事】
炭酸割りでウイスキー復活 (日経ビジネス Online)
角ハイボールプロモーションに学ぶこと (泡盛なかゆくい)
「角ハイボール」,人気の秘密は? (シゴトの計画)

 
■ 各メディアの特性を活かしたクロスメディア戦略

これらの例を参考に,ペイドメディア,ソーシャルメディア,オウンドメディアの特性と活用のポイントをまとめておきたい。

1.ペイドメディア (注目を集める)
プロモーションの初期着火のために欠かせない役割を持っている。マスメディア活用について新たに特記することはないが,Hondaキャンペーンのように,ソーシャルメディアと連係させたテレビCMなどは新しいアプローチとして注目される。

2.ソーシャルメディア (クチコミを広げる)
ペイドメディアの初期集客を,ソーシャルメディアのバイラルパワーに引き継ぐ。ただしクチコミには「キラーコンテンツ」が必要となる。現在,日本市場で特に意識すべきソーシャルメディアをピックアップしてみよう。

・ ブログ
日本は世界で最もブログ普及のすすんだ国であり,最重要なソーシャルメディアだ。組み込みを容易にする工夫,ブロガーのインセンティブ設計(金銭授受はご法度),ブロガー参加イベントなどをすべてのプロモーションで検討すべきだ。またブロガーの25%はTwitterを補完的に活用しているため,Twitter活用も同時に検討すべきだろう。

・ Twitter
クチコミ伝播とブロードキャスティングで大きな効力を発揮する。ただし現時点ではアーリーアダプターまでの普及のため,媒体の偏りに注意する必要がある。またアカウントを持った場合,顧客コミュニケーションを避けることは困難であり,しっかりした運用体制が必要となる。

・ YouTube
CM動画をキラーコンテンツとするときに最強ツール。ブランドチャンネルによりハーフオウンドメディア(ソーシャルメディア内の自社メディア)を持つことができる。

・ mixi
プロモーションで使い勝手がよいのはmixiアプリだ。話題性の高いアプリを投入すればコストパフォーマンスのよい集客効果が期待できる。携帯アプリは外部サイトに誘導できないためPCアプリからオウンドメディアに誘引するのが効果的だ。

・ Facebook
日本においては普及が遅れており,Twitter以上に媒体の偏りがある(現時点では調査目的のユーザーが多い)点に注意したい。ただし世界100ヶ国以上でトップSNSとなっているため,今後急速に普及する可能性が高く要注意。ファンページによりハーフオウンドメディアとなるので,ユーザーが増加してくると,動画,アプリ,写真など多様なコンテンツのハブサイトとしての役割を持つようになる。

・はてな
特に日本最大のシェアを持つはてなブックマークは一時的なアクセス増加に強力なツールとなる。注目エントリー,人気エントリーと一定のブックマークを獲得すると閲覧回数が飛躍的に伸びていく。

3.オウンド・メディア (ファンとつながる)
最終的には自社サイトに誘導したいと願うのは企業にとって当然だろう。クチコミ動線の中における自社サイトを役割は次のようなものだ。

・ キラーコンテンツの発信地
常に最新コンテンツをアップし,それを1アクションでブログやTwitter,はてなブックマークに流すための機能を組み込むことが重要だ。

・ 詳細なスペック情報の提供
製品やサービスに関する最も詳しく情報を記載する。

・自社ブログの提供 (オプション)
製造担当者,営業担当者など,社員の顔が見えるアプローチは,企業やブランドイメージの向上に役立つ。ブログを提供する場合には,あわせてTwitterアカウントの開設を検討したい。

・ 自社コマースの場を提供 (オプション)
自社商品を直接販売する場を提供する。できればユーザー・レビューを公開し,透明性とソーシャルメディアへの積極性をアピールすべきだ。

・ 自社コミュニティの提供 (オプション)
自社ユーザー交流の場を提供する。目的は顧客エンゲージメントであり,一時的なキャンペーンではなく長期的な顧客との信頼の絆を醸成したい場合には有効な手段だ。ただし無目的なコミュニティはご法度。製品開発 → ファン醸成 → ソーシャルコマース → カスタマーサポートとサイクルさせることにより,最大の効力を発揮することができる。ハーフオウンドメディア(ソーシャルメディア上のコミュニティ)との違いは,ユーザー会話の分析などデータをマーケティング活用できる点だ。

これらのクロスメディア活用により,統合的なクチコミ動線を設計することが肝要となる。

Crossmedia

全体のクチコミ動線をいかに効率的に設計し,キラーコンテンツによりバイラルを起こしてゆくか,これからのプロモーションの大切なポイントとなるだろう。自社活用の際には,特に先行している海外成功事例,失敗事例を元に企画をたててゆくことをおすすめしたい。


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