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契約書に振り回されるな 【非ベンチャー起業法~その7】

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組織を離れ、フリーランスで活動しようとか、あるいは起業しようと一歩踏み出した瞬間から、自分のことを守ってくれる人は誰もいなくなります。

今日はビジネスのタイマン勝負、すなわち『契約』のお話です。

契約を語る上では、まずはとにかく法律です。特に民法が避けて通れません。

契約書は、たいてい

  • 同時履行の原則の覆し
  • 善管注意義務の覆し
  • 危険負担の覆し
  • 損害賠償義務の覆し

といったように、民法をベースとして、それを当該契約でこのように覆す、ということが書かれています。なので、民法が分からないと、この契約書が何を気にしているのか、の本筋が見えてこないのです。

なので

フリーランス、会社経営をやるのなら民法を勉強しましょう!

と。

ここでおしまいでもいいのですが、短いのでもう少し書いてみます。


■契約書に振り回されるな

一人で経済活動をしていると、契約書に判を押すというのは本当に怖いものですが、しかし、契約書などというものはビジネスにおいては道具に過ぎません。「道具に振り回されてはいけません」という1つのエピソードをば。


私が会社を始めて間もない前世紀末、ひょんなことから社員数50人くらいのやや大きな衣料品メーカーの業務システムの開発を相談されました。

まだほとんど実績のなかった私は喜んでヒアリングさせていただいて、約300万円の見積を出しました。納期は半年くらいにしたと思います。

すると、先方の社長さんは、「その金額はよい」としながらも、契約条件を提示してきました。

  1. 着手時に100万、中間でもう100万支払う
  2. 残金の100万はシステムが完納したら支払う
  3. もしシステムが一部でも完成しなければそれまで支払った金額は、全額返金してもらう

さて、みなさんはこの条件についてどう思うでしょうか?

私はこう考えました。

「これだと3の条件によって細かい難癖をつけられてまったくのただ働きになる可能性があるぞ。そんなリスキーな契約は到底受け入れられないっ」

それで、私は、3の条件を消して頂くように交渉しました。

何度かメールでやりとりしたのち、社長は最後にこうおっしゃりました。

「それじゃあ返金はいい。その代わりに親御さんか誰かの個人保証を付けて欲しい。」

これは意訳すると

「めんどくせえな!おまえの会社なんて会社と認めないから、お父さんに保証人になってもらえ!」

というかなり失礼な話で、より条件は悪くなっているように取れます。すなわち事実上の「破談宣告」です。

300万のお仕事といえば、独立したばかりの私には喉から手が出るほど欲しい仕事でした。プログラマは原価がタダですから、それだけで年収300万確定なのです。

それを、なんだかつまらないことでこじらせて、フイにしてしまいました。

しかし、当時の私は、決して自分の非を認めませんでした。

「惜しいことをしたけど、間違ってない」「無礼な会社と付き合わなくてよかった」

と。。。



■どんな不利な状況が起こりえたのか?

今、冷静に立ち返って、先の契約条件を飲むとどんな不利なことが起こりえたのでしょうか?

先方の社長が実は悪い人で、さんざん働かせた挙げ句、納品間際になって軽微な不具合をつついて、「もう出来そうにないからいいわ。今まで払った200万を返して」と要求される

私が怖れていたのは、たぶんこんな事態です。

しかし、現実にはこんなことがおきるはずが無いです。

・社長にそんなことをするメリットがない。
 私が仕事を完遂できず、契約を解除し、返金させるような事態になったとして、社長には何のメリットもありません。メリットがないどころか、そんな事態は彼にとっても最悪です。システムの開発では、打ち合わせだって何十時間もかけるので、時間も労力も、まったくのかけ損です。


・個人に毛の生えたような会社に先に渡してしまった200万など取り返せるはずもない。
 現実問題として、200万を先に渡してしまって、「返せ」と言って返ってくるはずがありません。大抵使っちゃってます。また、まがりなりにも会社なわけですから、あまり追い込んで「会社やーめた」と潰されてしまったら、個人になってしまった私にいくら返せと迫っても法的になかなか難しいものがあります。そんなことは、経営の大先輩はわかっていたはずです。


・もし本当に信用してないなら、着手金も中間金も支払わず、完納時一括払いとなる。
 通常、本当に「こいつは信用できない」と思ったら、「前払い」みたいなことはしません。納品前に2/3を支払おうなんて言うのは、相当私を買ってくれていたか、あるいは応援してくれていたのだと思います。社長は新しく起業した私を応援しようと、かなりのリスクを負ってくれていたのです。


・起きないトラブルを前提とした罰則条項を恐がるのは不合理
 そもそも、私はその仕事を完遂する自信がありました。なのに、「一部が完成しない」という状況が前提の罰則条項をことさら恐がっていました。社員や外注に頼んでいるのではなく、私がやればいいのですから、不確定要素は非常に少ないのです。この絶対勝てるギャンブルに乗っかれないようではチキンもいいところです。


総合的に考えると、この契約は、『覚悟を決めて一緒にこのプロジェクトを成功させよう』という、社長さんからの熱いプロポーズであったのです。

「こっちも前払いのリスクを抱えるから、そっちも覚悟決めろよ。まあこんな契約では、明らかにこっちが不利でそっちはほとんどリスク無いんだがな。」

という、ありがたい申し出であったのに、ハリネズミのような防御姿勢で撃退してしまった私はいったい何をやっているのか、ということです。


契約は人と人との「心と心のお約束」ですから、契約の条項そのものよりも心の目を良く開いて、その人の置かれている立場、心理的な背景をよく見ることでしょう。

「喰いに来ている敵」を見分けるのと同じように「盃を差し出してくれている味方」も見極められなければ、よいビジネスの種をみすみす逃すことになります。

いろいろ失敗を重ねまして、今の私は、相変わらず契約書の細かい条項までしっかり読みます。が、その条項を読んだ上で、条項そのものよりも、なぜこの人はこういう契約書を出してきているのか、を見ようとします。

その背景が見えれば、一見不利に思える条件が特段怖れることはないとわかったり、お互いのメリットになるような条項に書き替える交渉ができるのです。



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