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「脳内ビジネス」の話はまたにします!

会社の目標は操作主義ではないのか?

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我々のような中小のシステム開発会社というのは、いろいろな脅威と戦っていますが、もっとも畏れているのが、大手でもなく、海外の会社でもなく、フリーの個人プログラマーです。

個人プログラマーは、基本的に自宅で活動し、固定費がほとんどかかりません。中にはものすごい技術力があるにもかかわらず、1ヶ月20万円という報酬額で仕事を引き受けている人もいます。人によっては、それをマルチタスクで回すことで、高収入を得ている人もいます。労働基準法も何も関係ありませんので、1日20時間とか働く人もいます。

もちろん、こういう人たちは、その後怒濤のように仕事を依頼されることになり、健康と精神の安定のために、自分で仕事量をセーブするか、単価を市場価格近くまで切り上げるかという選択を余儀なくされるのですが、それまでは、私たちにとっては、非常に脅威となるのです。(そして一人撤退しても、次から次へと出現します)

我々は、そんな中、お客様にきちんと組織で活動していることのメリットを説いて、アピールしていかなければいけません。

つまり組織で継続的に開発をやっている、ということは、

  • ノウハウの蓄積
  • 担当不在時も対応可能
  • チームによる技術力補完
  • 製品保証および損害担保能力

といった大きなメリットがありますので、そこを強化してアピールしていくということです。比較広告ではなく、絶対的価値のアピールですね。一歩間違うとイヤらしいですので注意が必要です。

しかし、前にも少し申し上げましたが、特に開発会社というのは、そこで働く技術者にとっては組織のメリットがかなり見えにくく、また、王より強力な神が存在することにより、常に地盤が流動化しているような状態です。

そこで強烈な会社目標なり社是なりを作って、社員を一致団結、引き締めよう!という動きが生まれがちです。

弊社でも過去何回か、社員から「そういうの作った方がいい」と言われたことがあります。

しかし、どうも違和感を感じて、あれこれ考えた挙げ句、結局その時は作りませんでした。

しかし、本当のところはどうなのだろう?作った方が社員はまとまるのだろうか?でも、それをすると何か大きな物を失う気がする...。と悩んでおりました。

田坂広志氏は、著書「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」の中で「操作主義」についてこういいます。 

操作主義のマネジメントによっても、「部下が動く」感じられる場合があります。

(略)

第一は、部下がまだ若く、人間を見る目が浅いため、マネジャーの表面的な気配りに幻惑されて動いてしまう場合です。

第二は、部下がマネジャーの人事権や決裁権を意識し、それに従っている場合です。

第三は、部下の側にも「計算」が成立している場合です。

(略)

(このような組織は明らかに弱体化します。それは、)この操作主義のマネジメントの結果、この組織で働く人材が、精神的に未熟な人材か、権力に追従する人材か、打算で動く人材だけになっていくからです。

・・・「なぜマネジメントが壁に突き当たるのか」 p.222~p.223 より引用(一部補完)

これは、私が心の中にあった違和感を見事に整理してくれました。会社のわかりやすい目標を立てて、社員をまとめようとするのは、操作主義的な考え方です。

会社の目標を立てると、確かに社員は安心すると思います。しかし、同時に大きなデメリットをもたらします。

・形式主義になり、自分の頭で考えなくなる
 これをやっておけば怒られない、これをやることで十分求めに応じていることになる、と考えがち。

・それを自分のいいように利用する人が出る
 無用なセクショナリズムを生んだり、マネージャーが部下を操作することに利用したりする。

・経営層と従業員の意識乖離が起きる
 目標によっては、社員にとってそれが正義だとはどうしても思えず、白けた雰囲気を生む。

・目標を達成できなかった時、求心力の崩壊が起きる
 次第に、「目標なんてどうせ達成できないのだからあっても仕方ない」と感じるようになる。

逆にこのようなデメリットが起こりえない社是なり社訓であれば、作っても良いと思いました。

つまり、

 

  • 抽象的かつ観念的なもので、それだけでは何をどうすればよいのか分からないもの。
  • それが達成できたのかどうかが明確に分からないもの。
  • それでいて、会社の進むべき方向性をしっかり指し示しているもの。
  • それを目指さないと、そもそもこの組織に居る意味ないよ、的なもの。

なら良いのではないかと。「なら良い」というか、「作る価値がある」ですね。

例えば、「年間売上10億円!」とか「関東一円100店舗!」とか「お客様は神様です!」という会社目標は、操作主義な気がします。そこで働く社員にとっては、「俺たちゃ知らんがや」になりがちで、組織力は却って落ちるのではないでしょうか?

いや、それでも社員は、役者として自分に与えられた脚本は演じなければならないのですが、頭のいい社員ほどその劇が馬鹿らしくて、真面目に演じ切らない気がするのです。

しかし、口に出すのも大変おこがましいのですが、私の会社と同じような方向性を持っていた初期のリクルートの社是はこうでした。

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」

これは、ハンパないです。こういう社是であれば、是非作りたいと思いますね。いや、そのまま使ってしまいたいくらいです。

ただし、小泉元首相も言っていたが、会社もいろいろです。

具体的な数値目標をガンガンに打ち出して、社員も伸び伸びやる気を損なわず、そして業績も伸び、お客様に貢献できているという会社もあると思います。一概に、どうしないと上手く回らない、どうすれば上手く回るというものではないのは分かっているつもりです。

 

ああ、ちなみにですが、今はこんな社是を掲げています。

「すごい、を、うれしい、に」

初期のリクルートさんの社是とは全然違いますが、一応上記のようなことを考えて作ったものです。お客様にも社員にも同じ事を言えるというのが、ひとつポイントかな、と思っています。

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